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人形姫と四つの口付け  作者: かん
人形姫の呪いと、水の王子の嘘(ユリオス ルート)

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12/54

法廷に、光は差す

 大法院の法廷は高い天井と白い大理石の柱の荘厳な場所だった。


 傍聴席は満席。その最前列の貴賓席に王の姿があった。


 私は証人席に立って宣誓した。


「私が見聞きしたことを、偽りなく述べることを誓います」


 手が震えていた。手首にはあの夜の縄の痕がまだ薄く残っている。


 証言は次々と積み重ねられた。

 エルンスト先輩の法的な整理。ラウリ先輩の帳簿の鮮やかな突き合わせ。ハンスさんの涙ながらの証言。押収された偽の封印具。そして、私の条約第九条の三の翻訳。


 最後に私は誘拐されたときのことを話した。


「……以上です」

「ありがとう、カラティア嬢。着席を」


 大法官は白髪を結い上げた、痩せた老婦人だった。眼鏡の奥の目は氷のように冷静だ。


「被告人。何か弁明は?」


 ボルグ伯爵はゆっくりと立ち上がった。


「……弁明はありませんな」


 彼は法廷を見渡して。

 そして傍聴席のユリオス会長を指さした。


「ただ、ひとつだけ。そこにいる、第三王子殿下こそ、王家の暗殺者だ! 何人殺したか、数えたことがおありか!」


 法廷がどよめいた。

 私の心臓が凍りつく。

 ユリオス会長は動かなかった。碧い瞳がまっすぐ、正面を見ている。


「静粛に」


 大法官の木槌が鳴った。


「被告人のその発言に証拠はありますか」

「……封書があるはずだ。あなた方が私から取り上げた」

「あの封書は大法院の封印の下にあります」


 大法官は淡々と告げた。


「王家の内政に関わる事項は、この法廷の管轄外です。また、根拠なき中傷は罪を重ねるのみ。……被告人のその発言は、記録から削除します」


 木槌がもう一度鳴る。

 王は目を閉じていた。


「では判決を言い渡します」


 法廷がしんと静まる。


「被告人ボルグ。密輸、偽造、殺人教唆、及び誘拐、その他すべての罪状を認める。爵位を剥奪し、全財産を没収。終身の禁錮に処す」


 ボルグが崩れるように椅子に座り込んだ。

 殺されもせず、殺しもされず。

 ただ、法の下で裁かれた。


     *


 法廷の廊下。

 執行官に両脇を支えられて、連行されていくボルグがユリオス会長の前で足を止めた。


「……お前も同じだ」


 低いかすれた声だった。


「いつかお前の手も」

「はい」


 ユリオス会長の静かな声が廊下に響いた。


「僕の手は汚れています。消えない罪もあります」


 私は隣で息を呑んだ。


 ユリオス会長はまっすぐ、ボルグを見つめていた。


「だから、あなたを殺さなかった。……同じにならないために」

 ボルグは言葉を失った。


 執行官に促されて、彼は廊下の奥へと消えていった。


 その背中を見送って、ユリオス会長は大きく、息を吐いた。


「……行こうか」

「はい」


 廊下の柱の陰で王がこちらを見ていたことに私たちはまだ、気づいていなかった。


     *


 その夜。

 学園の噴水広場に二人で並んで座った。


「……終わったね」

「はい」


 ユリオス会長の手がまた、震えていた。


「大丈夫ですか?」

「……不思議だな」


 彼は自分の手をじっと見つめた。


「人を殺すより、殺さないと決める方がずっと怖かった」

「……はい」

「殺せば終わる。何も考えなくていい。でも、殺さなければ、その先を全部、自分で背負うことになる。裁判も、証拠も責任も」

「でも、ちゃんと背負われました」

「……君が隣にいたから」


 私は彼の震える手を両手で包んだ。


「半分です。私が背負ったのは半分だけです。残りの半分は会長がちゃんとご自分で背負われました」


 碧い瞳が私を見た。


「だから、それは会長の強さです」


 彼は何も言わずに私の肩にそっと額を預けた。

 噴水の音だけが続いた。

 やがて彼は小さな声で言った。


「……明日、父上に話す」

「はい」

「廃嫡されても。たとえ全部失っても」

「大丈夫です。私がいます」


 握った手のあたたかさはちゃんと彼の指先まで届いていた。

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