95 レミーナ王女
「それはそれとして。ここからは我が家というより、エルトが抱える問題についてです」
「エルトが抱える問題?」
そんなのあるの?
「クリスティナ様もご存知の通り、エルトは王太子殿下と長年、親密な交友関係を築いてきました」
「それはお聞きしていますわ」
実際、当人同士は本当に気心が知れている様子よ。
「しかし、元々は殿下の婚約者であった貴方は、エルトと会う機会は少なかったでしょう?」
「ええ」
あの決闘騒ぎの時まで顔も合わせたことなかったわよね!
「その理由は、王女殿下……レヴァン殿下の妹君である、レミーナ・ラム・リュミエット王女殿下にあります」
「レミーナ様に」
あ、これも聞いたことがあるような。
「レミーナ王女は昔からエルトに好意を寄せていたのですよ。殿下との距離を置くため、王都を離れていたのです」
エルトのお母様であるアリーナ様が苦笑いを浮かべつつ、そう口にする。
私は隣に座っているエルトに視線を向けた。
「……俺から何かしたことはない。その気持ちを受け入れるような言動をしたこともないぞ」
なんか言い訳じみたことを言っているわね!
エルトがこういうことを言うと、なんか似合わなくて思わずニヤけてくるわ!
「王家から縁談はあったのかしら?」
王太子の親友。陛下すら認めるほどの王国一の騎士。
伯爵家とはいえ、実質は侯爵家に近い家格で再三、陞爵の話があったほど。
魔獣災害での功績がなくとも、王女の嫁ぎ先としては悪くない話だったはず。
王女の結婚なんて私以上にいろいろとあるでしょうから、簡単な話ではないでしょうけど。
「ありはしたのですがね……」
あったんだ!
じゃあ、別に陛下としては国内の貴族に王女殿下を嫁がせること自体はOKだったのね!
「エルトが縁談をお断りしたのです」
「エルトが? なんで?」
あと無礼とか思わなかったのかしら。……思わなそう!
「合わないだろうな、と思ったのだ」
「合わない?」
「今だから言えるが」
「ええ」
「俺はクリスティナに惹かれた」
「うん?」
「そういう男だぞ?」
「ええ」
「真っ当に淑女として育った王女と、そんな俺が合うとは思えん。不幸にするだけだろう」
それは、もしかして私に対して失礼じゃない?
「合わないと思ったことも大きな理由だが、それだけではない」
「ええ」
「当時、殿下との縁談があったのは俺が十七歳の時だった。王女の年齢は十二歳だ」
十七歳の伯爵令息と十二歳の王女の縁談ね。
エルトは士官学校出身で、レヴァンとはそこで出会っているはず。
もちろん、将来有望なのは間違いなく、エリート街道ってやつを進んでいたとは思うけど、王女の婚約者となると大きく話が変わってくるのは間違いないわ。
年齢差はあるものの、そこまで気にするほどじゃないはず。
レミーナ王女は今、確か十五歳でそろそろ十六歳ね。
そろそろ王家としても相手を見つけていい頃合い。
ここ数年は災害続きで大変だったけれど、それらが落ち着いた今なら余計に。
「夢を見がちな年頃で、手近に関った相手に心を惑わせただけ。そのように判断もできた」
ちょっと私の経験上だとピンとこないけど。
レヴァンとレミーナ王女の仲は悪くない。
慕っているお兄様と親友であるエルトに惹かれるのは自然な流れってやつよね、たぶん。
話しぶりから察するに、その縁談の発端はレミーナ王女の恋心。
つまり、政略的なものではない。
幼い恋心でこれからの人生を決めていいのかっていうと考えどころだったってことね!
「そっか。それで、その話は……」
「魔獣災害が落ち着き、平穏が訪れました。そしてエルトは英雄の一人と評され、陞爵を受け入れれば次期侯爵となる男。……レミーナ王女の嫁ぎ先として、申し分がなくなった、ということです」
つまり。
「私たちの縁談に横槍を入れてくる可能性が高い、と」
「ええ」
「でも、陛下はたぶん……」
私のことを『王弟の娘』、つまり姪として愛情を感じている気がするわ。
今は亡くなった私のお父様に対する愛情の代替でしょうけどね。
まぁ、それも実子の娘と比べてどうか微妙かしら。
でも、横槍なんて入れてくるかしらねぇ?
「陛下は動かれないでしょう。ですが、レミーナ王女はそうではないと思います」
「……なるほど?」
要するにこれからレミーナ王女の突撃があるかもしれないってことね!
しかもエルトは恋愛対象だから……敵は私!
あらまぁ、面倒くさそう!




