57 家族
角つき狼を撃退し、その元らしい大地の傷を浄化薔薇で塞いだ。
そのあとも警戒していたのだけど。
「来ないわねぇ?」
「そうですね。魔獣の大量発生というにはあまりに少数でした」
アマネの予言違いということならそれでいいのだけど。
「クリスティナは何か予言を視たと言っていたけど、どうなんだい?」
「そうねぇ……」
魔獣と接敵する前、『予言』の【天与】で視た光景。
「バーッと今までの旅と似たような状況が流れて視えたわ。倒れた大木、盗賊連中、岩石の魔獣、それとエルトたち。それぞれに数字が割り振ってあったみたい。それでさっきの角つき狼たちは九番目という文字が、アマネの前にある黒い板に出ていたわね」
「黒い板……予言の石板といったところかな」
「アマネは『もにたぁ』とか言っていたかも? 『予言』の夢の中での話だけどね!」
私の『予言』の【天与】が私に見せる光景って、どうもアマネが見ていた予言書を、アマネの後ろから覗き見るような感じなのよ。
だから予言じゃなくて『覗き見』の【天与】かもって話もしているわ。
それか、格好良くするなら『過去視』かもしれないわね。
だって明らかに今のアマネじゃなくて過去のアマネっぽいんだもの。
でも私はね、アマネは予言しているんじゃないと思っているの。むしろ逆。
アマネが異界から来て、その影響で私たちの国に災害が起きたんだと思う。
別にアマネが意図してそうしたんじゃあなくて、あの邪神が元凶よ。
まぁ、あくまで私がそう思っている、そう感じているだけだから、なんの罪にも問えないけどね。
「次の魔獣発生まで時間差があるのでしょうか」
「そうかもしれないわ。その時間差も、もしかしたら浄化薔薇のおかげで稼げているのかも?」
角つき狼が発生していた元、大地の傷は浄化して塞いだわ。
そのおかげで後続が来なかった。
つまり、大量発生になる前に事態を解決できたってことね!
「断続的に魔獣が発生し、襲撃が続く。それらは大地の傷が開くから。でも、クリスティナが、その大地の傷を塞いだことで最初の魔獣は打ち止めとなり、時間の猶予が生まれているのかな」
「そういうことかもね!」
本当は、もっとわんさか出てくる予定だったのね。
それを浄化の黄金薔薇が防いだ。うん、いい感じじゃない?
「もう少し見回りをしてから、セシリアたちのところへ帰りましょう」
「わかりました」
「わかった」
私はリンディスとカイルを引き連れて見回りをし、やっぱり、これ以上は出てこなさそうということを確認してから領主屋敷へ戻ることにしたわ。
「何体か野性の獣もいる。少しだけ狩りをして帰ろう」
「狩り! いいわね!」
「お嬢……。気をつけてくださいよ」
「わかっているわよ!」
カイルがそういう経験があるみたいだから、私たちはカイルの指示に従って狩りをしたの!
初めての獲物は、うさぎが数体よ!
弓矢とかは用意していないから、私の薔薇の蔓で捕まえたわ!
そのあと、捕まえたうさぎはカイルが血抜きをしていたの。
持って返ってお肉料理ねー。
私たちのアルフィナ領での生活は続いたわ。
領主屋敷の掃除をして、領地内に残された数少ない物資をかき集める。
リンディスの指導のもと、ヨナが火の魔術で鉄の加工をしている。
ちょっとしたところからね。危険がないように配慮するのが優先よ!
カイルの指示に従って、屋敷の庭に食用薔薇の畑を作る。
みんなの食事を支える重要なお仕事よ!
棘がなく、蔓が太くなってボリュームがたっぷり、栄養を蓄えるように。
「薔薇なんですかねぇ、これ」
「薔薇よ! フフン!」
私の『毒薔薇』の【天与】って現実にある薔薇じゃなくても咲かせられるのよね!
だから実質なんでもありなのよ!
薔薇と言い張ればいいのよね!
「無茶苦茶ですねぇ……。お嬢らしいというか」
「フフン!」
「褒めていないんですよね」
リンディスのお小言が始まったわね!
あ、リンディスのお小言と言えばよ?
「リン」
「はい、お嬢」
「そういえば私の両親って、どこの誰なの?」
「……ッ!」
リンディスの表情が固まるわ。
ちなみに今、屋敷の庭、菜園の前にいるのは私とリンディスだけよ。
「……なぜ」
「『予言』の【天与】で視たの。なんか、リンディスがブルームお父様に殺されて、『私』がブチギレてマリウス家のみんなを虐殺した時にねー」
「なんですか、その破滅的な光景は!?」
「知らないわよ、そういう光景が視えたんだもの」
あの夢の中の『私』ってリンディスのことが好きっぽかったのよねー。
でも現実の私とリンディスは、そういう雰囲気はなし!
なんでああなったのかしらねぇ?
「ブルームお父様も、ヒルディナお母様も、私の本当の両親じゃないんでしょう?」
「……、……はい」
リンディスは苦しそうにしながらも肯定した。
「納得よねー。実の娘じゃなかったからマリウス家での私、浮いていたのね」
「……そう、ですね」
ブルームお父様とリカルド兄様も髪の色は赤い。
でも、私のような深紅の髪じゃないの。少し薄い赤色なのよね。
まぁ、そのくらいなら誤差だったのかもしれないけど。
「どうして黙っていたの? ああ、責めているわけじゃないわよ。単純に疑問なだけ」
「……そういう契約だったのです。マリウス侯爵との」
「ブルームお父様との?」
「……はい、魔術契約でした」
「魔術契約!」
魔族が魔術で用意した契約で、契約を破ると魔術的なペナルティが発生するらしいわ。
リンディスが自分で用意したというより、お父様が予め用意していたのかも。
魔族と呼ばれている銀髪の人々はリンディスやヨナ以外にもいる。少数だけどね。
王宮でもお抱えの魔族がいるし、魔術で物を作る人もいるのよ。
エルトに貰った魔法銀の剣も、たぶん魔術で作られているんじゃないかしら。
邪神と戦っていた時や、予言の夢の中で視たエルトの黒い剣も魔剣っぽかったわねぇ。
「そう。それで? 私の本当の両親は誰なの? いえ、それよりも……生きているの?」
「……お二人とも亡くなられています」
「そう……。まぁ、それはそうよね」
実の両親が生きていたなら、私の状態を放っておくとは思えない。
いえ、まぁ、王太子の婚約者だった時なら放っておくかしら?
まぁ、この点は期待していたわけじゃないわ。
だって予言の夢の中でも両親は死んだんだって聞かされていたから。
ともかく。
「今なら本当のことを言える?」
「……はい。お嬢を追いかけるために、マリウス侯爵との契約はすべて破棄してきました」
「そう。先に確認するけれど、どうしてそんな契約を交わしたの?」
本当の両親のことより先にリンディスのことを聞く。
だって、事情があったことなんてわかっているもの。
「その契約を交わしたのは、まだお嬢が赤ん坊の頃でした。当時の私には他に頼る相手もおらず……。お嬢のそばに居続けるためには契約を結ぶしかありませんでした」
「赤ん坊の頃の私」
そんなに前からの契約だったのね。
「で、誰なの? 私の親は」
「……お嬢の、母親は……マリウス侯爵の姉、セレスティア様です」
「姉!」
ブルームお父様にお姉さんがいたの! しかも、それが私の本当のお母様!
「じゃあ、私はマリウス家の血縁ではあったのね?」
「はい……」
そうなんだぁ。まったくの無関係ではなかったのねぇ。
セレスティアって……また別の予言の夢で聞いた気がする名前ね?
「どうして私がマリウス侯爵家に引き取られることになったの?」
「……他に頼る相手がいなかったから、です。セレスティア様は、まだ赤ん坊だったお嬢を抱えて、マリウス家に戻られ、マリウス侯爵を頼りました」
「セレスティアお母様は、どこの家に嫁がれていたの?」
当時もブルーム……お義父様? まぁ、マリウス侯爵でいいわね!
とにかく当時も侯爵が変わらなかったのなら、セレスティアお母様は家を出ていたはず。
私という赤ん坊がいるなら余計にね。
「それが……」
「うん」
「……これは、お嬢は知らないままの方がいいことかと」
「ええ?」
なんで、ここに来て隠すのかしら!?
「魔術契約とかの問題はもうないのよね?」
「はい、ありません」
「じゃあ……いえ、待って? 私の本当のお父様は、どこの誰?」
「……それが聞かない方がいい、知らない方がいいことかと」
「リン」
私はリンディスの目を見る。
リンディスがこう言うってことは私のためなんだと思う。
そうは思うけど。
うーん……。この状況で知らない方がいいことって何かしら?
「貴方が隠していたとしても、私の場合、『予言』の【天与】で答えを知るかもしれないわよ?」
「……! それは……そう、かもしれませんね」
「そうでしょう? 本当なら、リンがそこまで言うなら無理して聞かないで済ませたいけれど」
私の場合、かなり特殊な状態なのよね!
リンディスは葛藤している様子だった。
今すぐに聞き出したいってことでもない。でも、知りたくはあるわね。
「それと、もう一つ言っておくけど」
「はい」
「たぶん、そういうのってね、アマネも知っているんじゃない?」
「!? 予言の聖女……予言!」
そうなのよね。
たとえ私が知らなくても、リンディスが語らなくても。
アマネは本当のことを知っている可能性がある。
それはちょっと、どうかと思うのよ。
私のことだというのに他ならないアマネに出遅れているって。
「アマネに知られていて聞かされるくらいだったら、私はリンディスの口から聞いておきたいわ」
そう言うとリンディスは覚悟を決めた。
「……そうですね。お嬢に隠し事をしていても意味がない。私も、それならば私の口から伝えておきたいです」
意を決したリンディスが告げた、私の本当のお父様の正体は。
「お嬢の実の父親の名は……アーサー。アーサー・ラム・リュミエット様です」
「……ラム?」
ラムとはリュミエール王国において王家の名だ。
即ち、それは。
「アーサー様は、現リュミエール国王であるディートリヒ・ラム・リュミエット陛下の弟君。つまり、王弟殿下です」
「王弟!」
なんてことかしら。実は私、王族だった!
これは衝撃の事実すぎるわねー!
……そりゃあ、普通は聞かない方がいいわね! 納得したわ!
書籍1巻、発売中!




