52 拠点作り
「じゃあ、まず何から始めようかしら!」
ひとまず領主の屋敷の庭に出てから私は四人の仲間たちを見渡す。
領民0人の捨てられた土地。ボロボロになった領主屋敷。
あらゆる物資は持ち去られたのか残っている物は少ない。
あっても錆びついた農具や壊れた家具など。
しかも、これから魔獣災害とやらが起きるという。
対して私たちは、たった五人。
馬車一台、馬三頭、持ち物は、それぞれの旅の荷物程度。
ふふ、これが王命だっていうのだから無茶振りすぎるわね!
「この状況、さらに私一人だったらどうしろっていうのかしらね?」
「お嬢一人でサバイバル生活ですね」
「それはそれで楽しそうね!」
「お嬢……」
あいにく、私が【天与】で倒すと魔獣の体は霧散してしまう。
でも『毒薔薇』と『怪力』の【天与】を駆使すれば普通の獣を狩って生活もできるかも?
お野菜は棘なし薔薇でも食べておけばいいのよ。あら、安上がり!
それでもまぁ、リンディスという話し相手もいないのは寂しいわね。
ずっと一人は流石の私もどうかと思う。
「はい、お嬢様」
セシリアが挙手をする。意見があるらしいわ!
「はい! セシリア!」
私はセシリアを指差す。
「まず、お掃除をしましょう」
「お掃除」
「はい」
「この領主屋敷をかしら」
「そうです」
私は振り返って背後の領主屋敷を改めて見上げる。
屋敷は三階建て。まぁ、一般的な造りかしら。
アルフィナ領は男爵領よ。基本的に領地の広さと爵位の高さは比例する。
この屋敷は領地の規模相当の屋敷ってところね!
ざっと見た限り一部の部屋は部屋ごと壊れているし、焼けてもいる。
でも、屋敷全体が全焼まではしていない。建物としては十分な頑丈さが残っていそうね。
片付けて物資を運び込めば、どうにか生活もできそうってこと。
屋敷の周りと外壁の間にスペースがあって、幸い、そこには馬小屋があったわ。
今、私たちの連れてきた馬をそこにつないだところ。
屋敷を取り囲む外壁なのだけど、嵐で崩れたのではなく人の手によって壊された様子。
屋敷の正面にある鉄門なんか根っこからブッ壊されているわね!
きっと領主が逃げたあと、守る兵もいなくて領民たちに正面から突破されたのね。
「いいわね! この屋敷を拠点にするには、まず片づけからね!」
「はい、お嬢様」
「じゃあ、次は僕の意見」
「はい! カイル!」
今度はカイルを指差す。
リンディスが『お嬢、はしたない』とか言っているけど気にしないわよ!
「薔薇の農園を作ろう」
「薔薇の農園?」
「クリスティナの薔薇は、様々な種類のものが出せる。薬草化して領地復興の資金源にするのもいいけど、すぐには無理だ。薬草だからね、細かい調整がいる」
「うんうん」
「まず、当面の僕たちの食糧にできる薔薇を開発しよう。つまり『食用薔薇』だね」
「食用薔薇!」
「毒性の点検、それから量の確保、そして味の吟味だね。茎の部分が肉厚になるように調整してくれたら、食料として十分だ。薬草化する前に食用に耐える物が作れればいい」
「薔薇の農園っていうのは?」
「クリスティナの力だけに頼っていては安定しないからね。人の手で育てられるのが理想だ。この地に根付けば特産品になるし、いつか領民が帰ってきた時にも役立つだろう」
「なるほど! 楽しそうね! カイルはそういう知識もあるの?」
「毒も、薬も、多く把握しているから力になれるよ」
「まぁ、それは頼もしいわね! 流石はお医者様よ!」
「暗殺一家でもあるからね」
「それもそうね!」
「フフ……」
「うふふ!」
「ブ、ブラックジョーク……」
リンディスが呆れたような困ったような様子でそんなことを言っているわ。
カイルの家は表向き医者だけど、同時に王家の影を担う家でもあるんだって!
だからカイルは薬も毒も詳しいのね。いい仲間を持ったわ! フフン!
あ、ちなみにカイルは私を暗殺する任務を背負っていたけど、それを放棄して家出したわ!
カイルの妹であるセシリアも一緒にね! だから問題ないのよ!
「クリスティナお姉ちゃん」
「はい! ヨナ!」
次にヨナを指差すわ。
「ここ、魔獣が大量発生するっていう話じゃなかったの? だったら最初にその対処を考えるべきなんじゃ……?」
「それもそうね!」
でもここまで、まだ魔獣は見ていないわね!
「昼は活動しない、夜型の魔獣がいたなら道中で襲われていたと思いますが、それも現れませんでしたね」
「まだ大量発生とやらが未発生なだけかもしれないね。実はすべて聖女の虚言でクリスティナを貶めたかっただけかもしれない。魔獣が出なかろうと、この地の有様はひどいだろう」
私をこの荒れ果てた地に捨てたかったってことかしら。それは最悪ね!
「確かに〝普通の〟令嬢だったら、これだけで泣き暮れていますよ、相手はお嬢ですが」
「そうだね。もしかしたら王太子の婚約者を追いつめることが目的だったのかもしれないよ。相手はクリスティナだったけど」
何か含みがある言い方ね! リンディスもカイルも! とっても失礼な気配がするわ!
「薔薇農園でしたら、わざわざ本来の畑を用いずとも、この領主の屋敷の庭には十分な広さがあります。薔薇の成長速度と合わせて、五人分の食事を賄う程度ならそこで十分の広さかと」
これはセシリアの意見ね。
なるほど、この敷地内で私たちの食事を賄えたらいいわね。
「それに、この屋敷の外壁は崩れていますが、それでもこの領地で、最もしっかりとした壁に囲われている場所です」
「うんうん」
「魔獣の襲撃を懸念する場合、外壁の補修・補強ができれば防衛にも最適でしょう。逃げ道の確保も同時にしておきたいところです。また外壁の内側には井戸もありましたので、やはりこの場所が防衛には適しているかと。アルフィナ領の中央を流れる川も、ここから遠くありません」
「領主の屋敷だけあって立地や建物は十分に立派なのね!」
いつからこの場所に建っているのか知らないけれど。
この広さと領地の規模からして、有事の際は領民を屋敷内に保護するとか、そういうことができたはず……と思うけど。領主は災害を前に逃げちゃったのよね。
もしかして悪政を敷きすぎていて、屋敷に領民を入れたらどうなるかわからないから怖くて逃げたとか?
それだったら最低ね!
「わかったわ。じゃあ、まずは外壁の補修と強化! 防衛態勢を整えつつ、日々の食糧確保! それから屋敷の大掃除ね! それから、あとは……」
リンディス、ヨナ、カイル、セシリアの顔を見る。
「この領地、当面のお金は要らなそうだから、今ある資金で必要な物を買うわ! 生活しながら必要な品の購入リストを作ること! 領地を出て隣の領での買い出しだけど、大きな移動はしばらく五人一緒のチームでするわよ! いつ魔獣の襲撃があるかわからないからね!」
当面の方針として打ち出した指示に、みんなは頷いてくれたわ!
私は外壁の補修・強化の担当ね。リンディスと一緒よ。
カイルとセシリア、ヨナは井戸水の確認から農園候補地の見繕いね。
ひとまず屋敷の掃除は後回し。寝る場所は野営用の天幕を張るか、馬車で寝ればいいわ。
「お嬢、まず崩れた外壁の外側に防壁となる薔薇を咲かせてください」
「ええ、浄化薔薇を咲かせる?」
「あの光る薔薇ですか……。直接触れた場合は効果があるかもしれませんが。戦闘が発生していない時まで煌々と光っていたら、逆に魔獣の目を引きませんか?」
「確かにそうかもね」
遠くから見た時、『あ、なんだあのピカピカの建物は! さてはあそこに人がいるな!』みたいな。
「まずは丈夫な薔薇の蔓を棘つきで壁に巻きつかせるのはどうでしょう」
「わかったわ! 薔薇よ! 咲きなさい!」
カッ!
私が『毒薔薇』の【天与】を行使すると、見る間に外壁の下の地面から薔薇が無数に咲き始める。
そして壁を補強するように蔓が絡みついていくわ。
固くて、丈夫で、太い。みんなを守ってくれる薔薇の蔓の壁ね!
「聖女は『怪力』にだけ目覚めたお嬢を見て、何を考えてこの地に送り込んだんでしょうねぇ」
「そんなの知らないわ!」
「『毒薔薇』の【天与】に目覚めたからいいものの、そうでなければ拠点作りすらままならず、休む間もなく戦い続ける日々だったのでは……?」
『怪力』の【天与】だけしか使えなかったなら私、戦い続けて体力切れで死んでいたかもね!
「それか、お嬢のことを大量の魔獣相手でも無限に体力と戦闘意欲が続くバケモノか何かだと見ていたとか」
「そうだとしたら、もう一度ぶん殴りに行くわ!」
流石のアマネも私をそんなふうに見ていないわよね? きっと。たぶん?
書籍1巻、発売しましたー!




