75 教団と邪神
『キュルァア!』
「よしよし」
クインを慰めつつ、リンディスたちが修道院内の問題を片付けるのを外で待つ。
ラーライラは、決闘で負けたあと『ぐぅぅ』と呻きながら私を睨んでいるの。
可愛いわねぇ。流石は『姫騎士』なんて呼ばれるほど、可憐な子だわ!
決して侮辱的な二つ名じゃないと思うの。普通に可愛い子なのよ。
実力もあるでしょうね。私の薔薇槍を処理していたもの。
生身で邪神と立ち回れるエルトが抜きん出ているかもだけど、ラーライラは十分にエリート騎士よね!
少なくとも『赤毛の猿姫』とか『傾国の悪女』よりマシね!
調査を一通り終えたらしいみんなが帰ってくる。
そして、改めて私たちは顔を突き合わせたの。
「お疲れ様」
「クリスティナ」
「クリスティナ様」
エルトやルーナ様が駆け寄ってくる。
そこで蹲ってグズグズしているラーライラに気づいて首を傾げるの。
「ライリーさん、どうされたんですか?」
「勝ったわ!」
「ぐっ!」
「勝った?? 何がでしょうか、クリスティナ様」
「ラーライラと決闘していたのよ、さっきまで」
「決闘!? なぜ!?」
「さぁ?」
出会って即、決闘を持ちかけたエルトと似ているのね、兄妹揃って!
「負けたか、ライリー」
「エルト兄様……」
「強いだろう? クリスティナは」
「なぜエルト兄様が誇らしげなのですか!?」
「俺に勝ったのだから当然だ」
「当然ではありませんわ!」
うんうん、仲良し兄妹ね!
「お嬢は目を離している間に何をされているんですかね……」
「私が決闘を申し入れたんじゃないわよ? 受けただけ」
「そもそも受けないでくださいよ」
そんなことを言われてもねぇ。
「それはそうと、クリスティナ」
「ええ」
「会えて嬉しい」
「私もよ!」
「ああ」
私はエルトと言葉を少し交わして、見つめ合って。
「やめて! 短い言葉だけで通じ合わないで!」
ラーライラが割って入ってくる。情緒不安定ね!
「とにかく! 話を先に進めなければなりませんわ! そうでしょう、ルーナ!」
「え、はい……そうですね」
なんか、決闘ごとなかったことにされそうだわ! まぁいいけどね!
「私はルーナ様の手紙を受け取ってきたんだけど」
「はい。近くまで来たので、ぜひお会いしたいと。もう以前とは大きく状況が違いますから」
アマネの予言をもとに動いていたルーナ様たち。
たぶん、今はもう、まったく違う運命を辿っているんでしょうね。
残ったのは『救国の乙女』というルーナ様の肩書きだけかしら。
私の『傾国の悪女』は残らなくていいわよ!
「クリスティナ、すでに陛下との交渉は進んでいる」
「陛下との?」
「ああ。お前への王都追放の王命を撤回するように」
「まぁ!」
そうなのね! 私もいずれ着手しなくちゃいけない問題だと思っていたけど。
まさか、すでに交渉を始めているなんて!
「それから、あの邪神を呼び寄せ、王国の民を脅かしている邪教……教団の名がわかった」
「名前?」
「ああ。彼らが信仰している神、邪神の名を冠している。邪神の名はロビクトゥス」
「ロビクトゥス」
聞いたことはないわね、人生で一度も。
「教義は三女神からの脱却。そして三女神の打倒」
「女神様を倒すの? どうやって」
「呼び寄せた邪神に女神を食らわせるそうだ」
「ええ……?」
どうもエルトが各地の邪神退治をしながら、今まで私も捕まえてきた連中とひっくるめて調査したところ、連中の目的や信仰対象の神様の名前がわかったみたい。
「邪教、改め、ロビクトゥス教団……長いな」
「そうね。ロビク教団でいいんじゃない?」
「では、今後それで」
「いやいや、何を勝手に決めているんだい? 二人とも」
私とエルトが決めた略称にレヴァンが異を唱える。
「邪神の名前なんて丁寧に呼ばなくていいと思うわ!」
「その通りだ」
「いや……それは……そうかもしれないけどね?」
うん、じゃあ決まりね!
「今後、俺たちがするべきことは二つだ。一つは残りの邪神を討伐すること。邪神が襲来すると予測できる候補地はもう少ない。聖女があえて予言を外していた地域は、すでにほぼ制圧している。クリスティナがいる西側がとくに予言から外されていた」
「あー……、わかる気がするわね!」
ルーナ様たちの旅が順番に国中を回るものだったなら、もっと早くにこうして旅先で会えていても不思議じゃなかったはずよ。
アマネが、私とルーナ様を予言で遠ざけていたのね。
「王国の東側は心配要らない。予言に沿って動いていた時に対処できている」
ルーナ様を王国の東側に釘付けにして、私を西側へ。
あとはアルフィナ領の魔獣無限湧き災害で私を殺したかったのかしら。
「クリスティナ、お前とラトビア嬢が揃っているなら。加えて、あのドラゴンで空を飛べるなら最速で邪神の場所を洗い出し、その場所へ辿り着けるのではないか」
「できるわね! クインと一緒に空を飛んで、私の勘で見つけてみせるわ! ルーナ様が一緒にいてくれたら、より見つかりやすいと思う!」
「勘……」
「当たるのよ、私の勘! ときどき『予言』の【天与】ね!」
「勘なのか、予言なのか、どっちなのよ……」
「フフン!」
「褒めてない、褒めてない」
リンディスのお小言が、だんだん雑になってきているわね!
「もう一つは、いなくなった聖女を確保すること。この状況だ。おそらくロビク教団の拠点のどこかに逃れたのではないかという話がある」
「んー……。アマネって、王宮の外に伝手なんかないわよね?」
その点はエルトも知らないのか、説明をレヴァンに譲る。
「……ないはずだよ。ずっと王宮に客人として暮らしてもらっていた。本人が交流を望む相手が少なくて、使用人たちとの交流は最小限だった。アマネが関わっていたのは基本、僕やエルト、ルーナ、ラーライラと……それから」
そこでレヴァンは気づかわしげに私を見る。ん?
「マリウス家のリカルド小侯爵と、その妹であるミリシャだけだ」
「まぁ」
私を追い出しておいてミリシャたちとは交流しているのね!
でも、それもわかるかも。
だって『予言』の世界で私、視ているもの。
アマネが〝たいとるがめん〟と言っていた〝もにたぁ〟に映し出された絵画。
あれにはルーナ様を中心にエルト、レヴァン、カイル、リカルドお兄様が描かれていたの。
あの絵画に描かれていた五人は、きっとアマネにとって重要な人物たちなんだと思う。
「アマネ様にとって、この国を描いた物語がすべてだったのです。アマネ様は言っておられました。彼女が語っていたのは予言とは違うと。それは一冊の本、一つの物語なのだと」
「そう……」
「なぜか私が行く先々で異なる男性たちと恋仲になる物語ばかりなので、全力で否定させていただきました!」
「あはは!」
そういえばルーナ様が誰かとくっつく光景を何度も視ているわね、私も!
「そう言われたら、私が今まで視てきた予言も全部、真っ当な未来じゃなかったわね!」
そもそも全部。アマネと一緒に異界から持ち込まれた、捏造された未来だったのよ。
それがこう……邪神の力で? いえ、あの邪神の中にいる無数の魂もどきのせいで?
リュミエール王国に影響を与えていたのよね!
「じゃあ、アマネが失踪したあとで行く先の最有力候補って、もしかして」
「ああ、マリウス侯爵家だ」
そうなるわよね!
「だが、マリウス家の手の者が王宮で動いた形跡はない。筆頭侯爵家であるため、証拠もないまま聖女をかくまっていると断じることはできず、交渉が続いている状況らしい」
「彼らがアマネを庇う必要性も感じられないけどね……?」
何をしているのかしら、マリウス家は。
私たちの知らない何かがあるのかしら。
それともマリウス家がアマネを匿っているというのは私たちの勘違い?
「彼らの信仰から、王国のどこかでその邪神ロビクを呼び出すことが教団の目的だと考えられる」
「それって今まで戦ってきた邪神とは別のヤツってことよね?」
「そのようだな。この修道院の奥にも連中の手が入っていたようだが、そこに資料が残されていた。他の場所で見つかった連中の痕跡からも、そうだと判明している」
じゃあ、今まで戦ってきた邪神たちは前座なんだ!
雑魚扱い!? これでもけっこう苦労してきたのに!
「残りの邪神を討伐し、聖女の居場所を見つけ出し、おそらく教団の拠点であるだろう場所を突き止め、奴らを潰す。……二つではなく三つだったな」
「んー……。でも、私もアマネは教団関係のところにいると思うわ。だから、やるべきことが二つなのは間違いないと思う。手をつけるべき順番もね」
ここで現れた邪神や、その類似の存在を討伐するのは最優先事項よ。
「邪神を倒してからアルフィナ領の魔獣災害は止まったもの。他の地域でも、きっとそうなるわ」
「俺たちもそう考えている」
じゃあ、やることはシンプルね!
「ルーナ様、エルト、クインに乗って! 三人で邪神狩りよ! リンディスはレヴァンたちと一緒に陸路でアルフィナ領に戻っておいて! アルフィナ領の現状をレヴァンに見てもらいたいから!」
「それは……私はわかりましたが」
「ダメよ! エルトお兄様と二人……ルーナと三人なんて! だいたいルーナは、」
「ライリー」
ラーライラが止めようとするけど、エルトが名を呼んで止める。
「ラーライラ、貴方、決闘で私に負けたんでしょう? なら、ここで止める資格はないわね!」
「くっ……!」
と、いうわけで!
勢いのまま、ルーナ様とエルトをクインに乗せて空へ!
リュミエール王国西側地域一帯の、電撃邪神狩りツアー開催よ!




