78 フェリシアとの交流
『加えて伝えておくわ』
フェリシア様が光翼蝶の向こうから続ける。
『貴方たちの戦い、ルーナ様とベルグシュタット卿と一緒にドラゴンに乗って、いくつも邪神を討伐した姿も王都では知られているのよ』
「え、そこから見ていたの!?」
『ええ、そうなの。ふふ……。これで民に認められた英雄ね、貴方たちは』
邪神狩り電撃作戦中も目撃されていたみたい!
どこにいたのかしら? 盗み見ね!
今度、光翼蝶を見つけたら先に捕獲するわよ!
『クリスティナ様、貴方はいつ王都に帰ってくるかしら?』
フェリシア様に問われて、私は光翼蝶から視線を外し、みんなを見る。
ここにはリンディスを始め、仲間たちも、協力者たちも揃っているのよ。
みんな、答えは私に任せてくれるみたいね!
「こっちでやることができたのよね! 領地復興! だから王都に帰りたいとか、とくに思っていないのだけど。陛下に〝アルフィナ領の男爵位ちょうだい〟って伝えておいてくれる? アルフィナ領を切り盛りしていくつもりだから!」
『あらまぁ……。男爵だなんて欲がないわね、クリスティナ様』
ん? 欲?
『貴方が望めば、公爵位を賜れると思うわ』
「公爵……?」
マリウス家が筆頭侯爵家で、フェリシア様の家、ルフィス家は公爵家。
もちろん、身分はフェリシア様が上。でも公爵って、ちょっと特殊なのよね!
王家の血をつなぐ役割があるのが公爵家なの。
王の兄弟なんかが場合によっては大公まで賜るけど、それだともっと身分が上よ。
王位継承権も高い順位で保有することになる。今はないけどね!
それから、もう亡くなられているけど、フェリシア様の母親は王妹殿下のはずよ!
……って、あれ。もしかして?
「フェリシア様、もしかして知っている?」
『あら、意外。じゃあ、貴方も知っていたのかしら、クリスティナ様』
この感じ、知っているわね? 私の実父が王弟殿下だったってこと!
なんで? いえ、だから彼女の母親が王妹殿下だから、つながりがあったのかしら。
『……私ね、クリスティナ様。貴方に謝らなくてはいけないことがあるわ』
「私に?」
何を? 私とフェリシア様って今まで会ったこともないわよね?
『今、この会話は陛下も王都の人々も聴いているのだけれど』
またそれなの! 大々的に公開するのが好きなのかしら!
やっぱり今度、光翼蝶を見つけたら握り潰そうかしらね!
『告白するわ。私が『光翼蝶』の【天与】に目覚めたのは……貴方と同じ時』
「私と同じ時……?」
『一度目は幼い頃。貴方が光の拳で木を打ち倒した時。私は誰にも注目されない場で一人、【天与】に目覚めていた』
「そうなの!?」
それは驚き!
私が幼い頃、『怪力』の【天与】を発現した時ね!
あの時もルーナ様がそばにいた。同じ頃、フェリシア様も?
やっぱり私たちの力って共鳴し合うみたい。
『私があの時、名乗り出ていれば、クリスティナ様の運命も変わっていたでしょう』
「それはそうかもしれないわね!」
少なくとも王太子の婚約者が私で確定なんてことにはならなかったはず。
私とフェリシア様で比較され、或いは競い合わされていたかもしれない。
『立場が変わっていれば、貴方の境遇も変わったかもしれない。まず、それが謝るべきことの一つ目よ』
「まぁ、それは過ぎたことだし。恨むほどのことではないわよ」
『……ふふ、貴方はそういう人なのよね』
今言われても困るからね!
『でも違うの。私も貴方と同じだったのよ、クリスティナ様』
「私と同じ、何が?」
『私も幼い頃の一度きりだけで、そのあとは【天与】を使えなかった』
「それは」
『【天与】を使えない公爵令嬢、王太子の婚約者になるために嘘を吐いたのではないか、その他にも、ずっと貴方が言われ続けてきたこと。それは私も同じになるはずだった。貴方を矢面に立たせながらほとんど変わらない立場の私は、それなのにずっと黙っていたの。自分だけが安全な場所で過ごし続けていた……』
なんとまぁ、想定外ね!
『私も名乗り出ていれば、きっと貴方の立場は変わっていたはずだったわ……』
「そうかもしれないけど気にすることないわよ、それくらい! 元気出してね!」
どう声をかければいいか迷うわよ!
「お嬢、空気を読んでください」
「そういう問題かな、クリスティナお姉ちゃん……」
「クリスティナらしいなぁ」
「うん、クリスってそういうところあるよね」
「お嬢様らしい」
「フッ……。それでこそクリスティナだ」
「なんでエルト兄様が自慢気なのです!?」
なんか外野がうるさいわよ!
『次に私が【天与】を発現したのは王宮で貴方が再び【天与】を発現した時。その光景を、光翼蝶は私の前に映し出していたわ』
「あらまぁ、王宮のレヴァン殴りも視ていたのね!」
それはびっくり!
「余計なことは言わなくていいんですよ、お嬢!」
「クリスティナ……すまない」
「お、落ち込まないでください、レヴァン様! クリスティナ様に悪気はありません!」
外野がワヤワヤ騒いでいるわねー!
『あの時もそう。私がすぐに名乗り出ていれば、薔薇の【天与】を発現したという貴方の立場も大きく変わっていたでしょう。私たちが三人揃っていれば、女神の巫女として……人々に認められていたわ』
これは実際、そういう流れになっていたみたいね、王都で。神殿の影響が強いみたい。
私自身は大して何もしていないんだけど……。
行く先々で魔獣を倒したり、邪神を倒したりしていただけなのよね!
『貴方の名誉を守るのが遅れた。だから……ごめんなさい、クリスティナ様』
「許すわ! そもそも怒っていないけどね!」
「早い! もっと溜めてください! 情緒!」
「フッ……流石はクリスティナだ」
「もういいです、エルト兄様は黙っていらして!」
なんかフェリシア様が一方的に溜め込んでいたみたいね!
『だから貴方の名誉を回復するために、私も力を尽くしたいの。せめての罪滅ぼしとして』
だから王都中に私の戦闘をばら撒いているのかしら? それはどうなの?
「ねぇ、フェリシア様」
『ええ』
「別に私は気にしていないからいいのだけど」
『ありがとう』
「どういたしまして。それって問題は〝どうして今まで黙っていたか〟の方よね?」
『…………』
「光翼蝶でリュミエール王国中に視界を飛ばせるようになったなら、貴方は名乗り出るまで、ずっとその力を使っていたんじゃない? そうなら、きっと何か目的があった。なにせ盗み見と盗み聞きができる【天与】なんだもの! 黙っていたってことは……調べものでもあった?」
問いかけると光翼蝶の向こうでフェリシア様が息を飲む音が聞こえたの。
『……ふふ。貴方が怖くなったわ、クリスティナ様。それも貴方の直感なのかしら』
「まぁね! なんかそう思ったわ!」
『そう。……きっと貴方は私たち三人の中で一番、女神に近いのね』
女神に近い。んー、それは? もしかしたらそうかも?
だから教団に狙われていたとか。
『ええ、そう。私は調べていたわ。私の母の死に関わっていた者たちのことを。そして、それは……貴方の本当の父親を殺した者たちと同じだった』
「私のお父様」
やっぱり知っているのね、フェリシア様。
『私の母である王妹ミレイア、貴方の実の父である王弟アーサー殿下……二人を殺したのは、間違いなく教団で、その目的は私たちの人生を歪めることだった。その確証を私はすでに得ているわ』
……うーん。
この話、王都中が聞いているって言っていなかったかしら……。
今、ものすっごい、私の隠した方がいい出自がドーンと告知された気がするのだけど?
これって面倒なことになるやつよね!




