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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化】  作者: 川崎悠
三章 民なき領地

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82 決闘再び

「なんだって?」

「隊長とマリウス嬢が再び決闘? とうとう、お二人の戦いが見られるのか」

「いや、問題はそっちじゃなくて……」

「隊長が勝ったら結婚? ついに告白したのか。意外と長かったな」

「え? 隊長が勝ったら結婚で、マリウス嬢が勝ったら隊長と婚約? は?」

「何を言っているんだ……」

「どっちが勝っても結果は同じでは?」

「バカップルか?」


 なんだか人が集まってきてガヤガヤと騒いでいるわね!


「意味がわかりませんよ、お嬢……」

「なによ、リン」

「勝ったら婚約、負けたら結婚? なんの意味があるんです、その決闘……」

「フフン!」

「褒めてないんですよ」

「この決闘は引き分けとし、無効試合とします」

「貴方は何を言っているの、セシリア」


 まだ始まっていないわよ!


「クリスティナお姉ちゃん……」

「ヨナは応援してくれるわよね!」

「応援、どっちを?」

「私を!」

「ええ……? 意味あるの……?」

「あるわよ!」


 私は胸を張って答えたわ!


「クリスティナ……」

「カイル」


 カイルは少し暗い目をしているわ。


「君の気持ちは……薄々、気づいているつもりだったよ」

「ん」

「彼の話をする時の君は、いつもより眩しく見えていた」

「カイル」

「でも、まだ……君の中の気持ちがそこまで形になっていないと思っていたんだ」


 私の中の気持ち。


「それはきっと正しいわ、カイル」

「クリスティナ」

「だからこそ決闘するの。戦ってわかることがあると思って」

「……そうか。クリスティナらしいね」

「応援してくれる?」

「……、……いいや。君の幸せを願っている」

「ありがとう!」


 私はカイルたちに背を向けて、決闘の場に向かうわ。

 すでにエルトは準備を済ませて待っている。


「決闘ではあるが、お前を傷つけたいとは思っていない。だが」


 エルトは愛用している黒色の剣を鞘から抜く。


「お前相手に手加減が必要とも思えん」

「必要ないわ!」


 私もエルトに倣って魔法銀の剣を抜いた。

 魔獣や邪神との戦い、それから騎士たちにも剣を教えてもらった。

 以前の私とは一味違うわよ!


「それでこそだ。……レヴァン!」

「はいはい……人使いが荒いね、僕は王太子なのに」


 レヴァンが呼ばれて、何かと思ったけど審判をしてくれるみたいね!


「では、二人とも準備はいいかい?」

「ああ」

「ええ!」


 私たちは互いに剣を構える。真剣だ。木剣じゃない。

 でも、それでいいのよ。ただの試合じゃない、真剣勝負なんだから。


「始めっ!」


 レヴァンの開始の合図とともに私は駆けだす。

 エルトも一緒、待ち構えるんじゃなくて突進してくる。


 ガギィ!


「ふふっ」

「ははっ」


 お互い、待つタイプじゃないわよね。

 全力で剣をぶつけ合う。私はすでに『怪力』の【天与】を発動しているのに、平然と受け止めてくるのがエルトよね!

 そのまま私たちは何度も剣をぶつけ合う。


「腕を上げたな、クリスティナ!」

「そうでしょう! 私も教えてもらっているのよ!」

「ああ、だが、それはお前の全力では……ない!」


 剣ごと弾き飛ばされる私の体。

 流石に剣だけでの戦いで、まだエルトには勝てないわよね!


「そうね! じゃあ行くわよ! 薔薇槍!」


 エルトの足元から薔薇の蔓でできた槍を生やす。

 ラーライラの時と違い、今回は先端を丸めていない、ちゃんとした槍よ!


「……!」


 エルトは薔薇槍が生え始める瞬間から、それを見切って躱していく。

 『予言』の世界での戦いがチラつく。あっちでもエルトは薔薇を掻い潜ってきていたわね。


「俺の剣は魔剣だ。魔術で鍛え上げられた剣」

「そうなのね!」

「ゆえに」


 エルトが一閃、魔剣を切り払うと伸びた薔薇槍があっさりと切断される。

 けっこう硬いはずなんだけど、あっさりね!


「この程度なら切ることができる」

「流石ね!」

「次はどう来る?」


 エルトの魔剣で切られないほどの硬さを持たせるか。或いは別の攻め方をするか。

 薔薇が生える速度にも限度があるのよね!

 たぶん、エルトの反射神経だと薔薇を伸ばす攻撃には対応されてしまうわ。


「じゃあ、これはどう!」


 ラーライラにしたように私は地面を抉るように殴り、土砂を目隠しする。

 でも私の動きに合わせるようにエルトも魔剣で地面を掘り返して振り払った。

 私の土砂が扇状に広がって、エルトのそれは縦一閃のもの。

 土砂同士がぶつかって相殺し、そこに隙ができる。

 地面を抉るために深く踏み込んでいた私は、反応するのが遅れる。

 そこにエルトが迫ってきたわ!


「薔薇の巨大腕!」


 攻撃のためじゃなく、私の体を、私の背後から掴み、後方にぶっ飛ばして回避する!

 すんでのところでエルトの攻撃を回避することに成功。


「あはは! やっぱりね!」

「何がだ!」

「私が〝傾国の悪女〟になんかなったなら、貴方が私を殺してね、エルト!」

「……! ああ、約束しよう!」

「まぁ、傾国の悪女になんかならないけどね!」


 『毒薔薇』の【天与】しかない、予言世界の〝私〟より今の私の方が強いはずよ。

 それでもこうしてエルトの剣が迫ってくるんだもの。


「薔薇の支柱!」


 木立性の薔薇を数本、この場に生やし、柱にする。

 その柱に腕や腰から伸ばした薔薇の蔓をひっかけて跳躍!

 空中からの攻撃なんて普通の人は経験がなくて対処もできないはずだけど。


「面白い!」


 エルトは嬉々とした表情で私を追いかけようとする。

 持っていた短剣を薔薇の支柱に投げつけ、突き刺したかと思うと、そこに駆け寄り、短剣を足場にして跳躍。

 生えたばかりの薔薇の支柱の、やわらかい〝しなり〟を利用して、他の支柱へ飛び移り、またさらに利用して……。


「あはは、すごい!」


 私をただ追いかけるんじゃなくて、私の軌道を読んで動いているわ。

 薔薇の蔓である程度、動けるとはいえ、空中へ飛び上がる速度や、回転運動は止められない。

 勢いを止めたら、落ちちゃうもの。

 だから、きっと読みやすい動きなんだと思うわ。

 エルトは先読みして跳んで、私の正面に。


 私も無理矢理に逃げたりはしない、そのまま空中で激突する。

 今度は魔法銀の剣じゃなくて光の拳よ!


「──フンッ!」


 殴る瞬間、エルトは魔剣をずらす。

 以前の決闘で、私は彼の剣をへし折った。でも今回は。


 ギャリィ!


「……!」


 硬質な金属音を鳴らしながら、私の拳は逸れていく。

 そのまま切られるのではなく、空いた手でガッと腕を掴まれちゃった。


「クリスティナ」


 二人して空中、高くまで到達したあとは落下するのみ。


「俺はお前が好きだ」

「私もよ!」


 落ちる。二人とも。ただ落ちていく。


「じゃあ、俺と婚約してくれるな」

「ええ、私が勝ったら!」


 私の体から薔薇が絡みつきながら生え、背中側で翼のように広がる。

 浄化薔薇の要素を少し盛り込んで、逆光を生み出したわ。

 翼状の薔薇の蔓だけではなく、そこから支柱へ伸びる蔓も生やす。

 私の体は空中に留まり、エルトだけが落ちていく。

 剣を手放さないなら、私の腕を掴む左手だけが彼の体を支えているの。


「どうする? それなりに高いわよ、ここ」

「眩しいな……」

「そうでしょう! もっと明るくできるわよ!」


 エルトは、地面を見ることなく、ただ私を見上げる。

 本当に落ちたら嫌だし、この状態からでも攻撃できそうなのがエルトよ。

 だから薔薇の蔓を伸ばして私たちの腕をつなぎ、離れないようにする。


「…………」


 魔剣を手にする右手にまで蔓が伸びていくのをエルトは黙って受け入れていた。


「……悔しいが」

「負けを認める?」

「いや。簡単に負けを認めて、お前と結婚する気がないなどと思われては困る」

「ええ……?」

「だからこそ何がなんでも勝つ」

「この状態から?」


 薔薇の支柱に支えられて、私たちは地面から離れた高さにいる。

 薔薇の支柱に伸ばした蔓で空中に留まれている私。

 その腕に掴まって体を支えているエルト。

 翼状にして背中に生やした薔薇が光を放ち、エルトの視界を妨げる。

 どう考えても私の勝ちじゃない?

 体を捻って脱出するにしても、近くに支柱がないから足場にはできないわ。

 エルトは私から離れれば落ちるしかできない。


「フッ……。クリスティナ、俺はお前に惹かれている」

「ええ!」

「好きだ」

「そうね!」

「愛している」

「それはどうかしら!」

「お前と結婚したい」

「うん!」

「絶対に結婚する」

「うん?」

「何度でも言おう。俺はお前のことが好きだ、クリスティナ」

「わかったわ!」

「お前が折れるまで何度でも告白するぞ」

「……うん?」


 どういうことかしら。


「これが俺の攻撃(・・)だ。元よりこの決闘は、婚約するか、結婚するか決めるもの。お前には一番合っているだろうと思い、決闘を申し込んだが……結論を出すのがお前であることは変わらない」

「……そうなの」

「クリスティナは決闘すれば、お前の中での答えが出せるのだと思ったんだろう?」

「まぁね」

「出せたか?」

「……うーん」

「出せていないならば、お前はこの決闘を続けるしかない。だから、こうして、俺にいつでも勝てる状況を作り出すことは無意味だ」

「そう……かしら?」

「勝ちたいのなら勝てばいい。それがお前の答えなのだから」

「…………」

「負けたいのなら負ければいい。それもまたお前の答えだ、クリスティナ」


 ……なんか。


「私、貴方に勝てないんじゃない?」

「フッ……。では、負けを認めるか?」


 むー。完全に勝った状況に持ち込んだのに勝利できないなんて!

 しかも結局、答えは私が出さないといけない!

 それが悩ましくて決闘の決着に身を委ねようとしたっていうのに!


「お前の意思次第だ、クリスティナ。だが」

「……ええ」

「俺はお前が欲しい。手放したくない。俺から、この手は離さないぞ」


 私は薔薇の蔓でつなげたエルトの手を見る。

 ぎゅっと掴まれていて、少し痛いくらい。まぁ、この状態だからね。


「エルト」

「ああ」

「……負けを認めてくれる?」

「嫌だ」

「ちょっと!」

「俺はお前と結婚したい」

「我儘ね! 私の勝ちだから……婚約するってことよ!」

「結婚する前提か」

「婚約ってそういうもんじゃないの?」

「場合による」

「まぁ、場合によるけど」


 私とレヴァンの婚約とかね!


「ここから落したら私の勝ちね?」

「俺は負けを認めない」

「認めなさいよ!」

「クリスティナ」

「なぁに」

「好きだ」

「……たぶん、私も」

「そうか」


 私は体を支えている薔薇の蔓を、ゆっくりと伸ばす。

 そうして二人の体を地上へと降ろしていく。

 背中の翼もどきも光らないようにした。


「エルト」

「ああ」

「落とすわよ」

「…………」

「正確には落ちるわ。一緒にね」

「そうか」

「受け止めなさい」

「任せろ」


 私は、二人の体を支えていた薔薇の蔓を霧散させる。

 支えを失い、私たちは地上へ。


「クリスティナ」


 落ちながら彼に体を抱えられる。

 怪我しないくらいに高度は下げていたはずだけど、それでも危ない。

 でも私はエルトに身を委ねた。

 私を抱きかかえたエルトが、そのまま着地してみせる。流石ね!


「エルト」


 彼の腕に抱えられて、今度は私が見上げる。


「私の勝ちでいい?」

「…………」

「認めなさいよ」

「…………」

「前回は、あっさり負けを認めたくせに」

「今回は譲れない戦いだ」

「……そう」


 私は彼の腕から降ろしてもらって、正面に立つ。


「エルト」

「ん」


 そして私は、エルトを引き寄せて……唇にキスをした。


「……クリスティナ」

「私の勝ち?」

「……、……ああ」

「フフン! じゃあ、決闘は、また私の勝利ね!」


 私は胸を張ろうとして、エルトにぎゅっと抱き締められたのよ。


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― 新着の感想 ―
クリスティナの攻撃! 唇にキス!!! エルトにクリティカルヒット! とこんな感じに脳内再生されました。ご婚約おめでとうございます(*´艸`*)
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