71 ルーナからの手紙
フィオナと再会し、エーヴェル家とも連携を取れたことで、アルフィナ領は復興へ向けて、ますます活発に動き始めたの。
「アルフィナ臨時監督官ねぇ」
クルクルと手元にある書状を弄ぶ。
エイガスト伯爵、エーヴェル辺境伯、さらに隣接している領地の子爵。
三家が合同で私をアルフィナ領の臨時監督官として任命してくれたの。
元々は男爵領であるものの、領主がいなくなり、災害の影響で領民は避難。
王都から遠いこともあって手つかずのまま放置されていた領地。
隣接する領地の領主たちが合同で任命してくれたことによって、正式にこの地を監督する責任を負うことになったのよ。
王家にも書状を送ってくれているみたいだけど、返事がくるまで時間がかかるでしょうね。
三つの家が後ろ盾になったようなものだし、私はアルフィナの魔獣災害を鎮めよという王命も受けている。
手続き的にも問題ないはずね!
希少な魔獣素材や食用薔薇、材木を売って資金を調達。
交流している領地から必要物資を買い出し、支援も受けているわ。
領地に帰ってきてくれた避難民も受け入れ、傷んだ家屋の補修に人員を雇う。
ここまでけっこうな時間が経っているけれど、災害と呼べるほどの魔獣発生は起きていない。
やっぱり邪神討伐でいい感じになったみたい。
「…………」
「お嬢、どうされました?」
少し考え込んでいた私にリンディスが声をかけてくる。
領主屋敷の中も整備はかなり進んでいるの。我が物顔でいろいろしているわよ。
セシリアやフィリンたち、侍女組がここぞとばかりに屋敷を綺麗にしているわね。
「邪神を倒したら魔獣災害が落ち着いたなら、他の地域も同じかしら? って思ったの。今はエルトが討伐に出ているみたいだけど……」
「それは……」
フィオナが王都から持ち帰った情報によれば、王都ではいろいろとあったみたい。
私が邪神と戦ったことや、言った言葉が広まって、遠征計画は見直しになったって。
その中で気になるのは、やっぱりエルトのことでしょう。
ルーナ様のことは心配していないの。
たぶん、ルーナ様は生き残れる。それはアマネの予言に従っていても、ね。
でも、エルトの方はどうなのかしら。
ルーナ様がそばにいれば【天与】で治療してくれるから心配いらない。
だけど今はそうじゃないんでしょう?
「エーヴェル嬢が言っていたことが気になっているのですね」
「そうね……」
アルフィナ領にはエルトからの手紙が届くようになった。
彼の部下である騎士がここまで届けてくれるのよ。
でも、直接会えてはいない。
「…………」
私はエメラルドのネックレスに触れる。
『宝石の一族』として育ちながら、家族から一度も宝石を贈られたことはなかった。
リカルドお兄様や妹のミリシャには、いつも誕生日に贈られていたのに。
でも、その理由はあの家で私だけが本当の家族じゃなかったからだった。
私の実の父親は王弟、アーサー。実の母親はマリウス侯爵の姉、セレスティア。
実の両親はすでに亡くなっている。
私にとっての家族の象徴。もちろん、リンディスは私の家族よ。
今ではヨナやカイル、セシリアもね。
そう、家族。このアルフィナ領で一緒に暮らす人々とは私にとって家族だから。
じゃあ、私にとってエルトってどういう存在なのかしら。
まだ二回しか会っていない。『予言』の【天与】で視た夢の世界はノーカウントとして。
二回目は邪神に取り込まれそうになったところを助けてもらった。
そして一緒に戦って、このネックレスを贈られた。
「うーん……」
「お嬢?」
「リン、あのね」
私は、このモヤモヤとした感情について相談する。
初めは真剣に聞いていたリンディスが途中から、なんだか微妙な表情になっていく。
「なぁに、リン。その顔は」
「いえ、その。私が答えるべきかどうか。お嬢の気持ちについてなので……」
「私の気持ちについてリン以外が答えられるの?」
「……お嬢」
リンディスは微妙な表情を浮かべたまま。でも私が信頼していることが伝わったのか、決意を込めたような表情になって言葉にしてくれる。
「強いて言うのなら」
「ええ」
「お嬢らしくないですね」
「……私らしく?」
「そうして悩まれるより、まず行動するのがお嬢かと思います」
少しキョトンとしたあと、リンディスを見て。
「うふふ! 確かにそうね!」
モヤモヤするくらいなら、まず行動だわ!
じゃあ、まず会ってみようかしら! 会わないと始まらないわよね!
「よぉし! じゃあ、リン! アルフィナ領の復興計画をカイルやフィオナに引き継いでから、おでかけよ!」
「ええ……? 臨時監督官になったばかりで出ていくつもりですか? 無責任ですけど」
リンディスが行動しろって言ったんじゃないの!
まぁ、その行動内容を決めるのは私だけどね!
ひとまず、エルトに会いに行く前にアルフィナ領内のことを整える。
まだまだ忙しいからね!
カイルには食用薔薇から〝薬用薔薇〟の研究に移ってもらったの。
薬にできる成分が残るように調整した薔薇よ。
ちょっとだけ医者っぽい仕事になったわね!
それだけじゃなくてカイル用の医療院も建ててもらっているの。
カイルは私の専属医がいいって言ってくれているけど、私って、あんまり病気にかからないのよねぇ。
元気に生きてきたものだから、それだとカイルの技術を腐らせちゃうもの。
それだったら、カイルが本格的にお医者さんとして働けるように手配する方がいいわよね!
医療系に関しては意外とフィオナが詳しいの。
紛争が絶えないエーヴェル領の娘らしいわね!
だから、カイルとフィオナでよく話をしてもらっているわ。
ヨナは、いろいろと勉強中。
それだけじゃなく火の魔術で金属加工のお手伝いもするようになったわ!
基本的に魔獣への攻撃用じゃなくて、生活用の魔術なのよね。
ヨナも、カイルも、セシリアも、アルフィナ領での生活を整えていく。
ふふ、なんだかそれが嬉しいわ。
そうして準備をさっさと整え、調整してからクインで出発の準備をする。
目指すはエルトの場所なんだけど……どこにいるのかしら?
「手紙は、いつも決まった場所から来ないから、今どこにいるのかわからないのよねぇ」
エルトの部下である騎士たちに聞いても、わからない。
次の手紙を届けに来てくれた時に一緒に行くのがベストなんでしょうけど。
私は今、会いたいのよね!
「クリスー!」
「ん? フィオナ?」
今にもアルフィナ領からクインで飛んで行こうかって準備していたところにフィオナがやってくる。
街道がつながってから、自由に行き来しているのよ。
「手紙が来たわよ!」
「手紙?」
エルトからかしら。ちょうどよかったわね!
「救国の乙女、ルーナ・ラトビア・リュミエット嬢から!」
「……ルーナ様から?」
あら、これは意外。ちょっと想定外だったわ!
それをどうしてフィオナが届けてくれるのかしら。
まぁ、いいけど。
私はルーナ様からの手紙を受け取って、封を開く。
そこには……私と会いたいって書かれていたの。
それも今、一緒にエルトがいるんだって!
「まぁ! 流石はルーナ様よ。タイミングがいいわね!」
「え? どういう内容だったの?」
「呼び出し状!」
「え?」
「じゃないけど、似たようなもの! 近くに来ているらしいから! フィオナ、行ってくるわね!」
「え、ちょっと、クリス!?」
「リン! 行くわよ! クインに乗りなさい!」
「は、はい!」
私はクインに飛び乗って、リンディスもクインの背中に引っ張り上げる。
「フィオナ! カイルたちによろしくね!」
「クリス! ……気をつけてね!」
「ええ! クイン!」
『キュアアアア!』
私はリンディスと一緒にクインの背に乗って空へ舞い上がる。
さぁ、目指すはルーナ様が指定した約束の場所。
……マリルクイーナ修道院よ!




