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人形姫と四つの口付け  作者: かん
人形姫の呪いと、大地の約束(ギャラント ルート)

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19/54

パフェと、ランタン

「魔法祭の実行委員は、リリーとギャラントにお願いしたいんだ」


 生徒会室にユリオス会長の穏やかな声が落ちた。


「はあ!? なんで俺がこいつと!」

「こっちのセリフ!」


「息の合った喧嘩ができるのは信頼の裏返しだよ」


「「どこが!!」」


 二人同時に叫んだ私たちに会長はにっこり笑って書類を差し出す。


「二人の相性は、たしかに最悪だ。だからこそいいペアなんだよ。ぶつかり合って、いいものができる。先日の料理対決で、確信したんだ。喧嘩しながら、あれだけ息の合う二人はなかなかいないからね」


 ――絶対、わざとだ。あのくじ引きも、全部。


 ラウリ先輩が後ろで口パクで「会長、腹黒」と言っているのが見えた。


     *


 というわけで、私たちは魔法祭前日の買い出しに、しぶしぶ街へ出た。


 リストは長い。旗布、飾り紐、魔石、ランタン二百個分の魔石、絵の具、ロープ。


「ちょっと歩くの速い!」

「お前が遅いんだよ」

「荷物持ってる人の速さじゃないでしょ、それ!」


 気づけば、ギャラントの両腕には大きな袋がいくつもぶら下がっていた。私が持てるのは、一番軽い紙袋だけ。……いつの間にか、重いものは全部彼が持っている。


「私も持つわよ」

「いらねえ」

「意地張らなくても」

「うるせえ」


 そんなやりとりを繰り返して、店を五軒回った頃。


 私の足が、悲鳴を上げた。新しい靴のせいで、かかとが擦れている。


 平気なふりをして歩いていたつもりだった。けれど――


「……休憩だ」


 ギャラントが突然、足を止めた。


「え?」

「歩き疲れた。お前がノロいから」

「そんなこと――」


 言い返す私を無視して、彼は目の前のカフェの扉をぐいっと押し開ける。パステル色の壁に、花の飾り。とても、彼のイメージにはそぐわない店。


 席に座って、私はこっそり、彼の横顔を見た。

 メニューを睨みつけている。眉間に、深い皺。真剣な顔だ。


「……何にするの?」

「……」

「ギャラント?」

「……特大フルーツパフェ」

「え」

「なんだよ」

「ううん、なんでも」


 やがてテーブルに運ばれてきたのは、器からはみ出しそうな巨大なパフェだった。

 いちご、ぶどう、キウイ。うず高いクリームの山に、チョコレートソース。


 ギャラントは、無言でスプーンを握った。

 そしてすごい勢いで食べ始めた。


 ぱくぱくぱく、と。あっという間に、クリームの山が削れていく。眉間の皺は消えて、赤茶の瞳が、ほわっと緩んでいる。


(……かわいい)


 思ったら、勝手に口元が緩んでいた。


「……何笑ってんだ」


 ギャラントがスプーンを止めて、私を睨む。


「ううん。意外だなって」

「文句あるか」

「ないよ。……おいしそうに、食べるね」

「――っ、笑うな!」


 耳まで真っ赤になった彼が、そっぽを向く。その様子がおかしくて、私はとうとう声を出して笑ってしまった。


 あ、と気づいたときには、彼は黙ってパフェの上のさくらんぼを私の皿に載せていた。


「……一個だけだぞ」

「いいの?」

「食うか食わないか、はっきりしろ」

「食べる!」


 さくらんぼは、ほんのり甘酸っぱかった。


 ギャラントの怒った顔以外を、初めて見た日だった。


     *


 準備は、二人三脚で進んだ。


 最初は喧嘩ばかりだったのに、いつの間にか言い争いの数が減っていく。


 前日の夜。学園の中庭に、二百個のランタンを吊るす作業。


「魔石に火を灯すのは、俺には向いてねえ。土の魔法は、繊細な火加減が苦手だ」

「私に任せて」


 詠唱は短く。


『小さき炎よ、灯れ――ひとつ、またひとつ』


 指先から生まれた無数の火の粉が、蝶のように舞い上がって、ランタンへひとつずつ正確に飛んでいく。二百個、一つも外さずに。


 ぽ、ぽ、ぽ、と。中庭が金色の光の海になった。


 隣で、ギャラントが口を半開きにして立ち尽くしていた。


「……お前」

「なに?」

「お前の魔法、無駄がねえな」


 ぼそりと、彼は呟いた。


「詠唱の速さも、火の細さも、全部。……認めてやる」

「え」

「聞こえなかったなら、いい」

「聞こえたよ! もう一回言って!」

「言わねえ!」


 照れ隠しに怒鳴る彼が、初めて私の名前を呼んだ。


「……リリー。お前はすげえよ」


 名前、呼んだ。


 胸の奥が、とくんと小さく鳴った。


     *


 魔法祭は大成功だった。


 最後の花火――私の火と、ラウリ先輩の光と、会長の水が空に描いた虹――を見上げながら、ギャラントはぽつりと言った。


「悪くなかった」

「それ、初めて聞いた」

「初めて言ったからな」


 夜。私は会長に提案した。


「生徒会室で、軽い打ち上げをしませんか? みんなで」

「いいね。賛成」


 ラウリ先輩は大喜びで、サンドイッチを山ほど抱えて戻ってきた。ユリオス会長は、紅茶を淹れながら私たちを穏やかに眺めている。


「ほら、ギャラント、ハムサンド」

「うるせえ、自分で取る」

「はいはい、ツンデレ~」

「誰がだ!!」


「ローゼンバーグ書記。頬に、ソースがついています」

「えっ、どこ」

「……ここです」


 エルンスト先輩が、ハンカチを差し出す。セシリア先輩は受け取って、ごしごしと頬を拭いて――そのハンカチを返さずに、自分のポケットにしまった。


「……洗って、返すわ」

「……お気になさらず」


 二人とも、目を合わせない。私は、サンドイッチを頬張りながらにやにやしてしまった。


 わいわいと騒ぐ生徒会室。窓の外には、星が広がっている。


 ――こんな毎日が、続けばいいのに。


 そんなことを、私はほんの少し本気で思っていた。


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