84 帰る
ルーナ様たちがアルフィナ領に滞在してから少し経つ。
王国内を巡っていた彼らの旅も終わりが見え、あとは最後の調整と王都への凱旋を控えるばかり。
「クリスティナ、俺たちと一緒に王都へ帰らないか」
エルトが私にそう言ってくれる。
──帰る。それもいいと思う。
王都からの追放や、マリウス侯爵家への帰還の禁止令は撤回された。
王都の人々にも私の戦いが知られたらしくて、名誉は回復している。
アマネの予言を発端として婚約破棄やら、いろいろとあったものね。
今、そのアマネは立場を失い、王宮からどうやってか姿を消してしまったという。
マリウス家があやしいと思っているけれど、それは王都にいるフェリシア様たちが対処していると思うわ。
私の立場は大きく変わり、王弟が私の実父であったことまで知られてしまった。
今、かなり面倒くさい状況になっていると思うの。
そして私は、エルトと正式に交際することになった。
そうね、そこよ、そこ。王都は面倒くさいことが多そうだけど、重要なことがあるわ。
「ベルグシュタット伯爵に挨拶するの?」
「ん? ……そうだな。それも必要だ」
「そうね!」
親を介入しない口約束での交際。
正式な婚約関係とは言い難い。これは由々しき事態よね!
「……でも、私が今、アルフィナを離れるのは」
これから冬支度が大変なのよ。
今の私は事実上、正式なアルフィナ監督官としてこの領地を管理しているの。
領地を離れていた避難民たちにも帰ってきてもらい、復興に着手している。
以前は、王都からアルフィナ領に来るまで一ヶ月以上かかったわ。
往復で二ヶ月以上も、今ここを離れるのはちょっとね。
「行ってきなよ、クリス」
「フィオナ」
私の親友、数少ない友人であるフィオナ・エーヴェル辺境伯令嬢。
たぶん、リンディスの次くらいに私の理解者だと思うわ!
「王都で片付けなくちゃいけない問題がたくさんあるんだよね?」
「……まぁ、それはそうね!」
陛下にもう一度会えるなら、きっぱり王位継承権を放棄しておかないとだし!
婚約関係も整理しておきたいのもある。
マリウス侯爵家とも、きっちり決着をつけておいた方がいいかもしれない。
「今のアルフィナ領は、領地の方向性を決めるより、いろんなことの復興作業が優先でしょう? それなら責任者をはっきりさせておけば、することはそう変わらないと思う。お父様やエイガスト伯爵にも協力をお願いすれば、領地の人たちも納得してくれるわ」
領地の復興。
私が森を叩き開いて街道を作ったから、エーヴェル辺境伯領との流通がかなり良くなっているのよね。
これだけで、かなり復興作業が進むようになったわ。
あとは支援を受けながら冬支度に備えて、この冬を無事に越せたら、ある意味で領地としての形が整ったともいえる。
ちゃんと、この領地で一年を生きていけるって証明できたようなものになるからね。
「それにクリスが本気でこの地を管理していきたいなら、きちんと許可を得た方がいいわ」
「確かにねぇ!」
今の私はアルフィナ臨時監督官。
これは事実を積み重ねて、周辺領主に認めてもらって確立した立場。
王太子であるレヴァンも認めたから正式な立場でもある。
でも、本当の本当に正式に領主として認めてもらうには、やっぱり王都で許可を得て、陛下に領主として任命された方がいい。
そうすれば、ちゃんとしたアルフィナ領主、アルフィナ男爵になれるはずよ。
「うん! 王都に帰るだけの理由はあるみたいね! じゃあ、あとは私がいない間をどうするか。それに誰を……」
誰に残ってもらい、誰に一緒に来てもらうか。
「元々の領地運営に関わっていた人たちは帰ってきていないんだよね?」
「そうね! 逃げた前領主と、その周りにいた人たちはいないわ」
「じゃあ、クリスと一緒にこの地に来た人たちが一番、全体を見ているのね。だったら、クリスの代わり、代官を任命していってもらって、お父様やエイガスト伯爵たちに後見人をお任せするのがいいのかな」
私と一緒に来た、私の仲間たち。
気持ち的には一緒に王都に帰りたいけど……。
私は、このやり取りを見守ってくれている仲間たちに目を向ける。
「カイル、セシリア」
「うん」
「はい、お嬢様」
カイルとセシリアは、バートン家から家出してきた。
しかも、そのバートン家は『王家の影』を担う家門で、暗殺家業も担っていたみたい。
カイルとセシリアはそのお仕事をお断りして、私の仲間になってくれたのよ。
まぁ、依頼からしてなんだかおかしな仕事だったみたいだから、そこまで実家も怒っていないかもしれないけど。
「僕は、帰らない方が面倒事は少ないだろうね」
「やっぱり?」
「……うん。それにクリスティナの咲かせた食用薔薇の管理も必要だ。アルフィナ領にはまだ医者がいないけど、彼らと一緒に王都へ帰還するのなら、そちらには医者もついているだろう」
私はエルトに目を向ける。エルトは無言で頷いて肯定したわ。
「いるらしいわ!」
「……僕は、クリスティナの主治医を任されているつもりだけど」
「ええ! 任せているわね!」
「うん。でも、ここは適材適所だろう。クリスティナ、僕はこの地に残るよ」
「……そう」
この決断をさせていいのか。そういう気持ちはある。でも。
「任せるわ! カイル、貴方が、私のいない間のアルフィナ代官よ!」
「……引き受けた」
「フィオナ、貴方は王都に帰る予定はある?」
「今はないよ、クリス」
「じゃあ、カイルを支えてあげてくれる?」
「うん、わかったわ、クリス」
フィオナと頷き合う。
私はセシリアに目を向けた。
「……私はクリスティナお嬢様と一緒に王都へ行きます」
「……いいの?」
「家での問題が発生するなら、私が対処しましょう。カイル兄さんはこの地での仕事がありますが、私はお嬢様があってこその仕事ですから」
侍女、兼、メイドだものね!
「わかったわ。リン、貴方は」
「私もお嬢とともに王都へ向かいます」
「まぁ、そうよね!」
私もリンディスが離れて行動するとは、あんまり思っていないわ。
「ヨナ」
「……僕は、ここに残るよ、クリスティナお姉ちゃん」
「……いいのね?」
「うん。ちょっと寂しいけど、僕はここでいろいろ勉強して、役に立つお仕事をして、お姉ちゃんの帰りを待ってる」
「わかったわ! 必ず帰ってくるからね! 次に会う時はアルフィナ男爵閣下と呼びなさい!」
「あはは、うん!」
私は王都への帰還を決めた。
『キュアア!』
「クインは私と一緒に来なさい! 帰る時にその方が早いからね!」
『キュア!』
クインは白銀の鱗をしたドラゴン。
凱旋式の時は、クインの背中に乗って派手に王都に降り立つのもいいかもね!
四章、開始!
最終章になるかな?




