58 家族②
本当のお母様は、マリウス侯爵の姉、セレスティア。
そして本当のお父様は王弟、アーサー。
「待ってね。つまり、私とレヴァンって〝いとこ〟だったの? 国王陛下は叔父様!?」
「そうなります」
衝撃! レヴァンより陛下との関係の方が!
そういえば陛下と最後に会った時、なんだかピシピシと感じるものがあったのよね!
あれは、そういうことだったのかしら?
「え、それって他に誰が知っているの? ブルーム……マリウス侯爵は?」
「マリウス侯爵は把握していないと思います」
「そうよね、知っていたら、もっと他にやりようがあったでしょうに」
でも、なんでそんなことに?
「国王陛下は?」
「……私の知る限りでは伝える機会はありませんでしたが、王家独自の情報網があるならば、定かではありません」
「そうなのね」
レヴァンは知らなかったでしょうねぇ。
まさか、まさかの王族! これはあれ?
もっとふんぞり返っておいた方がいいかしら?
「こうかしら?」
「はい?」
ググッと胸を張り、むしろのけぞるくらいで顔は空をまっすぐに見るような角度に。
「控えおろー!」
ピシッ! と顔が天に向かった状態でリンディスを指差してみたわ! この角度だと見えないわね!
圧倒的な上から目線の完成よ! フフン!
「……何をしているんですか、貴方は」
「え、王族だから? とりあえずふんぞり返っておこうかなって」
「お嬢にとっての王族の扱い! 今まで陛下や殿下にそんな態度を取られたことがありますか!?」
「そういわれるとないわねー」
姿勢を戻しておくわ!
「それにしてもまた。何がどうしてそうなったの? 私だけが今まで知らなかったわけじゃないのよね?」
「……はい。少なくとも私は隠していました。知る者はそう多くないかと」
「どうして隠すの?」
当時、侯爵令嬢だったお母様と王弟殿下が結ばれたのよね?
私とレヴァンが結婚するくらいの大事じゃない?
「それが……」
リンディスは言い淀む。
「当時のことを、私もすべて把握しているわけではないのです。私は……セレスティア様に拾われただけの立場でしたから」
「お母様に拾われた?」
「はい。お嬢も知っているように、この国での魔族の扱いはよくありません。最近はある程度、立場もよくなってはきましたが、当時はまだ差別の対象でした」
「ええ」
私が生まれる前の時代ね。
「ヨナと同じで親のいない身の上でした。ヨナよりも年齢が上だったので、まだマシでしたが。当時、奴隷のように売り買いをされていました。まだ今のような法整備のない時です」
ヨナだけじゃなく、リンディスもそういう目に遭っていたのね……。
「実は、その。私を買った主人から隙を見て逃げ出しまして」
「まぁ!」
そこはやるわね!
「しかし、行く当てもなく、路頭に迷い、飢えて死ぬところだったのです。そこをセレスティア様に見つけていただき、私は保護されたのです」
「そうだったのね」
「はい。しかし、私を表立って仕えさせると、元の主人に見つかってしまう。そこでセレスティア様の取り計らいで、身を隠して生活することになりました。ただ、拾われた当初は私も荒んでいまして……。救われたというのに迷惑な態度を取っていたかと思います。あの方はそれでも私を許し、守ってくださいました」
「へぇ……」
リンディスが? お小言は多いけど、他は本当によく仕えてくれる従者なのに荒んでいた頃があったのね!
ワイルドリンディスかしら!
「お嬢、実は当時のセレスティア様は女騎士だったのです」
「え! お母様、騎士だったの!? 侯爵令嬢なのに!?」
「はい」
リンディスが懐かしむように、慈しむように、思い出を語る。
その表情で気づいた。
リンディスってセレスティアお母様のことが好きだったんじゃない?
恩人でもあるだろうけど、それだけの感情じゃなかった。
だから今も私を助けてくれている?
以前、リンディスは恩があるって言っていたような……。
それはセレスティアお母様への恩だったのね。
「侯爵令嬢でありながら騎士の道を歩んでいたあの方は、当時の侯爵、お嬢からすれば祖父にあたる方と折り合いがあまりよくなかったようです」
「そうなのね」
ちなみに私の祖父、前マリウス侯爵はすでに亡くなられているわ。
祖母も一緒ね。親が違っても祖父と祖母は変わらず祖父と祖母ね!
「お嬢はセレスティア様によく似ておられます。侯爵令嬢という高位貴族の淑女であるべきなのに、活発で行動的で……。私を拾ったのも趣味の遠駆けをしていた時に偶然、見つけたようですね」
どうやらお母様は私より行動的だったみたい!
「セレスティア様がマリウス家を継ぐ可能性は高かったのですが、それを拒み、騎士の道を行くと宣言されていたそうです。その真意まではわかりませんが……」
「へぇ」
ちょっと気持ちはわかるわね!
私も幼い頃に剣を持とうとしたし。私の場合、家を継ぐことは視野に入っていなかったけどね!
もし後継者の立場だったら、ちょっと跳ねのけていたかもしれないわ!
「向き不向きがあるのだと、よく言っておられました。私の知る限りですが、侯爵家を回す能力がなかったようには思えませんでした……理由は一つではなく、いろいろとあったのでしょう」
「うんうん」
私もこの旅で王妃とか向かないわって思ったのよね! お母様も同じだったのかしら?
「そんな方でしたから当時、多くあった高位貴族との縁談を断っていたそうですね」
「そうなのね。それなのに王弟、アーサーお父様からの縁談は受けたの?」
「それが……」
「うん」
「お二人は……。……駆け落ちされまして」
「なんですって!?」
駆け落ち!?
「私もすべて把握してはいませんが、どうやら馴れ初めはセレスティア様がアーサー様を助けたことからのようです」
「お母様がお父様を助けた?」
女騎士だったのなら、そういうこともあるのかしら?
「アーサー様も当時、縁談を多く抱えていたそうです。なかなか相手が決まり切らなかったと聞いています」
「王弟だものね!」
普通の貴族令嬢は王子の婚約者にはなりたがるものなのよ!
フィオナがそう言っていたから間違いないわね!
でも好みはあると思うわ!
「どうも、その関連のトラブルがあったそうで……。ただ、犯人はわからなかったそうですが、アーサー様は襲撃を受け、隠れなければならなくなったとかで」
王族を何者かが狙って、それが野放し?
それとも犯人はすでにわかっているけど、なんらかの事情で秘匿された?
トラブルの原因がわかっているなら後者かしら。
なんにせよ、流石にリンディスの耳に入るような情報じゃなさそうね。
「隠れて療養をしていましたが、療養先を突き止められて、また狙われ……。王位争いが理由だった可能性もあると思いますが、実際はどうだったのかわかりません。そうしたところをセレスティア様に救われ、二人は惹かれ合うようになったと聞いています」
「へぇ……」
実の両親の馴れ初め話!
とっても新鮮だわ! 今までそういうの、聞いたことがないもの!
なんにせよ、本当の両親はどうやら好き合っていたみたいね!
でも駆け落ち……そこはどうかと思うわ!
「いろいろと……。政治情勢が許さなかったのだと思います。とくに王弟殿下が筆頭侯爵家の令嬢であったセレスティア様と婚約するということになりますと……。王位を狙っているのではないか、と思われ、責められることも増えますから。否定的な者が多かったと」
「ああ……、確かにそうなるわね」
真っ当にお母様と結ばれるとなると派閥争いが混乱して王国を割ってしまっていたかもしれないわ。
「アーサー様は、そのままでは当時のディートリヒ陛下との間に溝が生まれ、王国を二つに割る火種になるだろうことを懸念していたようです。早々に臣籍降下する手筈を整えていました。しかし、そう簡単にいくものではなく、王位継承権は保有したまま……」
「うん」
「どうやら、アーサー様を狙う勢力が過激になり、身の危険を感じるしかなかったようです。そのため、表舞台から姿を消し、ほとぼりが冷めるまで……ディートリヒ陛下が王位を継承するまで……身を完全に隠すことに決めたようです」
そこでピンとくる私。
「もしかして、そこでお母様がついて行ったの?」
「……だと思います」
アーサーお父様は表舞台から完全に消えるつもりだった。
臣籍降下して、たとえば下位貴族の家と婚約するとか、王位争いから降りたと示すやり方もあったと思う。
でも、きっとそれでは間に合わなかったのね。
だから完全に消える、つまり失踪することに決めた。それで。
「『どうせ他の誰とも結婚せず、陛下が王位を継ぐまで完璧に隠れるんだったら、ひっそりと私たちも結婚しちゃいましょう!』ってことね!」
だって王位継承争いで揉めているんだったら、王位継承が済んじゃえば、こっちのものだもの!
「……セレスティア様は、勢いの人でしたから……。差別されている魔族を拾っちゃいますし……。王弟が狙われているところに突撃しちゃいますし……。お嬢の母親なので……」
「なるほどね!」
だいたい今の私とやっていることは同じかもしれないわね!
「でも。うまくいかなかったのよね、駆け落ち」
「……はい」
だって二人とも死んじゃっているんだもの。
たぶん、病死じゃないと思う。
「正確には、しばらくはうまくいっていました。ディートリヒ陛下が無事に王位を継承されまして。あとは陛下の治世が落ち着くまで、お二人は穏やかに暮らしていたのです」
それはいいのだけど。そうなると当時のマリウス侯爵家はかなりゴタついていたんじゃない?
セレスティアお母様が王弟と一緒に失踪した、駆け落ちしたとか。
書き置きなりを残していったとしても後始末は大変だったはず。
それが私の扱いがよくなかった理由かしら、あの家の。
セレスティアお母様の娘だったから。
まぁ、それはちょっと、娘として、ごめんなさいだわ!
だからといって、私のあの扱いはどうかと思うけどね!
「しかし、またアーサー様は狙われました」
「ええ?」
今の陛下が王位を継承したのに? それでも邪魔だったのかしら。
「……実は、狙われていたのは王位継承争いとは別の理由だったのではないかと。そのようなことをのちに聞いています」
「別って?」
リンディスは首を横に振る。
「私にはわかりません。王位とは別に狙われているようだとだけ。当時の私には、わかりませんでしたが……今思えば」
「うん」
「……アーサー様たちを狙ったのは邪教の一団だったのではないか、と」
「ええ……?」
まさか、私が生まれる前から、生まれたあとすぐまで、あの邪教が関わっているの?
「お嬢のこれまでの話を聞いて、予言の内容も含めて、今こうして話してみて、思うのですが……」
「うん」
「アーサー様も、セレスティア様も連中に狙われていました。その狙いは……もしかしたら」
「あ」
私もそこでリンディスの言いたいことにピンと来てしまったわ。
「もしかして連中の狙いって、そもそも……私だった?」
「…………はい。すみません、これは根拠がないのですが、そうではないかと思ってしまいました」
「いえ、わかるわ。リンの言いたいこと」
連中、あの邪神を呼び出す邪教徒たちは【天与】に介入してくる。
アマネを通じて? 予言のような真似もできる。
ある意味、いろんな未来を知っている連中。
それに邪神や邪教と遭遇する時に、ちらちらと聞いたことがある……。
「私が生まれてこないようにするためか、或いは生まれてすぐの私を狙っていたのね!」
連中、夢の中でなのだけど。
私のことを聖女呼ばわりしている節があるのよね!
最初の邪神の時、予言の夢の中でうっとうしかったし!
それに『毒薔薇』の【天与】よ。
三女神の授かり物である【天与】で薔薇って、この国だと『女神の代行』クラスの扱いになりかねないのよね!
だって女神イリスの象徴が『薔薇と剣』なんだもの。
邪教徒たちは口振りからして三女神教を否定しているわ。
その三女神の一柱、イリス神の【天与】を持つ存在なんて、とても許せないってことね!
「もしかしたら、アーサーお父様とセレスティアお母様は、もっとすんなり結ばれる未来があったのかもしれないわね」
「お嬢……」
お父様とお母様が結ばれて、私が生まれてくるのは運命だった。
でも、だからこそ、その運命に横槍を入れるため、邪教の連中はいろいろとやってきた。
王位継承争いによって狙われているのだと思っていたけど、そうではなかったかもしれない。
すべてが……私を巡っての争いだったとしたら。
「あら、邪神と邪教って、私にとって親の仇みたいなものじゃない!」
これは、ぶん殴ってやらなくちゃいけない理由が増えたわね!
「お嬢……」
「よく教えてくれたわね、リン。ひとまず今はこれくらいでいいわ。おいおい、もっとお父様とお母様の話を聞かせてくれる? もっと楽しい思い出だってあるのでしょう?」
「……はい! たくさん!」
「うん!」
ひょんなことから判明した、私のとんでもない出生の秘密と因縁。
これはなかなか……これから先もやることが多そうね!




