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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化】  作者: 川崎悠
三章 民なき領地

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63 三度、邪神と相対す

 大地の傷から現れた、新たな人型邪神は、前回と違って〝顔〟があるわ。

 でも、片目が大きくて、もう片方の目は縦型?

 いえ、あれは動物の目ね。


 半分動物、半分人型。相変わらず黒泥でできた体で、外の世界に出てくるだけでドロリと零れ落ちていく。

 零れた先に明らかな瘴気が発生し、森を腐らせていくのが見えたわ。


「なにあれ!」

『キュア!』


 あんなのを暴れさせたら、とんでもないことになるわよ!

 放っておいたら隣領に行っちゃうし、それだとフィオナの故郷がダメになる!


 今までは邪教徒がそばにいたはずだけど、今回はその気配がない。

 なんの違いがあるのかしら!

 それになんだか出てきたタイミングが、私の浄化薔薇に被っていたみたい。


「……罠?」

『キュア?』


 ああ、これ。私がこのアルフィナ領に来るとわかっていたからこそ張られた罠ね?

 私が近付いて、【天与】を使ったタイミングで出てくるようになっていたみたい!

 もう、私をこの場で潰す気満々じゃないの!


「クイン! 一旦、さっきの場所近くまで降りて!」

『キュア……!』


 竜餌薔薇を食べさせてあげてから、すごく素直になってくれたわね!

 リンディスやカイルたちがいる場所に降下していく。


「リンー! カイルー! 邪神が森の奥に出たわ! 避難して!」

「クリスティナ!」

「お嬢!」


 地上にまで下りず、空を飛んだままのクインの背中から顔を出して見下ろす。


「邪神は前回のと似た雰囲気の人型ね! 森の奥に出てきて、それだけで被害を出しているわ! 貴方たちが森の中にいて巻き込まれたら、ひとたまりもない! 今すぐ森を出て!」

「……承知しました!」


 リンディスと騎士三人は私の指示に従う。でも、カイルは。


「クリスティナ、僕は君の力になりたいのに」

「カイル! 今は無事でいることが大事よ! それに貴方たちが私を信じて、私についてきてくれる……それが私の力になるわ!」


 そう。前回の邪神との遭遇でわかったこと。

 【天与】の根源は愛だって! アルフィナまで一緒に来てくれた仲間たち、そしてここまで駆けつけてくれたみんなもいる。

 私は一人じゃないってことがわかっているから。

 それが私の力になるのよ。フフン!


「……わかった。クリスティナ、無理はしないで」

「ええ!」


 カイルにも森から退避してもらい、私は再びクインに上昇するようにお願いする。


 邪神は大地の傷とつながったままに見えるわね。

 というより、あれは出てこられない?

 体がひっかかっているのよ。でも、完全に出てくるのは時間の問題かも。


「クイン! 近づいて!」

『キュアアア!』


 まず、あれがどこにもいけない〝檻〟を作る!


「『毒薔薇』の【天与】──浄化の黄金薔薇、巨大槍!」


 蔓性・木立性の両方の特性を備えて、螺旋状に地面からせり上がってくる黄金の薔薇。

 遠くから見れば巨大な黄金の槍になるわ。

 邪神を取り囲む形でその槍を何本も生やしていく。


『キュアアア!』


 クインが邪神の周りを旋回し、私はその下に黄金の槍を生やす。

 あんまり深く【天与】の射程距離って考えたことがなかったのだけど。

 どうも見える範囲、というにも限度があるみたいね。

 私から離れすぎていると薔薇は咲かせられない。

 ……これも出力の問題かしら? 私がもっと……いえ、今はいいわ。


『ァアアア……ァアアアアアアアアアアア!!!!』


 ビリビリビリ!


「くっ……!」


 空気を震わせる大音量の絶叫を上げる邪神。

 半獣半人の形状が、中途半端に世界に出てきて苦しそうに見える。


『悪役令嬢!』

『クリスティナよ!』

『私! 私がなるの!』


 それから前回も聞こえてきたような何人もの声が重なって聞こえる。

 どうも邪神の中身(・・)は、私の体を乗っ取りたいみたい。

 女神の巫女の体を乗っ取ることが邪教の目的のようね。

 すでにこいつで相対するのは三体目。

 私とルーナ様、それからルフィス公爵令嬢となり代わるために生まれたのかしら。

 それとも私だけを狙っているの?


「どっちにしろ、ふざけないでよね!」

『キュア!』


 檻に囲った邪神がどうにか腕を振り回し、暴れる。

 森の奥の木々はそれに合わせて吹っ飛ばされていく。

 黒泥が木々を腐らせているし、資源がもったいないわね!


 黄金槍の檻からはきちんと邪神を捕らえ、外に出られないようにしている。

 ただ、大地の傷が広がっていくのが見えた。

 あれは邪神を倒さないことには塞げないわね。


 私は左手で薔薇の手綱を掴んだまま、右手を邪神に向かって掲げる。


「浄化の……黄金薔薇(へび)!」


 槍のように硬いものではなく、しなり、うねる蛇のような薔薇を地面から生やす。

 巨大な鞭のように邪神の体を打ち据える。


 ドゴォオオ!


 ただ、規模だけが大きくて迫力のある衝突。

 今、クインの背に乗ってなかったら衝撃波だけで吹っ飛ばされて大変だったでしょうね!


「クイン、ありがとうね!」

『キュア?』


 出会ったばかりのドラゴンなのに、素直に言うことを聞いて私を乗せて飛ぶクイン。

 空からこの状況を見られているからどうにかなっている。

 私がもっと違う形で罠を踏んでいたら危なかったと思うわ!


 薔薇蛇で邪神の体を削りながら、巨体が暴れ回るのを抑え込む。

 黄金槍も、薔薇蛇も確かに効いているわ。

 おかげで邪神はその黒泥の体を削れられている。


 でも、その進行が止まらず、とうとう大地の傷から這い出してきてしまった。

 歪な二つの眼が私を睨む。


 半獣半人の形状だったのが、ドロリと肉が増えていく。


「うぇぇえ……」


 気持ち悪い変態をし始めたわ!


 足は四足、いえ、もっと。人間の足型なのに複数本が生えてきた。

 むかでみたいにそれで歩き進み、森を踏み均していく。

 二本腕だったものが四本腕になり、巨体でブンブンとそれを振り回す。


「こんなの人が暮らしている場所で出てきていたら、とんでもなかったわね!」


 でも、ここで止められなかったら、それはそれで同じことよ。

 巨体だからこその速度で、邪神はあっという間にアルフィナ領の端まで侵攻してくる。

 上空から見たけど、どうにかリンディスたちは森から逃げたあとみたい。

 でも、この速度だと追いつかれるし、そもそも領主屋敷まで危ないわ!


 私の攻撃が効いていないわけじゃないみたい。

 ただ、それ以上の再生力と力がある……。

 私の力も以前より強まっているのに、こいつはそれ以上なの。

 邪教徒たちが相当、準備をしてきたってことかしら。


 加えて、さっきから私の視界が乗っ取られるような感覚がある。

 『予言』の【天与】に介入されているみたいね。私は意識してそれに対抗している。

 でも、その中でも視えてしまうのは、黒い〝もにたぁ〟に浮かぶ赤い文字。

 予言の向こうの景色が、現実の景色に重なって視える。


『WARNING!』

『敵レベル99』


 ……意味はわかるようでわからないし、邪魔ね!

 たぶん、アマネが見ていた予言書の中では、かなりの未来で出てくるべき存在みたい。

 私はその過程をすっ飛ばしてこの邪神と相対している。

 あるいは、邪教徒がそうなるように仕組んだ。


 以前と違って【天与】への介入を跳ねのけられるのは、きっと私が成長したから。

 私を支えてくれる人や、愛情の存在を感じられているからよ。


 だけど、まだ足りない。


『──助けは必要かしら』

「……え」


 クインの背に乗り、どうしようかと考えながら邪神を攻撃していると声が聞こえた。

 私、空を飛んでいるのに?


 視界の端に視えたのは、光を放ちながらヒラヒラと舞う蝶。これって……。


つなげて(・・・・)あげる』

「つなげる? 何を」


 知らない声が聞こえたと思ったら、そばを舞う蝶々が一際強い光を放った。


『……ティナ様、クリスティナ様!』

「ええ……? この声って……もしかしてルーナ様?」

『はい! そうです!』


 蝶々が白い煙みたいなモヤを出し始めて、その向こうからルーナ様の声がする。

 いったい何がどうなっているのかしら!


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