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傾国の悪女になんかなりません! ~蛮族令嬢クリスティナは予言された破滅フラグを【カンスト】パワーでへし折ります~【書籍化】  作者: 川崎悠
三章 民なき領地

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56 幕間 エルトの交渉──ラーライラside

傾国の悪女になんかなりません!

書籍1巻、発売中です!

 私、ラーライラ・ベルグシュタットは今、エルト兄様と一緒にヘルゼン子爵領を訪れていた。

 この領地には以前、あの憎たらしい……コホン。

 あの王命を受け、西のアルフィナ領へ旅立ったクリスティナがいた。

 ここでは大きな事件があったの。

 領民だけでなく、近隣の女性が誘拐されていた。さらに邪神とやらが現れたというわ。


 あくまでクリスティナの報告となるのだけれど。

 ただ、マリルクイーナ修道院でエルト兄様も邪神と戦ったと聞いた。

 私の目では見ていないけれど、本当のことなのでしょう。

 どうしてエルト兄様がそこにいたのかについて問い詰めたいわ。


「ヘルゼン子爵、侍女を譲っていただきたいと思っている」


 エルト兄様は子爵家でそんな交渉を始めた。


「言われた者たちを集めましたが……まさかベルグシュタット卿にそのような趣味が」

「ちょっと! 勘違いなさらないで! エルト兄様が手を出すための侍女ではありません!」


 言葉足らずな上に強引な手も辞さないエルト兄様は、決して頭が悪いわけではないの。

 ただ、最近は強引さがより目立つ。とくにあのクリスティナのことに関して!

 私はとても危機感を募らせているわ。でも、私ではエルト兄様を止められない。


「では、なんのために? 失礼ですが、集めよと言われた者たちは例の事件の被害者たちです。それぞれ、事情を抱えていますので滅多なことには巻き込まないであげてほしいのですが」


 ヘルゼン子爵に集めさせた侍女たちは、ただ子爵家で働いていた者たちじゃないわ。

 彼女たちはクリスティナが解決した事件の被害者たち。

 そう、誘拐された女性たちなの。その時にいた全員ではないそうだけど。

 ヘルゼン子爵の家で侍女になったのは……貴族令嬢たち。

 市井の民だった者は、それぞれの家に無事に帰ったそうよ。

 彼女たちを誘拐した連中は、どうも邪教徒らしく、彼女たちが誘拐以上の被害に遭ったわけではない。でも、世間ではそうはいかない。

 なにせ貴族令嬢が誘拐されたのだから余計な醜聞がつきまとう。

 ヘルゼン家で雇われていたのは、いずれも子爵家・男爵家の娘だった。

 世間の醜聞を避けて、修道院に行かされる可能性も十分にあったみたい。


 子爵は、自領で起きた事件の被害者たちのために侍女として居場所を与えたの。

 結婚相手もきちんと手配するつもりのようね。

 そんな彼女たちをエルト兄様は譲ってもらうように交渉しているのよ。


「彼女たちには、俺の部下とともにアルフィナ領に向かってもらいたい。アルフィナ領でクリスティナのために働いてほしいのだ。雇い主として給与は出す」

「アルフィナ領……それにクリスティナ様のために、ですか」


 そう、それがエルト兄様の目的。

 クリスティナが向かったアルフィナ領は領主が逃げ、領民も近隣の領地に避難しているという。

 魔獣災害が起こると聖女に予言もされているため、人がいない状態らしいの。

 本当なら、もっと支援を送るべき領地で、王家もその予定ではいる。


 でも、今のリュミエール王国は各地が魔獣災害に苦しんでいるわ。

 領民のいない領地の支援になんてそうそう人は送れない。


 ……というより、予言の聖女の予言があるせいか、その動きが慎重になっているみたい。

 クリスティナに任せるのがいいのではないかって話になっているのよ。

 今の彼女は【天与】を自在に使いこなせるようになっている。

 だからこそ、と。アルフィナ領への支援が公式に手配されるのは先送りにされてしまっている。


 だからエルト兄様が動いた。

 マリルクイーナ修道院で邪神と戦った経験から、以前に邪神が現れたというヘルゼン子爵領へ事情を聞く必要性をレヴァン殿下に説き、本隊と別行動し、子爵に会いに来た。

 そのついでとばかりにクリスティナに救われた女性たちを雇って、アルフィナ領に向かわせる手筈を整えている。


 ……全部、あの女(クリスティナ)のために。

 侍女を贈るなんて聞いたことがないわ。

 エルト兄様は、クリスティナのことを……うぅぅ! 認めたくない!


「子爵も聞いているかもしれないが、俺はクリスティナと決闘し、負けた」

「まさか『金の獅子』とも謳われるベルグシュタット卿が」

「事実だ。すでに広く知れ渡っていることであるし、俺も否定をする気はない」


 否定してほしい!

 だって、その件でエルト兄様を侮る輩が増えたのだもの。

 もちろん嘲笑った者が目の前にいれば、手袋を叩きつけ、この私がその場で地面に頭をつけさせているけど。


「俺に勝つような女性だ。そこらの魔獣風情に後れは取るまい。必要な支援は戦力よりも生活面での支援かもしれない。戦力もあって損はないだろうから、騎士と物資とともに侍女を送る。本音を言えば俺自身が今すぐアルフィナへ向かいたいが、それでは問題が起こる」

「ベルグシュタット卿は今、噂の『救国の乙女』殿とレヴァン殿下とともに各地の救援部隊を任されているのでしたな」

「ああ」

「今回、我が領へ訪れたのは……レヴァン殿下がいらっしゃるのと事態が重いからですか」

「邪神について詳しく知る必要ができた。別の場所でも同じものかは不明だが現れている」

「では、まぁ……ベルグシュタット卿本人はアルフィナ領へは向かえませんな」


 何かを察したようにヘルゼン子爵が言う。くぅ……。


「そういう事情もあるが、俺がアルフィナへ先駆けてしまうとクリスティナの手柄が俺の手柄に置き換わってしまうかもしれん。とくに今のアルフィナには噂を伝える民すらいないからな。俺はクリスティナの手柄を奪うことはしない」

「……なるほど。確かにベルグシュタット卿がその地にいらっしゃるならば、手柄、功績が……」

「ああ、だから俺がすぐにアルフィナに行くことは許されない。クリスティナが自らの手腕で武功を立ててからでなければ」


 エルト兄様がいたら、魔獣を倒したのはエルト兄様ということになるでしょうね!


「クリスティナは、いずれ武功を立て、王都へ凱旋するだろう。彼女の功績を以て王都追放の王命を陛下に撤回させるつもりだ。そのためにも俺の部下を送り、彼女の功績を明らかにする必要がある」

「部下……騎士の増援ですな。それに加えて侍女もつけたいと」

「そうだ。だが、向かう場所が場所だけに、この件を引き受ける者は少ない。だから」

「……クリスティナ様に救われた彼女たち、なのですな」

「そうだ」


 ヘルゼン子爵は背後に控えている侍女たちに体を向ける。


「お前たち、そういうことだが……どうだ? アルフィナ領へ向かう気はあるか?」


 この場にいる侍女たちは五人だ。

 いずれも、誘拐事件でクリスティナに救われ、彼女に恩がある。

 彼女たちは互いの顔を見合わせている。


「あの、失礼ですが……質問させていただいてもよろしいでしょうか」

「……ベルグシュタット卿、よろしいですか」

「かまわん」


 侍女の一人が、おそるおそる手を上げ、エルト兄様に問う。

 ヘルゼン子爵が許可を願い、エルト兄様が許可する。


「ベルグシュタット卿がアルフィナ領へ、クリスティナ様のもとへ支援を送ろうとなさる理由はなんでしょうか。支援が必要な領地は王国全土にあると聞いています。だからこそ、かの地への支援は先送りにされているらしい、と」

「俺にとってクリスティナが特別な女性だからだ」

「……エルト兄様!」


 あーあー、聞きたくない、聞きたくない! なんにも聞こえませんわよ!?


「確かに支援が必要な地は数あるだろう。救援部隊を任された身で、民のいない地を特別に扱うなど許されぬことかもしれん。だが俺は、クリスティナを救うことは、いずれリュミエール王国を救うことにつながると考えている。俺自身が邪神と相対し、クリスティナの光を見た。彼女はリュミエールに必要な女性だ。そのためにも力を貸してほしい」

「……王国に必要だから、ですか」

「それだけではない」

「……それは?」

「俺自身がアルフィナへ向かえないからといって、クリスティナに俺を忘れられるのは許せん」

「そ、そうなんですね……?」


 侍女たちや子爵の表情が、なんともいえないものになっていますわ!

 みなさんが〝察して〟いると言いたげに!

 ニマニマとしそうになるのを堪えるように、浮いた様子!

 まるでエルト兄様がクリスティナのことをあ、あい……いえ、そんなことは!


「情熱的なんですね……?」

「当然だ」


 何が当然なのでしょうか!?


「お前たちは辛い目に遭った。今も、ここでの暮らしにようやく慣れてきたところだろう。加えて今のアルフィナは死地。魔獣が大量に湧くと聖女に予言されている」

「……はい」

「それでもなお、クリスティナのもとに駆けつけ、彼女の身の回りの世話をしたいと願う。覚悟のある侍女をクリスティナに送りたい」


 侍女たちもエルト兄様の言葉に真剣に耳を傾ける。


「明日の食事にも困るだろう領地だ。徒に人を送るだけでも迷惑なことだろう。クリスティナが養えぬと言うなら、また帰ってくることになるかもしれない。徒労の旅になりかねない。人以外にも手配できる物資は持たせるが、このような環境で『それでも』と声を上げてくれる侍女がいいと思っている。そうでなければ、やっていけないだろう」


 侍女たちは互いの顔を見合い、頷き合う。そして。


「あ、あの! 私! お姉様……クリスティナ様のところに行きたいです!」

「わ、私も!」


 ……それはきっと彼女(クリスティナ)が自ら築き上げた信頼が実った瞬間なのでしょうね。



「食糧類に武器類……他に何が要ると思う? ライリー」


 ヘルゼン子爵と侍女たちとの交渉を終え、エルト兄様がアルフィナ領へ送る騎士と物資の手配を整えている。そんな中での問いかけ。

 その表情は、まるで愛しい人に贈る物を考えるような。

 クリスティナのための贈り物についてなんて私に聞かないでと言いたいわ。

 でも、それだけ私がエルト兄様に信頼されているから聞かれている、ということでもある。

 くぅ……。


「エルト兄様は、もう直接、贈り物をしたのでしょう?」


 すでにエルト兄様は彼女に宝石のついたネックレスを贈ったという。

 止めることができなかったわ、悔しい!


「そうだな」

「……喜んでいたのですか?」

「ああ、思いの(ほか)な。意外だろう?」

「意外ですか?」

「クリスティナに宝石や飾り、ドレスを贈ったら……そのまま身につけもせずに売り払われそうな気がしてな。ふっ……。そんな女であっただろう?」


 私は恋仇(・・)を思い浮かべる。

 剣を折られた次の瞬間にエルト兄様に殴りかかった、蛮族かのような振る舞い。

 到底、騎士としては認められない。

 蛮族令嬢(・・・・)とでも呼べばいいかしら?


「彼女ならばやりそうですね……。従者に向かって満面の笑顔で『売るわよ!』とでも」

「そうだろう? はは……」


 ……クリスティナ。いずれ決着をつけねばならないわ。

 その時まで勝手に死んだりしないように。

 エルト兄様に思われたまま命を落とすなど絶対に許しません。

 貴方を倒すのはこの私、金の獅子の妹、ラーライラ・ベルグシュタットなのですからね!


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前書きで >「警告」の悪女になんかなりません! になってました ツンツンのラーライラちゃん可愛い?
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