65 蛮族令嬢
光る蝶からルーナ様の声がするわ!
私はドラゴンのクインの背に立ち、薔薇の手綱でバランスを取っている。
光る蝶は、クインのスピードについてきているから、ヒラヒラと舞うって感じじゃないわね!
「なんでルーナ様の声がするのかしら!」
『ルフィス公爵令嬢……フェリシア様の『光翼蝶』の【天与】です! 私も驚いていますが、ここからクリスティナ様のところへ、つながっているみたいです!』
「そうなの! これが【天与】の力! ルーナ様は今、どこにいるの?」
『私は今、王都にいます!』
王都から! ずいぶん遠くとつながっているわね!
『それよりクリスティナ様、どういう状況なのですか!? 私たちには、黒い大きな……巨人? 魔獣が! それにクリスティナ様は空に? ドラゴン? いったい!?』
ルーナ様も混乱しているわねぇ。
それにルフィス公爵令嬢の【天与】なんて。
「どういう状況っていうと見たままなんだけど。そっちからは、こっちの状況が視えるの?」
『はい! 視えています!』
へぇ! 遠くを視る【天与】! それだけじゃなく声を届けられる!
便利な力だわ!
「じゃあ、見たままよ! 今、邪神と戦っているところ!」
『邪神……!』
「こいつで戦うのも三体目だけど、見た雰囲気はそこまで他のと変わらないわね! 最初は、もっと人型だったんだけど、今は多足で四本腕のわけわかんない姿になったの! アルフィナ領の奥で開いた大地の傷から出てきたわ! ちなみにこのドラゴンの名前はクイン! さっき会ったところだけど、飼うつもりで飛び乗って【天与】でご飯を食べさせたら仲良くなってくれたわ!」
一息で今の状況を説明してみたわ!
『三体目の邪神、ドラゴンは会ったばかり? 飛び乗って??』
「そうよ! フフン!」
『ええ……?』
何かしら、その反応は!
私は『毒薔薇』の【天与】で邪神の足止めをしつつ、体を削りながら話を続ける。
「そういえばルーナ様!」
『は、はい!』
「ついでだから言っておくけど、これ以上、アマネの予言に従ったらダメよ!」
『え?』
まぁ、これは私の直感にすぎない。その域を出ないのだけど。
「この邪神、私の【天与】に反応して出てきたわ! それに、このアルフィナの魔獣災害、私が死ぬまで終わりそうにないんだけど、それってアマネの予言がそうだから、よ!」
『アマネ様の予言が……そうだから?』
「そう! 順番が〝逆〟なのよ! まぁ、アマネは自覚なんかないでしょうけどね! アマネは未来で起きる事象を当てているんじゃないわ! アマネが予言したから、異界から、こっちの世界にその運命を持ってきたから、こっちでもその通りになっているの! 三回、邪神と戦ってきて、そういう流れを感じたわ! とくに前回ね! アマネの世界で描かれた〝シナリオ〟の通りになる、呪いみたいなもの! だから嵐がリュミエール王国だけを狙って起きたのも、魔獣災害が王国各地で起きているのも、みーんな邪教の侵略作戦ってわけ! アマネはたぶん連中の媒介か何かね! だからアマネの予言に従っていたらダメよ! 連中の思う通りになるし、女神の障害になるわ!」
『そ……。それは……確かなことなのですか?』
「勘よ! 私の『予言』の【天与】で、何度もアマネの世界や、アマネが視てきたっていう予言書の世界を覗き見たり、体験したりしてきたけど! 現実の世界とは違うものだったわ!」
『勘……』
「そう、勘! フフン!」
私はクインの背中で胸を張ったわ!
「そうは言っても、アマネに救われた人々はそんなこと信じないでしょうから、この話は内緒ね! せめてルーナ様だけでも気をつけて! ルフィス公爵令嬢にも注意するように言っておいてね! 連中の狙いって、どうも女神の【天与】を授かった私たちみたいだし! アマネの予言に従って単独行動なんてしたら罠って可能性が大きいから! 本人の自覚がないのが、もう性質悪いわよね!」
『え、ええと、その……。クリスティナ様、この話を聞いているのは私だけじゃなくて……』
「ああ、ルフィス嬢も一緒なの? さっきの声は彼女ね! 落ち着いたら、また話しましょう! とりあえず今は流石に邪神に集中するわ!」
『あ、は、はい……。いえ、どうか力になりたくて!』
力に?
「もしかして、この蝶を通してルーナ様の『聖守護』が届くの?」
『……えっと、はい! そうみたいです!』
「まぁ! それはありがたいわ!」
ルーナ様の『聖守護』の力は、浄化や結界、癒しの力がある触れ込みよ!
防御や回復特化ね!
じゃあ、多少の怪我は平気だわ!
「わかったわ! じゃあ、援護をお願い、ルーナ様!」
『はい!』
フフン! 女神の【天与】の共闘よ! これは百人力ってやつね!
突然の出来事に驚いたけど、とにかく集中!
こっちの様子が、どこまでルーナ様に伝わっているのかわからない。
細かい結界の張り方とかは難しいわよね。
リンディスたち一人一人を守って、とか。
だったら大味に援護ができるようなのがいいわ。
「クイン! 正面突破するわよ!」
『キュアア!』
「ルーナ様! 私、今からあの邪神に突っ込むから!」
『ええっ!?』
「私の体を【天与】で守って!」
『は、はい!』
よーし! ルーナ様の【天与】で守られているなら、前回飲み込まれた時みたいにならないでしょう! たぶん!
「──浄化の黄金薔薇!」
邪神の体にひたすら纏わりつくように、光を放つ黄金の薔薇を咲かせる。
『あれは……!?』
「私の【天与】による浄化よ! 大地の傷を癒やして塞ぐ力ね! 本当だったら、ルーナ様と一緒に行動した方が効果は出たかもしれないわね!」
私が『怪力』の【天与】を使えるようになったのもルーナ様の力を見てから。
思うに、私たちの力って互いに共鳴して、強めるんじゃないかしら。
私、最初からルーナ様のこと嫌いになれないって思っていたのよね!
『クリスティナ様の浄化……』
咲き乱れる浄化薔薇で邪神の動きを封じ込めていく。
クインがまっすぐに邪神へ向かい、それを迎撃するように動く邪神。
「ルーナ様!」
『──光よ! 護って!』
ルーナ様の声とともに私の周りに結界が発生する。
「すごい、本当に【天与】が届いたわ!」
それに力が湧いてくるわ! やっぱり協力した方がいいみたい!
これならいけるわね!
「クイン! 邪神に向かって思いきり私を飛ばしなさい!」
『キュア!』
『クリスティナ様!?』
ハイスピードの突進とタイミングを合わせて、私は薔薇の手綱を解いた。
『キュアアア!』
その勢いのまま、邪神の巨体へ吹っ飛んでいく私の体!
もちろん『聖守護』の結界だけじゃなく『怪力』の加護を全身に纏わせているわ!
浄化効果も含む身体能力の強化に、結界も合わせて、思いきり!
「──フンッ!!!」
ドゴォオオッ!
邪神のドテっ腹をぶち抜いてやったの! フフン!
『ァアアアアアア!』
断末魔の悲鳴が上がる。
突進した角度的にこのままだと地面に激突するから私はさらに薔薇の蔓を伸ばした。
「伸びて、掴まって、薔薇よ!」
邪神の巨体に先端を絡ませ、勢いを円運動に変えて方向転換。
体の反対側に回って上空へ軌道を描く!
移動に使った薔薇の蔓は、あえて霧散させる。
「はぁああああ!」
空中に浮遊する感覚を覚えた瞬間、また蔓を伸ばして邪神の巨体に接続!
今度は引っ張るような力にして再突進よ!
「せやぁあッ!」
今度は拳じゃなく魔法銀の剣を抜いて邪神を切り裂く!
勢いが足りなかったら表面を滑る体なのよね、こいつ! 泥だから!
だからエルトに貰った剣が重宝する。
私は飛び回って、跳ね回って、薔薇と剣と拳で邪神を攻撃しまくっていくわ!
そうすると見る間に邪神の体が削れていく!
私の動きがあまりに縦横無尽……無茶苦茶だからか、光翼蝶はついてこられない。
フフン! ちょっと楽しいわよ、これ!
空を自由自在に飛び回っているようなものだもの!
胴体だけじゃなく、手も足も切り刻み、砕いていく。
邪神って集合体なのよね! 異界から流れてくる邪念の、魂みたいなやつの!
だから、こうしてとにかく削っていけば、だんだん形を保てなくなっていくの!
流石に私も三回目だから邪神との戦いに慣れてきたものよ!
多少の傷を負っても、今ならルーナ様の治癒のおまけつき!
ちょっとさっき、反撃で伸びてきた棘が槍サイズで危なかったけど、すぐ治ったわ!
ルーナ様の協力がなかったら、体に穴が開いたままになったところ!
これなら負ける気がしないわね!
あとはリンディスたちに被害が及ばないかどうか!
領民ゼロだから、それだけ気にしていれば平気よ!
大方を削り切った邪神の体は、もう腕は一本だけになり、たくさんあった足は潰れ、切り落とされて体を支えられずに動きが止まっている。
邪神の体に支点となる薔薇の蔓を伸ばしたまま一度地面に足をつき、勢いのまま駆ける。
円軌道の勢いを殺さず、体は斜め向きだから落下の衝撃はないわ!
ただ、大地を駆ける勢いを【天与】でさらに底上げして、邪神の正面に再び回る。
「はぁああっ!」
そして私は邪神の真正面、左右で眼の形が違う顔の前へと飛び上がる。
渾身の力と【天与】の光を込めてぇ……。
「──フンッ!!!!」
ドゴォッ!!!!
邪神の頭部が吹っ飛んで浄化され、霧散していく。
「浄化の黄金薔薇……巨大槍!」
頭部のなくなった邪神の首に薔薇を植えつけ、巨体の内側を貫くような大樹の槍を咲かせる!
『ギャ……ァアアアアアアア!!』
頭部以外から漏れてくる邪神を構成する要素の断末魔。
体を貫く大樹が内側から浄化することで、邪神は姿を保っていられなくなる。
『ァアアアアア……』
私の体は、ふわりとした浮遊感のあと落下し始める。
邪神の巨体という掴まる場所がなくなったから、薔薇の蔓を伸ばす場所がない。
このままだと地面に落ちて大怪我かも……!
「クイン!」
『キュアアアアア!』
私の呼びかけに応じたクインが滑空してくる。
その姿に向かって薔薇の蔓を伸ばして、どうにか掴まった。
「いい子ね、クイン。あとで御馳走を用意するわよ」
『キュア!』
私は再びクインの背に乗り、邪神を討伐したことを確認する。
あとは空に開いた大地の傷を薔薇で癒やして……討伐完了!
「フフン! 大勝利!」
『キュアア!』
私はクインの背の上で右手の拳を大きく空に掲げたわ!




