70 親友
フィオナと手を取り合って再会を喜び、また集まってくれた伯爵や、見学者たちにも代表して挨拶する。
アルフィナ領は、まだ何もないところだけれど、復興に力を貸してほしいと。
ふふ、ほぼ勝手に居座って領主面しているだけなんだけどね!
やっぱり、ここは一つ陛下から男爵位くらい、もぎ取ってこようかしら。
フィオナはエーヴェル辺境伯家を代表してここに来てくれたらしいわ。
「エイガスト伯爵自らが来られるとは……。申し訳ございません、父ではなく私で」
「いえいえ、エーヴェル嬢。今回の見学は、多分に私の興味が勝ちましてな。一度はきちんと見ておきたかっただけなのです」
伯爵って、かなり私に好意的よねぇ。といっても別にこう、男女的な熱意は感じないのよ。
やっぱり信心深いのかしら? 間近で『怪力』の【天与】を見たかったみたいね。
「クリスは、もうずいぶんと【天与】が使いこなせるようになったのね。本当によかった、かな?」
「あると便利ね!」
「ふふ! クリスは【天与】があってもなくても変わらないわよね!」
久しぶりにフィオナと会って、ついはしゃいでしまうわね!
伯爵の前だから、なんとか控え目よ!
エーヴェル辺境伯領側では、どうもちょっとした〝お祭り〟になっているみたい。
「街道開通記念なの。でも、思ったよりも早かったから、あんまり準備ができていないわ」
「まぁ!」
なんだか楽しそうなことしているわね!
「エイガスト伯爵閣下、よければ父のもとへご案内致します」
「それには及びませんよ、エーヴェル嬢。どうぞ旧交を温めてください。辺境伯には改めてご挨拶させていただきます」
伯爵は、本当に私の作業を見に来ただけみたいで、あっさりと帰っていったの。
私の通した道を通ってね!
本来なら正式なアルフィナ領主がいて、街道計画の式典とかを領地でやるべきなんでしょうけど。
今は、そこまで手が回らないし、私がやっていいのかも不透明なのよね。
エーヴェル領とつなぐ道を作るのは復興を早めるためだから、やってよかったの。
こっちにもアルフィナからの避難民がいるからね!
もろもろの片付けを済ませてから、フィオナと一緒にお祭りを楽しませてもらうことにする。
ふふ、森を叩き開いた先でお祭り! とんでもない体験ね!
「フィオナ、改めて言うけど久しぶりね!」
「ええ! ……元気そうでよかったわ。クリス、突然いなくなっちゃうから」
「あー……」
私はある日、王宮に呼び出され、レヴァンに婚約破棄をちらつかせられて、予言を信じるっていうから怒って王太子をぶん殴ったわ。
そこから不敬罪で拘留、貴人牢に入って……。
陛下に三つの王命を降され、王都を追放されたのよね。
学園どころか、家に帰ることもできないまま、王都を出て旅をした。
「王都や学園はどうなったの? 私がいなくなったところで変わらないかもだけど。魔獣災害は?」
「王都には災害は起きていないわ。だから他の地域と比べて平穏だったよ。学園は……いろいろな噂が飛び交っていたわね。まぁ、あんまりこれは聞いても仕方ないことよ」
「学園の噂は今さらだものね!」
学園での私の評価は、そもそもよくない。
ミリシャが積極的に私の悪評を広めているし、マリウス侯爵は私を支援しないし。
侯爵令嬢パワーや、王太子の婚約者パワーがプラスに働かないのよねー。
それでもまぁ、好きにやれていたのは多少レヴァンも影響しているのかしら。
ちなみにレヴァンは私の年上で二十歳だけど学園には途中から通っていなかったの。
私と同じ世代だったら、もっとレヴァンの影響もあったのかもしれないわね。
レヴァンは二年ほど学園に通ってから士官学校に移ったわ。
士官学校っていうのは騎士たちの学校みたいな場所。
それもエリート騎士のためのものね!
騎士だからって剣を振って、体力作りだけしていればいいわけじゃない。
学問をおろそかにはできないの。
戦術論や会計業務だってあるし、騎士でありながら領地を持つ人もいる。
レヴァンはそのエリート校でエルトと会って親友になったらしいわ。
ふふ、私とフィオナみたいな学舎で出会った親友ね!
私とエルトがあの決闘の時まで出会わなかったのはそういう理由もあるの。
そもそも通う学舎が違うし、世代も違う。
あとエルトって王都を避けていたらしいからね!
「……クリスの扱いは不当だって怒る人たちも、たくさんいたんだけどね」
「そうなの?」
「うん。だってクリスが思っているより、貴方を慕ってくれている人は多いもの」
「ええ……?」
そうかしら?
「ただまぁ、筆頭侯爵家のご意向に逆らえない人は多いから」
「そういうのもあるわよねー」
結局、ミリシャが悪評の根源だからね!
ちなみに私自身もいろいろとやらかしているから、私のせいでもあるのよ!
「クリスに助けられた人も多いからね。私もそうだし?」
「フィオナは自力でどうにかしていたわよ!」
「ふふ、それでも助けてくれたわ」
フィオナと初めて会ったのは学園校舎の裏側なの。
そこでフィオナが他の女子生徒に絡まれていたのよね。
辺境伯家を田舎者って誤解している子がいてねぇ。
ビビッと感じた私は、その日は校舎裏を見に行ったの。
そこでさっそうと現れて嫌味を言って追い返したのよ!
「思えばクリスって出会った頃から不思議な感覚を持っていたのよねー」
「そう? そうかもね!」
あの時のビビッとくる感覚は、今も時折あるのよね!
『予言』の【天与】の派生なのか、女神様の思し召しなのか。
そういう感じの直感よ。
「それが今は女神の巫女と評判で、王都に嵐を巻き起こしているみたい」
「王都に嵐?」
また災害?
「ふふ、私も見たよ、クリスの大活躍」
「私の?」
「王都でね、ルフィス家のフェリシア様が『光翼蝶』の【天与】を使われたの。それもレヴァン殿下の凱旋に合わせて、たくさん人が注目している中で」
「まぁ! 私も見たかったわ!」
「んん、クリスがあれを見たいっていうと変な感じ」
「ええ?」
なんでよ。
「フェリシア様の【天与】は、王都の空に大きくアルフィナの光景を映し出したの。クリスがあの黒い巨人……邪神と戦う姿をよ」
「ええ……!?」
王都で、空に?
「あれ、見ていたの? フィオナも?」
「うん! 私だけじゃなくて、きっと王都中の人がね!」
「まぁ……」
王都中の人が!? それは想定外ね!
光翼蝶の向こうにいるのはルーナ様とルフィス公爵令嬢だけかと思っていたわ。
それからフィオナが教えてくれた。
あの時、私がルーナ様に忠告したアマネの件が大きな議論を呼んだみたい。
そのせいでエルトたちの遠征計画も変わって、アマネの評判も激変して……。
「まぁ、なんだか大変ね、王都も」
「クリスが発端なんだけどねぇ……」
そんなことを言われても困るわね!
でも、アマネの評判が激変かぁ。……うーん、ちょっとざまぁみろ?
「遠征計画が見直しになって、いろいろとゴタゴタしてきてね。それで……そう。王都が安全なのか不安になる人が多くなったの」
「王都が?」
「だって今まで王都が安全だと思っていたのは、実際に災害が起きていなかったのもあるけど。予言の聖女が王都で災害が起きると予言していなかったことが大きな理由だもの。その前提が覆されてしまった。それどころか、むしろ逆じゃないかって話題になってね」
「逆?」
フィオナはコクリと頷く。
「予言の聖女が今まで避けていた場所にこそ、災害の原因があるんじゃないかって。その範囲に王都も含まれているんじゃないかって」
「ええ……? それはどうなのかしら」
私はそこまで言っていないわよ?
「実際、ベルグシュタット卿がそれを明らかにしたらしいの」
「エルトが?」
どういうことかしら。
「聖女が予言上、示さなかったルートをレヴァン殿下たちとは別の部隊を率いて遠征に出ることにしたらしいわ。それで……実際に、あのクリスも戦ったような邪神と遭遇しているみたい。私は実際にそれを目撃したわけじゃないけど」
「エルトが他の邪神を」
まぁ、エルトなら大丈夫そうね!
それでも私も応援に行こうかしら? 近くならクインに乗っていけそうよね!
「それで王都が安全じゃないかもしれないからって私は実家に帰ってくることになったのよ。こっちに来ればクリスとも会えるかもって思ったのもあるわ」
「ああ、それで戻っていたのね!」
じゃあ、私の戦いも無駄じゃなかった? なんか違うわね!
「それでベルグシュタット卿がね、大勢の前でひとりごとを……叫んだわけじゃないらしいけど」
「うん? エルトがひとりごと?」
「そう。王都で映し出されたクリスの戦う姿を見上げながら、手を伸ばして……」
「うん」
そこでフィオナはなぜか言葉を切って、私をジッと見つめてくる。
ちょっとだけ私より背が低いフィオナが見上げるように。
「クリスってベルグシュタット卿のこと、どう思っているの?」
「エルトのこと?」
「そう。……名前呼びなんだね」
どう思っているかというと。
「好きよ?」
「え……」
「いろいろと助けられたのもあるし、生まれて初めて宝石も贈ってもらったし。それに」
私は『予言』の世界に閉じ込められかかっていた時のことを思い浮かべる。
まぁ、あれは本人じゃないけどね!
「まぁ、いろいろね!」
「……そうなんだ。ふぅん、へぇ、ほぉん」
何かしら、その探るような目は!
「あと、今は偶に手紙も受け取っているわ!」
「手紙?」
「そう。今、アルフィナ領にはエルトが支援してくれた人材が来てくれて、一緒に生活しているんだけど。その最初の支援から定期的に手紙も届くようになったのよ」
「手紙って、ベルグシュタット卿から?」
「そう!」
「……手紙を受け取って、クリスがそれを読んでいるの?」
「ええ!」
「……思ったよりもマメな人なのね。有名な騎士様だから、こうガサツなのかと」
ガサツ? うーん。どうなんだろう。
たぶん、私と気は合うと思うわ。でも、私ほど……大雑把じゃないかも。
アルフィナ領に届けてくれた支援物資や人員もあるし、そういう手配ができる人よ。
「もうちょっと、こう、足りなそうね。まず会う機会が少ないのが……。ううん、クリスにそこらの男は釣り合わない。それを考えたら……高位貴族の令息は私も目を光らせていたけど、売れ残りは少ないし……。ベルグシュタット卿は王女の話題を避けていたせいで……せっかく、いえ、これもクリスと出会う運命みたいな……。王太子の次というなら……いえ、いっそ誰も目をつけていない相手が他に……。クリスをそこらの男には渡せないわ、しっかり観察して……それでも……」
なんだかフィオナがブツブツ言い始めたわよ!
「……安心して、クリス」
「うん?」
何を?
「私が必ず見極めるわ、クリスの親友として!」
「何を!?」
久しぶりのフィオナは謎の決意を固めていたわ!




