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人形姫と四つの口付け  作者: かん
人形姫の呪いと、光の約束(ラウリ ルート)

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31/54

引き出しの中の白い粉

 文化祭まで、あと数週間。


 生徒会は、予算の集計と出店の調整に追われていた。

 会計のラウリ先輩は、目が回るほど忙しいはずなのに、いつも笑っている。


「リリー、この束、三番の棚に!」


「はい!」


「あ、それ終わったら部室に行こう。研究部の出し物も、準備しなくちゃ」


 魔道具研究部の展示。私は、火を使った魔道具を作ることにした。


 小さな炎を閉じ込めて、色を変えながら灯り続けるランタン。名前は、『灯火のランタン』。


 最初は、失敗ばかりだった。炎が暴れて、ガラスにひびが入った。色が変わる前に、消えてしまった。


「先生、また、割ってしまいました……」

「いいんだよ、リリーくん」


 オスカー先生は、割れたガラスを片付けながら穏やかに言った。


「君の炎は、素直だ。魔道具は、素直な魔力が一番いい。失敗は、記録すればデータになる。次に活かせるよ」


 その言葉に、どれだけ救われたか。


 先生が淹れてくれる紅茶は、いつもほっとする味がした。私は、この部とこの先生が大好きになっていた。


     *


 その日の放課後、部室には、ラウリ先輩と私だけだった。


「ねえ、リリー。この魔道具、ちょっと改造してみてもいい?」


 私の『灯火のランタン』を眺めながら、彼が言った。


「改造ですか?」

「うん。光の魔石を組み込んだら、君の中の靄が、もっとはっきり見えるようになるかも。呪いを探る道具に、できるかもしれない」

「すごい! やりたいです!」

「じゃあ、細工用の道具が要るね。先生の机の一番下の引き出しに入ってるって言ってたはず」


 先生は今日、職員会議で不在だった。「道具は自由に使いなさい」と、言われている。


 私は、机の引き出しを開けた。


「あった、彫刻刀と……あれ?」


 道具の奥に、見慣れないものが押し込まれていた。


 ジップ付きの透明な小袋。中に、白い粉が入っている。


「……粉砂糖?」

「え?」

「先生、お菓子でも焼くのかな。いつも、クッキーを出してくださるから」


 私は、何も疑わずに笑った。


 ラウリ先輩は、一瞬だけ黙った。


「……そうかもね」


 いつもの笑顔で、彼は言った。けれど、その青い瞳の奥が、ほんの少しだけ暗くなった気がした。


「あ、リリー。悪いんだけど、隣の準備室から魔石カッター、持ってきてくれる? 」

「わかりました!」


 私は、部室を出た。


     *


 ―――ラウリ―――


 リリーの足音が遠ざかったのを確かめて、僕は、もう一度引き出しを開けた。


 白い粉の入った小袋を、そっと持ち上げる。


 光の魔法を使う人間は、魔力の痕跡が目に見える。この粉には、粉砂糖なんかにはありえない、ざらついたねじれた魔力の残り香が絡みついていた。


(……これは違う)


 嫌な予感が、背筋を這い上がる。


 僕は、空の小さなガラスケースを取り出して粉をほんの少しだけ移した。指先が、微かに震えている。


 リリーは、オスカー先生を慕っている。


 あの笑顔を、曇らせたくない。だから、彼女がいない今、確かめなければ。


(先生……お願いだから、間違いであってくれ)


 ガラスケースをポケットにしまって、僕は、引き出しを元通りに閉めた。


 戻ってきたリリーに、いつもの笑顔で振り返る。


「ありがとう! さ、始めよっか!」


 嘘をつくのは、得意なはずだった。


 それなのに、胸の中がざらざらとして少しも笑えなかった。


     *


 翌日。僕は、街の外れにある古い鑑定所を訪ねた。


 白い髭の老人が、ガラスケースに入った粉を眺めて顔をしかめた。


「……坊や。これをどこで手に入れた」

「学校です。詳しくは、言えません」

「ふむ。ならば忠告だ。これは、魔力を無理やり引き出す危険な薬だ。飲めば一時的に力が跳ね上がるが、やがて体も心も蝕まれる。国では、製造も所持も固く禁じられておる」


 老人は、鋭い目で僕を見た。


「違法薬物だよ」


 その言葉が、耳の奥で何度も響いた。


 鑑定所を出て、空を見上げる。


 抜けるような青空なのに、少しも明るく見えなかった。


(先生の引き出しに……)


 僕は、ぎゅっと拳を握った。


 彼女を、傷つけずに済む方法はあるだろうか。


 答えは、まだ出なかった。

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