59 支援到着
私たちは、アルフィナ領での生活を続ける。
拠点の整備。領地の見回りと魔獣の撃破。大地の傷の修復を繰り返したわ。
「魔獣の発生には周期があるみたいだね?」
「そうね」
確かに、このアルフィナ領では定期的に魔獣が発生するみたい。
放っておけば大量発生となるかもしれない。
そこは私の浄化薔薇で未然に防いでいるって感じね。
「いっそ、アルフィナ領全域に予め浄化薔薇を咲かせておく?」
「……効果持続がどこまで続くか、かな」
永遠に大丈夫ってことにはならないのよね。
どうしたものかしら?
「今までクリスティナが塞いだ大地の傷の発生場所は、地図に残してあるんだ」
「そうなの?」
カイルったらマメな仕事をするわね!
「まだ発生回数が少ないから結論は出せないけど、今のところ同じ場所には大地の傷は生じていないようだ。それから徐々に森深くに発生場所が変化しているように思う」
「見せてもらえる?」
「ああ」
私はカイルが手に持っている地図を一緒になって覗き込む。
印がつけられている場所が今まで大地の傷があった場所ね。
「確かにカイルの言う通りだわ」
「このまま町の中には発生せず、森の中だけに発生するというのなら、まだやりようがある」
「何かするの?」
「森から魔獣が出てくると決め打ちして、そこに罠を仕掛ける。或いは、魔獣が発生しない時間帯に森深くまで進み、先に原因を潰す」
罠は仕掛ける予定だったわねー。
でも、どんな罠を、どこに仕掛けるのかが決まっていなかったのよ。
今回は森の入口にしようって話ね。
「ちょっと大変ね」
「そうだね。やっぱり人手も、戦力も厳しいな。クリスティナの【天与】があるからどうにかなっているだけだと思う」
そうはいってもカイルはかなり強い方だと思う。
リンディスだって優秀だわ。それからセシリアもね。
ヨナは火の魔術で支援してくれていて、とても助かっている。
少数精鋭ってやつなのよ、今。
「私だけじゃなく、みんなもいてくれるからね!」
「……うん。それはそうだね。それでもクリスティナの存在は大きい。だいたい君がいなければ、僕たちは集まってもいないからね」
うーん、それは確かにそうかしらね!
「このままでは隣領へ物資の買い出しにも行けない。来るまでに揃えたものはあるけど……」
そこが問題なのよね!
魔獣は発生しているものだから、どうしても私たちはここで踏み止まって戦う必要がある。
とくに私は、早々に大地の傷を塞ぎに行かなきゃ、余計に苦労することになるわ。
ここで魔獣を食い留めることは隣領の被害を抑えることにもつながる。
森の向こうにはエーヴェル辺境伯領があるし、フィオナはまだ王都かもしれないけど、親友の領地を危険には晒せない。
「リンディスかカイル、セシリアが単独で行ってもらうことになるのよね」
「……そうだね。
お使いがこなせないわけじゃない。
でも、戦闘ではやっぱりサポートがあった方がいいのよね。
カイルは的確に指示をしてくれるし、リンディスは幻影の魔術で支援してくれて私を戦いやすくしてくれる。
戦場の全体を見る目があることや、サポートがあることで余裕が生まれて戦いやすくなる。
このバランスは崩さない方がいいと思う。
どこかで気を抜いたら大怪我をしてしまうかもしれない。
じゃあ、セシリアやヨナだけ買い出しに離れてもいいかというと、後方支援もあってこその余裕だと思うのよ。
ご飯の支度や寝床を整えたり、衣服を洗濯したり、そういう部分ってかなり大きいわ。
戦い疲れて帰った先で、そこまでやって……となると疲労の溜まり方が違う。
だから、やっぱり今のバランスって崩さないまま戦いを続けるのがベストだと思うのよね。
でも、それだと物資がいずれ足りなくなるだろうジレンマ。
「……ひとまず、罠について考えようか」
「ええ!」
やれることをやっていくしかないわね!
アルフィナに発生する魔獣は、どうやら発生周期だけじゃなく、ある種のパターンもあるみたい。
「雑魚が最初に出てきて、その波がいくらか続いたあと、同種族の大型、つまり群れのボスらしきものが発生するんですかね?」
「今のところそんな感じね」
大地の傷の場所だけじゃなく、私たちの戦いの記録もつけているわ。
戦った相手。
たとえば角つき狼は、最初の襲撃から何度か発生した魔獣だった。
それが二、三回ほど続いて、だんだん数も増えていって……。
そうしてその波の最後に出てきたのが大型の角つき狼だったの。
馬ほどもあるサイズだったわ!
「貴重な資源ね!」
その頃になると、魔獣の素材を今後の資金源にしよう計画が出てきて、私の【天与】で霧散させないように注意して戦うようになっていたの。
だから、ボスを仕留めつつ、その体から使えそうな物を残した。
角つき狼だと、立派な角や牙ね! あと毛皮も!
こういう処理は意外とリンディスも、カイルやセシリアも知っていて、ちゃんと処理をして蓄えてあるわ。
街に行った時に売ってお金に変えるつもりよ。
そうして戦いを積み重ねて、群れとボスの法則に辿り着いたのよ。
「問題は、徐々に発生する魔獣が強くなってきていることですね……」
「確かにね」
なんだか順番に敵が強くなっている感じがするのよね!
だから、次に出てくる魔獣もきっと前回よりも強いんだろうって思う。
これは私もそう感じているわ。
「これは、あんまり言わない方がいいかもしれないけど」
「ええ、なんです? お嬢」
「この魔獣の発生、終わりがないかも」
私の言葉に仲間たち全員が言葉を失う。
「それは、もしや」
「ええ、『予言』の【天与】ね。……アマネがね、〝もにたぁ〟に向かって私と同じことをしているのよ。でも、アマネのそれは遊戯感覚。『どこまでいけるか』に挑戦しているみたいだった」
「どこまで……?」
「魔獣の発生は無尽蔵で、それを何回繰り返すことができるか。一度の周期で発生する魔獣を全滅させることで一回のカウント。アマネはそれを百回以上、繰り返している。本当はもっと」
「百以上……」
といっても、私の視る光景の中でアマネ自身は戦っていない。
〝もにたぁ〟に向かって、手元に〝こんとろぉらぁ〟を持って誰かに戦わせている感じ?
だから彼女は疲れない。百回でも、三百回でも、挑戦し続けられる。でも私たちは。
「予言の光景の中で、アマネのそれは『死んだら終わり』だったわ。死ぬまでに何回、魔獣を駆逐できるかを遊戯感覚で楽しんでいるの」
あとは魔獣を倒せば倒しただけ物資、素材も手に入るみたいだった。
それを参考にして魔獣素材を剥ぎ取って街で売ろうって提案したのよ。
資金を調達して装備を整える目的らしいわ。
「このまま、ただ闇雲に戦い続けるだけじゃだめかもしれないわ」
とはいえ、今は継戦するためにできることは少ない。
罠を張って、少し戦闘を楽にして、余裕を持って。でも、それだけではどうにも。
「……それもお嬢が死ぬまで、ということなのでしょうか」
「そうかもしれないわねぇ」
魔獣の大量発生。それは私が死ぬまで終わらない無限の戦闘地獄だった?
仄かな焦燥感を覚えつつ、光明を探す。
戦闘、休息、罠を張る。そして、また戦闘。
日々の戦いで仲間たちに疲れが溜まっていく。
リンディスもカイルも体力のある方だと思うわ。
私は……たぶん【天与】の影響で元気はある。
ここまでの戦闘記録で判明したことは、やっぱり魔獣の発生は山側に偏っているということ。
隣領へと続く街道や森では魔獣が発生した様子はない。
これがわかったため、効率的な罠を仕掛けられているわね。
「先んじて森の奥深くへ進軍するかい? クリスティナ」
カイルが提案してくる。
パターンはわかってきた。そして、この魔獣災害はそのパターンを逸脱する様子がない。
雑魚の群れが数回続き、そのあとでボス。
次に発生する魔獣は前の周期で出てきたのより強いものが来る。
どうやら、ずっとこの繰り返しみたい。
……決断の時かもね。このままではジリ貧よ。
私たちが死ぬまで、この魔獣発生は続く。終わりがない。
なら、元を断たないといけない。でも。
「これ、やっぱり山奥に邪神がいるのかしら」
「あの黒いバケモノか……」
だって、この魔獣発生はどう考えても作為的だわ。
予言なんかじゃない。アマネがこちらの世界に来た影響が出ている。
それが邪教徒の企みで、私は狙われている。
「前回はエルトの助けがあってこそ、どうにかできたのよね」
「…………」
今回はどうだろう? 前回は助けてもらえなかったらピンチだったわ。
今は……リンディス、カイル、セシリア、ヨナがそばにいてくれて。
それはきっと大きいと思う。私の【天与】は力を貰えている。
「……邪神をどうにかできれば、この戦いは終われるはず」
そうしたら。
そうしたら、どうしようかしらねぇ?
王命は果たしたけど、王都追放の命令は有効なんでしょう?
じゃあ、帰れないんじゃない、私。
「この戦いが終わったら、僕と一緒に暮らそうか、クリスティナ」
カイルがそんなことを言い出した。私の不安を見抜いたのかしら?
流石、幼馴染ね!
「いいわね! じゃあ、みんなでこのままアルフィナ領を乗っ取って一緒に暮らしましょう!」
「……うん。それでこそクリスティナだよね」
「カイル兄さん……」
「お嬢……」
「クリスティナお姉ちゃんって鈍感なの?」
突然のヨナからの罵倒! なぜかしらね!?
元気が出たならいいけどね!
「じゃあ……うん?」
領主屋敷で青空作戦会議を開いていた私たち。
そこでなぜか馬が歩く音と、馬車が走る音が聞こえてくる。
私たちは全員、互いの顔を見合わせたわ。
「……誰か来たみたい?」
「こんな僻地にですか?」
「警戒します」
「頼むよ、セシリア」
招かれざる客が来たわ! 何かしら?
今のアルフィナ領へ来るなんて、物好きな人たちね!
領主屋敷の前で私たちが待ち構えていると、やって来た一団の姿が目に入る。
騎士の装備を身に着けた男性が三人。それぞれ馬に乗っている。
その後ろから二台の馬車が続く。荷物を載せてきているわね。
「商人かしら?」
「ここにですか?」
「だったらありがたいと思うのよね」
「うーん……」
彼らが私たちの目前にまで来る。
「貴方たちはいったい誰!? ここに何をしに来たの!」
私は先頭に立って声を張り上げた。
「……! 赤髪の御令嬢! クリスティナ・マリウス・リュミエット様でお間違いないか!」
「ええ! 私がクリスティナよ! フフン!」
胸を張って答えたわ!
そうしている間に彼らは、私たちから少し距離を置いて馬を止めた。
「突然の訪問、失礼致しますクリスティナ・マリウス・リュミエット様。我々は〝金の獅子〟ことエルト・ベルグシュタット卿より、この地に派遣された者です! この度、アルフィナ領への支援物資と人員を運んで参りました!」
まぁ! エルトからの支援ですって!
予想していなかったことが起きたのよ。




