101 蛮族
「太陽を継ぎし者、レヴァン・ラム・リュミエット王太子殿下! 並びにそのパートナー、メテリア神の巫女、ルーナ・ラトビア・リュミエット嬢! 御入場です!」
あ、レヴァンとルーナ様も会場入りしたわね!
王太子であるレヴァンが来たなら、もうほぼすべての参加者は会場入りしたということ。
「……あの子、こういう場所、好きなのにねぇ。顔も見せないなんて」
「あの子?」
「ミリシャよ」
「マリウス嬢か」
今や実の妹ではないとわかっているミリシャ。
レヴァンのことが好きで、やたらと私を敵視していて、ついでに余計なことをする子。
カイルが動いたきっかけでもある。
未遂に終わったし、カイルも引き抜けたし、いいんだけど。
それはそれとして私の暗殺依頼を出したことは責めた方がいいわよね!
私たちは遠目に微笑み合うと、場を譲るように端へ移動する。
ここからの主役はルーナ様とレヴァンだからね!
「クリスティナ、喉が渇くか」
「そうねぇ」
「では」
「うん」
「一緒に取りに行こう」
「ふふ、いいわよ。でもそこは取りに行ってくれるんじゃないの?」
「こういう場でお前を一人にして、ロクなことが起きる気がしない」
「それはそうね!」
よくわかっているわね!
昔から、こういう場に出てくると嫌味なんて一つや二つじゃなかったのよねぇ。
とくにミリシャとその取り巻きが突っかかってくるったら。
私はエルトと一緒に飲み物を取りに行く。
歩いているだけで注目を浴び、話しかけてくる人も大勢いるわね。
なにせ今回、英雄の一人だもの、エルトは。ふふ。
飲み物を取って中央を離れて会場の端へ移動する。
中央ではルーナ様とレヴァンが踊り始めたところ。
あら、その横でフェリシア様とそのパートナーが踊り始めたわ。
「ふふ、これってまた私たちも踊りに行った方がいいのかしら」
「お前が望むなら何度でも」
そうねぇ。悪くないわよね。
なんだか周りの目にも期待があるような気がするわ。
この会場で私を見る目って、イリス神の巫女という側面が強いわね。
あまりこういうことはしないんだけど。
「じゃあ、期待に応えようかしら」
「ああ」
グラスを置いて、再び中央へエスコートされる。
私とエルトが踊り始めると、会場にいる人々は場所を譲ってくれる。
パーティー会場の中央には三組のペアだけになった。
私とエルト、ルーナ様とレヴァン、フェリシア様と神殿騎士。
三女神の巫女が揃ってパートナーたちとダンスし、注目を浴びる。
曲が終わり、三組のダンスが終わると盛大な拍手が巻き起こった。
その拍手が一段落したところで、入口から名を読み上げる声が響く。
「ユ……ユリアン・ルフィス・リュミエット公爵令息! 並びに! ミリシャ・マリウス・リュミエット侯爵令嬢! 御入場です!」
ざわ、と一斉に入口に向かって会場中の視線が向けられる。
私もそうよ。
青い髪をした貴公子の姿。その人物にエスコートされる水色の髪をしたミリシャ。
お似合いとも思えるし、なんともチグハグな印象も受ける。
「……驚いたな」
「そうね……」
まず、ルフィス公爵家とマリウス侯爵家は、疑惑の渦中の家門だ。
ルフィス家の方は内々に調査を進めているけれど、マリウス家はけっこう大っぴらに疑いを向けて調査しているところ。
こんな場所に今、出てきたら好奇の視線に晒されるだけでしょうに。
私と違って、ミリシャはそういうのは耐えられないと思っていたけど。
青髪に青い瞳をした、背の高い人物。
ユリアン・ルフィス・リュミエット公爵令息。フェリシア様の兄。
「……ユリアンお兄様」
近くにいたフェリシア様の呟きが耳に入る。
流石に想定していなかったみたいで言葉を失っているわね。
レヴァンはルーナ様を庇うように背に隠した。
ちゃんと守ろうとしていていいわ。
エルトは私の隣に立つ。
私たち三組は彼らを迎え撃つように中央に立ったまま視線を交わす。
二人の表情はどこか対照的だった。
ミリシャは私を睨んでいる。ルーナ様ではないだけマシかしら。
こっちはむしろ、いつものことすぎて逆に安心ね。
一方、ユリアンは微笑みを浮かべて、余裕のある表情。
確かに現時点ではあやしいだけの人物よ。
でも、フェリシア様は彼をどこかあやしんでいた。
「クリスティナお姉様」
真っ先に声を発したのはミリシャだった。
睨みながら、どこか挑戦するような、見下すような、その表情。
「王太子殿下を男爵令嬢なんかに取られて、今はたかが伯爵令息をパートナーになさっているの? 惨めね、クリスティナお姉様」
その言葉に周囲の人々はぎょっとしている。
驚愕っていうか、今さら、この場面で男爵令嬢とか、伯爵令息とかでルーナ様やエルトを評価するのなんて、たぶんミリシャくらいじゃない?
二人共、リュミエール王国を救った英雄としての評価の方が大きいもの。
あと、正式な発表はまだだけど、二人の家は陞爵するから、それぞれ小侯爵と伯爵令嬢になる。
発表はすぐこのあとだから見事な前振りね!
「私をエスコートしてくださっている彼が誰か、わかりますか、クリスティナお姉様。ルフィス公爵家のご嫡男なんですよ!」
「パートナーの紹介をありがとう、ミリシャ。久しぶりね、元気?」
私がミリシャの、なんていうの?
フィオナ曰く、マウント攻撃、なるものをふりかざしたのを無視する。
すると、わかりやすいくらいに怒りに表情を歪めるミリシャ。
ふふ、もう一周回って可愛いわね。
「ずいぶん持て囃されて、いい気になっていると聞きましたわ、お姉様」
「そうそう、私、貴方のお姉様じゃないのよ、ミリシャ。まぁ、親戚ではあるみたいだけどね!」
「私の話を聞いていますの!?」
「ていうか、元から知っていそうよねー。マリウス侯爵に聞いている? 何がしたかったのかって」
「クリスティナお姉様!」
「私の本当の母親、セレスティアお母様って女騎士だったらしいの! すごいわよね!」
私たちのやり取りを、固唾を呑んで見守るような空気になる。
いや、そんな大したやり取り、する気はないわよ?
激昂するミリシャをなだめたのはユリアンだった。
「落ち着いて、ミリシャ。私に話をさせてくれる約束だろう?」
「ユリアン様……」
媚びるように見上げるミリシャ。その視線は私に流れ、そのあとで少し離れたレヴァンたちへ向く。
ルーナ様をパートナーにしているレヴァンへも悲しみと憎悪の籠った目を向けた。
「ようやく会えましたね、クリスティナ嬢」
まっすぐに。ユリアンは私に向かって微笑みを浮かべた。
何も感じない。
最近、繰り返していたテンセイシャ狩りで殴ってきた、邪神の欠片の気配など何も。
ここにはルーナ様も、フェリシア様もいるから、【天与】が与える感覚は、より鋭くなっているはず。それにも拘わらず、何も感じないのだ。
だから目の前にいる人物は、ただのフェリシア様の兄にすぎないはずだった。
だって、この私が何もあやしい気配を感じないのだから。
だから。
それでも。
「──フンッ!!」
バギィッ!
「がっ!?」
私は思い切り、ユリアンを殴り飛ばした。
問答無用で、いつもの直感ですらなく。その直感が怪しさを否定していると、わかった上で。
それでも私は『理性』を以て殴ったのよ!




