消えない灯り
彼が眠っていたのは、三日と半日だった。
医者は、魔力の消耗と極度の疲労だと言った。命に別状はないと。それでも、私は、生きた心地がしなかった。
オスカー先生と仲間たちは、警備隊に引き渡された。会長が、すべてを手配してくれた。
私は、医務室のベッドの脇にずっと座っていた。
ときどき、カイゼルが来て黙って温かい飲み物を置いていってくれた。ギャラントも、ぶっきらぼうにパンを差し入れてくれた。
けれど、私は、ほとんど彼の手を握って離さなかった。
三日目の夜。
窓の外に月が出ていた。
「…………ん」
握っていた指が、かすかに動いた。
「……ラウリ先輩?」
濃い青の瞳が、ゆっくりと開いた。
「……リリー……?」
「ラウリ先輩!!」
思わず、抱きついてしまった。
「よかった……よかった、目が覚めた……! 本当に、よかった……っ」
「わ、リリー、苦し……あはは、待って、待って……」
彼は、私の背中をぽんぽんとあやすように叩いた。
「心配かけちゃったね」
「本当に、そうです! もう、二度とこんなこと……!」
泣きじゃくる私を見て、ラウリ先輩は、少しだけ目を伏せた。
「……情けないな」
「え?」
「かっこよく助けて、君を安心させるはずだったのに。倒れちゃうなんて。……格好悪いよね、僕」
耳まで赤くして。
いつも太陽みたいに笑っている人が、眉を下げて恥ずかしそうに俯いていた。
「情けなくなんか、ないです」
彼の手をぎゅっと握る。
「先輩は、私を二回も助けてくれた。呪いから。それから、暗い場所から」
「リリー……」
「先輩は、世界で一番かっこいいです」
ラウリ先輩は目を見開いて。
それから、ゆっくりと体を起こした。
私の手を両手で包み込む。
「あのね、リリー」
「はい」
「僕、いつも、明るい人って言われるんだ」
彼は、少しだけ遠くを見た。
「ムードメーカーって。それが、僕の役目だと思ってた。笑ってれば、みんな安心してくれるから。……でも」
濃い青の瞳が、私に戻ってくる。
「君の前でだけ、うまく笑えなくなる。君が泣いてると、胸が苦しくて。君が笑うと、それだけで世界が明るくなる」
心臓が、どくんと鳴った。
「君みたいに、まっすぐに泣いたり怒ったり頑張ったりできる人が、眩しかったんだ」
「……先輩」
「リリー」
彼の声が震えた。
「君が好きだ。呪いのことも、そうじゃなくても、関係ない。ただ、君のことが好きなんだ」
涙が、ぽろぽろと頬を伝った。
「私も好きです」
声が掠れる。
「ラウリ先輩のことが、好き。……あの日、光の粒をくれたときから、ずっと」
「え、そんな前から?」
「ずっとです」
ラウリ先輩の顔が、ぱあっと光を灯したみたいに輝いた。
「……嬉しい」
彼の手が、私の頬に触れた。
濃い青の瞳が、近づいてくる。
「リリー、目、閉じて」
私は、そっと目を閉じた。
――やわらかくて、あたたかい光。
唇が触れた瞬間、体の奥から金色のものが、溢れ出した。
ずっと、私の中にあった冷たくて重たいもの。
それが、朝日に溶ける氷のようにゆっくりとほどけていく。
唇が離れると、ラウリ先輩は目を見開いて私の周りを見つめていた。
「……見える」
「え?」
「靄が……君の中の、黒い靄が……光に溶けていく」
彼の目から、涙が一筋こぼれた。
「消えた。全部、消えたよ、リリー」
「……本当?」
「うん。もう、どこにもいない」
私は、自分の手を見つめた。
「……終わったんだ」
「うん」
「呪い、終わったんだ……!」
ラウリ先輩が、私を力いっぱい抱きしめた。
私も、彼の背中に腕を回した。
窓の外の月が、二人を静かに照らしていた。
その日以来、私の呪いが発動することは、二度となかった。
お読み頂きありがとうございます!
これにてラウリ本編終わりです。
このあと後日談2話+バッドエンド1話更新後、カイゼルルートに入ります。




