92 エルトとのデート
伯爵位のための活動とフェリシア様とのお茶会。
それらをこなしていたところで、王宮にまたエルトが訪ねてきた。
あれからあんまり時間が経っていないのだけど。
もうベルグシュタット家に帰って話をつけてきたのかしら。
エルトだって長い遠征生活だったんだから、もう少し休んでいてもいいと思うのだけど。
「クリスティナ」
律儀に先触れの手紙を出してきたエルト。
現在、私は王宮に部屋を与えられている状態なので、当然といえば当然でしょうけど。
大雑把に見えて意外とまめなところがあるわよね。
「忙しいか?」
「私はそれなりよ。エルトの方が忙しいんじゃない?」
「団員たちは皆、王宮の兵舎とベルグシュタット邸に移した。問題はない」
「……そう?」
問題ありそうな気がするわね!
「第三騎士団って今、どういう状態になるの?」
「事実上、俺が引き継いでいる。父上は、ほぼ引退している。名目上はまだ第三騎士団の団長だが」
第三騎士団。武家であるベルグシュタット伯爵家が抱える騎士団ね。
今回みたいに王都を離れての遠征の際に動く役割よ。
第一が主に王都の守備。第二は第三と同じく遠征寄りだけど、中間的な役割ね。
三つの騎士団にはそれぞれ王宮に兵舎が用意されている。
それに加えて、王都にあるベルグシュタット邸にも駐留しているわ。
領地にもいるでしょうから、けっこうな大所帯よね。
人数も多いし、全員を遠征に連れ出すわけにもいかないから、エルトが遠征部隊の指揮をすることになったんでしょう。途中、何度か離れていたみたいだけど。
「いろいろと報告しなくちゃいけないんじゃない?」
「まぁな」
書類仕事っていうやつよ。私もできるわ。
「だが……」
「うん」
「俺はクリスティナと過ごしたい」
「……そう!」
じゃあ仕方ないわね!
「街へ出かけないか」
「いいわよ!」
「なら行こう」
「ええ!」
とりあえず、いろいろとまとめてから、すぐに準備はOKね!
「判断が早い……」
「お嬢様ですからね」
リンディスとセシリアがなんだかボソボソ言い合っているわ。
だんだん仲良しになってきたわね!
エルトと一緒に王都を歩く。
凱旋式の日も人が溢れていたけれど、今日だって十分に人は多いわ。
「王都を歩くのって久しぶり」
「そうだな」
「エルトもどれくらい離れていたの?」
「俺の方は何度か王都に戻ってきている」
「そうだったわね! でも、ゆっくりしていたの?」
「ゆっくり……」
エルトは少し考えるようにしてから、私に視線を向ける。
「どうしたの」
「クリスティナと会って決闘をして、帰ってからは戦うこと以外、ずっとお前のことばかり考えていたような気がする」
「まぁ……」
それはまた。
「クリスティナに何を贈ろうか、何を気に入るか。街を歩く時はお前が気に入る物を探していた」
「ふふ」
どれだけなのよ。
「宝石を贈ったのはレヴァンに聞き込み調査をしたからだ」
「聞き込み調査」
「レヴァンとは違う物を贈りたかった」
私は胸元にあるエメラルドの首飾りに触れた。エルトからの贈り物よ。
「一つ目の贈り物は合っていたと思うが……」
「うん」
「それ以降は悩んだ」
「悩んだの」
「ああ。ただ宝石を贈ればいいという話ではないと思ってな」
……私は想像してみる。
二つ目の宝石。もちろん嬉しいと思うわ。でも一度目より嬉しく思ったか。
誰からも、かつての婚約者だったレヴァンからも、贈られたことのなかった宝石。
私にとってそれは家族の証のようなものだった。
でも、それはエルトに贈られたことで……なんだか気が晴れたというか。
「嬉しいと思ったけど、一度目ほどじゃなかったかもね」
「そうか。他にも指輪や髪飾りを考えたが……」
「うん」
「宝石から目移りしてな」
「目移り?」
エルトは真面目な顔をしながら頷く。
「クリスティナは剣の方が喜ぶのではないか。そんな気がした」
「ああ!」
それは確かに嬉しかったかも!
「だが、すでに魔法銀の剣を渡しているからな。もちろん、剣などいくらあってもいいかもしれないが、手入れもある……」
「ふふ、それで結局、騎士たちを贈ってくれたの?」
「最終的に戦力が必要なのはわかっていたからな」
アルフィナ領には騎士三人と御者や会計業務ができる人員がやってきた。
随分と助けられたわ。
なんていったって日々の生活を整えつつ、魔獣対策だったからね。
さらに復興作業。人手なんていくらあっても足りないくらいだったわ。
「だが問題はあったな」
「問題? 助かったけど」
「ああ。助けになったなら嬉しい。だが、あれで俺を意識してもらえるとは思えない。意中の相手に意識してもらえる贈り物ではなく、ただの作戦支援だ。嬉しい、の意味が違う」
「なるほど」
個人として助かったんじゃなくて、魔獣対策チームとして助かったものね!
「いろいろと悩んだが、今はクリスティナの言葉を聞ける」
「ええ」
「クリスティナ、何か欲しいものはあるか?」
「欲しいものねぇ」
直近で欲しい物といったら伯爵位の印章と紋章、紋章の刻まれたマント。
それくらい? あ、王家主催のパーティーがあるからドレス?
でも、ドレスを欲しがるのはどうかしら。
そこは何か違うような気がするわね。それに。
「今は贈り物より、思い出ね!」
「思い出」
私はエルトの手を取って少し走り出す。
「たくさん思い出、くれるんでしょう?」
「当然だ」
「ふふ!」
私たちの初めてのデートは、なんてことのない街歩きだったのよ。




