53 拠点作り②
「お嬢、次はあちらです。流石の暴徒もすべての壁を壊したりはしなかったようですね」
領主屋敷の外壁が大きく崩れている場所は二か所だけよ。
その二か所に薔薇の壁を作り、補強する。いずれはきちんとした外壁補修をしたいわねぇ。
今は勝手に拠点化しているだけだからこれでいいわね。
「魔獣対策っていうと他に何がいいかしらね」
「そうですね。壁を補強して、門も直したいところです。それから物見台などあって、あとは罠?」
「罠! いいわね! エルトは魔獣相手に騎士道精神は無用だって言ったわ。何をしてでもみんなで生き残るの。あと罠を作るのってなんだか楽しそうよね!」
「お嬢が楽しまれているならいいでしょう。お嬢の【天与】なら即興で作れる罠も色々とありそうですしね」
うんうん。
「あとね、リン」
「はい、お嬢」
「私、抜け道を作っておきたいわ!」
「抜け道ですか?」
「ええ! 王城にも、もしもの際の抜け道がいくつかあるそうよ!」
「……お嬢、それ他言無用ですからね?」
「知っているわ!」
でも抜け道を作るなんて楽しそうよね!
「籠城と罠、それに抜け道ですか。なんの戦争準備なんですかね」
「楽しいわね、リン! こんなの王妃になっていたら体験できなかったわよ!」
私はワクワクしながら笑ったわ。
「……そうですね。楽しみながら生き残るとしましょう」
「ええ! そうするわ!」
崩れていた二箇所の外壁を薔薇で補強。
外側に丈夫な蔓と鋭い棘を持つ薔薇を編み込んで壁にして、壁そのものにも穴を埋めるように咲かせたわ。
崩れ落ちていた外壁の残骸は使うかもしれないと、壁の内側にまとめておくわね。
私が『怪力』で持ち上げてもいいのだけれど。
「そうねぇ……。こういうのはどうかしら!」
私は地面に片手をつき、『毒薔薇』の【天与】を使う。
もちろん、その必要はないわ! 視界の範囲で、どこにでも薔薇を咲かせることができるのよ。
しかも、その蔓は自在に動く。そう、自在に動くのよ、私の薔薇は。
株元が地面にポコリと出てきて、そこからシュルシュルと蔓がねじ曲がって伸びていく。
薔薇って木立性の木になるタイプと、蔓性の壁やらに広がっていくタイプ。
またはその両方の特性をもったタイプがあるみたいね。
でも、私の『毒薔薇』の【天与】は、それだけじゃなく、どんな薔薇を咲かせるかも自在。
咲かせた薔薇を操作することも、槍のように硬く尖らせることもできる。
そんな薔薇で形作るのは〝人形〟よ!
「うわ、人型ですか」
「ええ! 薔薇人形!」
木立性の枝部分を骨組みにして、蔓性の蔓部分を筋肉や関節、接続部位にする。
人型に整え、無駄に頭部を作り、そこには薔薇を咲かせる。
「これで薔薇人形の完成! 新たな労働力よ!」
「どう見ても植物系の魔獣にしか見えませんが」
見た目はまぁ、及第点ね!
今、私たちは五人しかいないから労働力の確保は急務なのよ!
「でも、これだと自分で考えては動かないから大変ねぇ」
自動行動じゃなくて手動制御ってやつね!
「見た目がひどいですねぇ。それはそうと、動けるのですか? 足が地面に根付いているのでは」
「そこはどうにでもなりそうね」
薔薇人形はベリベリと地面を土ごと剥がして歩行してみせる。
一度、地面から引っこ抜いてしまえば、あとは二足歩行もできるわね!
「人型じゃなくて獣型もいけるわね。背中に乗れるかも」
「棘が刺さるのでは?」
「棘なし薔薇も咲かせることができるもの」
「そうでしたね」
こうして新たな労働力を確保して、瓦礫の撤去・収集作業を進めたわ!
「うわ! なんかいる!」
そうして薔薇人形と作業を進めていると、ヨナが私たちのところへやってきて、薔薇人形たちの姿に驚いた。
「フフン! 薔薇人形よ!」
「クリスティナお姉ちゃんの薔薇……? 見た目が怖いよ」
「不評ねぇ。そうだわ、薔薇人形たちに仮面を被せたらどうかしら? 愛嬌が出るわよ!」
私がそう提案すると、リンディスとヨナがホワホワと頭にその光景を思い浮かべようとする。
私も一緒に想像してみるわ!
枝と蔓でできた体に薔薇の花が咲いた頭部。そこに仮面をつけた薔薇人形たち。
「怖い……」
「魔獣よりも得体の知れなさが増していますね」
不評ねぇ! 貴重な労働力なのに。
「それはそうと、ヨナ。どうしました」
「ああ、えっと。井戸の水は飲めそうだったよ。最初だけ汚れていたけど、何度か汲み直していたら綺麗な水が汲めるようになったんだ」
「そう! それはよかったわ! 人間、まずは飲む物、食べる物の確保よね!」
あとは寝るところ!
「今は薔薇農園にする場所を決めているところ」
「わかったわ」
「……僕もお姉ちゃんたちの方を手伝っていい?」
「ええ、もちろんよ!」
ヨナが嬉しそうにする。ふふ、可愛いわね!
リンディスとヨナ、薔薇人形たちを引き連れて正門へ移動する。
門は鉄製の格子造りだったのだけど、残念ながら根元から壊されているわ。
「どうなの? リン」
「外側から強引に破られた様子ですね。金属の蝶番が砕けています」
門全体も曲がっているわね!
「ヨナの火の魔術で、溶かして歪めながら調整すれば元の門として再利用できるかもしれません」
「え」
「まぁ! それはすごいわね! ヨナ、鉄を溶かせる程の火を熾せるの?」
「訓練次第ですし、時間をかけていいなら可能かと。戦闘に向いた技術ではありませんけどね」
なら、おいおい門の造り直しができるわね!
「ヨナ、すごいわね!」
「まだ何もしていないよ……」
「そうね。でもできたらすごいし、できなくてもすごいわね!」
「お姉ちゃんは前向きだね」
「フフン!」
「とりあえず今すぐここを出る予定はありませんし。お嬢、薔薇で門を閉ざしておいてください」
正門をとりあえず薔薇で補強。蝶番が壊れているから、それの代わりになるように調整する。
一応、閂の代わりの薔薇も出しておいて、薔薇の門の完成ね!
そのまま私たちは外壁の内側をぐるりと回って点検していく。
「あら、裏口もあるわ」
「はい、馬車も通せるほどの大扉と通用口ですね」
表門と違って鉄格子じゃなくて木製の扉ね。こっちは壊されていないのかしら?
普通に開けっ放しよ。
「こっちは閉めるだけで十分なのかしら? 門が開いているのに、わざわざ外壁を壊されたの?」
「当時の状況がどういうものかわかりかねますね」
もしかしたら嵐の影響で元から崩れかけだったのかもしれないわね。
「とりあえず門を避けて薔薇の生垣を作るわよ。それでいい?」
「はい」
さらにもう一度、表門までぐるりと一周。他は目立った問題はなさそうだわ!
ひとまず外周部はこれで良さそうね。私たちは屋敷の庭に戻る。
今はまだ庭に野営用の準備を広げていて、そこで寝泊まりする形よ。
カイルとセシリアたちとも、そこで合流する。
「お嬢様、畑に変える場所の目星はつけました。元より家庭菜園があったようで」
「何か実っていたの?」
「いいえ、そこも踏み荒らされています」
「そう、そこに食用薔薇を咲かせるのね」
「それと畑を整えることもクリスティナの薔薇でしてもらえれば楽かな」
「任せて!」
フフン! 畑弄りもこなせるなんて有能な薔薇だわ!
カイルの指示のもと、薔薇を使って畑を均していく。
「お嬢が倒れてしまうと回らない領地経営ですね。皆さん、思うところはあるかもしれませんが何よりお嬢の健康を優先しましょう。そうしないと私たち全員が倒れてしまいます」
リンディスがカイルたちを含めて、そう提案するわ。
「最初からそのつもりだ。僕は彼女の主治医だからね」
「私はお嬢様の侍女兼メイドですから、そのつもりです」
ふふ、似た者兄妹ね!
「僕もお姉ちゃんを助けるよ」
「ありがとう、ヨナ!」
そのあともみんな、領主屋敷を拠点として使えるように動く。
大変だけど、楽しい作業ね!
「ふふ、カイル、昔は部屋でしか遊べなかったけど。今は畑作りを一緒に楽しめるなんて、なんだか素敵ね!」
「そうだね、クリスティナ。こんな日が来るとは思っていなかった」
まぁ、私はカイルの指示に従って薔薇を操作するだけなんだけどね!
「君には酷な出来事だったことを承知なのだけど」
「うん?」
「僕はクリスティナとこんな時間がすごせて、とても幸せだよ」
「私もよ!」
あのまま王妃になっていたら絶対に味わえなかった経験よね!
「ある意味、予言の聖女に感謝しなくてはいけないな」
「そうかもね! 私もそれは時々思っているわ!」
「……うん。まるで僕とクリスティナを引き合わせてくれたようだ」
私はレヴァン殿下との婚約解消。マリウス家の思惑からは強制的に外れた。
加えて言えば修道院行きも却下されているわね。
カイルは実家の暗殺家業から足を洗って医者になる道を選ぶきっかけになった。
私とカイルは幼馴染よ。殺し合うかもしれなかった。
実際、『予言』の【天与】はその未来を私に視せたこともある。
「あの聖女がもしそういうつもりだったなら今度会った時は殴るのを止めてあげてもいいわね!」
「……次に会ったら殴るつもりだったんだね」
「それはそうね!」
色々考えていくと一発じゃ足りなかった気がするもの!
「このまま屋敷を切り盛りし、畑を耕す。そうなったら、とても楽しくて僕は幸せだ」
「私もそうよ! ふふ!」
私とカイルは幼馴染らしく二人きりで笑い合ったわ。
それで井戸を綺麗にして、畑を整え、外壁や門を補修して。
次は屋敷の中のお掃除ね!
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