99 パーティー
王宮の庭でエルトに婚約指輪を贈られた。
それから確認して、ベルグシュタット家として私と婚約する許可をもぎ取ったらしいわ!
「……じゃあ、本当に私たち、婚約していいのね」
「ああ」
それから以前、聞いていたようにベルグシュタット家は陞爵を受け入れ、侯爵家になる。
加えて。
「え、今日?」
「そうだ。今日のパーティーは戦勝祝賀会も兼ねるもの。陞爵はその功績として受け取る。勲章授与と違い、諸々の調整も必要だったからここでの発表だ。それにラトビア家も伯爵家に上げられる」
「それも今日なんだ」
ベルグシュタット家は伯爵から侯爵に。ルーナ様の実家、ラトビア家は男爵から伯爵になるのね。
私は一足先に伯爵位を賜ったけれど。なんだかみんな、身分が上がっちゃうわね!
遠征部隊の隊長だったエルトと、救国の乙女として慕われているルーナ様。
チリチリと浮かぶのは、その二人が一緒に祝福を受ける光景。
これはアマネが視ていた予言書の内容ね。
でも、現実でエルトの隣に立つのはルーナ様じゃない。
「クリスティナ。受け入れてくれるか」
「ええ、もちろん」
私は笑って受け入れる。
「ふふ、嬉しいわ! ありがとう、エルト!」
「……そうか。よかった」
珍しく安心したような表情を浮かべる。
エルトでも不安になることってあるのねぇ。
それをいったら私だってそうだわ。
意外とままならないわね、私たちも。
エルトに手を取られ、今度こそ今日のパーティーが催される会場へ向かう。
首にかけられたエメラエルドのネックレスも、左手の薬指に嵌められた婚約指輪も、じわじわと私に喜びを与えてくれるみたい。
私は思わず頬が緩んでいた。
エルトと王宮の庭を経由したから、ベルグシュタット夫妻とは別で会場に入ることになった。
招待状を見せて中へ進むと私たちの名が読み上げられる。
「イリス神の巫女、クリスティナ・アルフィナ・リュミエット伯爵! ならびにリュミエール王国が誇る一番の騎士、金の獅子、エルト・ベルグシュタット卿! 御入場です!」
読み上げる名前になんか付いているわね!
三女神の一柱、イリス神の巫女。
アマネがいなかったら、たぶん私も聖女呼びだったんだろうなぁ。
まぁ、聖女とか呼ばれたらムズムズしていやでしょうけど!
私とエルトは流石に注目度が高くて、みんなが見てくる。
こういうのは私だって慣れたものよ。
ベルグシュタット夫妻のところへまず向かい、無事に到着したことを告げる。
私の左手に指輪が嵌められているのを見て、穏やかに笑ってくださったわ。
「エルトからは聞きましたか」
「今日のことですわね。はい、伺いました」
「本当は家督を譲ったあと、身を引く予定だったのですが、ライリーに止められたのです」
「ラーライラが? 何か?」
「クリスティナ様には、まず我々と過ごす時間があった方がいい、と」
「我々……」
「貴方はエルトの妻になってくださる。それは私たちの義娘になってくれるということです」
「そう、ですわね?」
「ですから我々は家族になる、ということです」
「……!」
「我々の結びつきは特殊な形になるでしょうから。息子夫婦を邪魔するような気持ちにもなりますがね。どうでしょうか」
つまり、夫妻やラーライラたちとも一緒に暮らすのね!
「ぜひ! とっても嬉しいですわ! あ、私付きの者も一緒でも……?」
「もちろんですよ」
「まぁ! ふふ、ですってエルト!」
「……クリスティナが望むならそれでいいだろう」
エルトが困ったような様子を見せたあと、受け入れて微笑んでくれる。
「少し嫉妬はするがな」
「嫉妬?」
「……指輪を貰うより嬉しそうだ。かまわないが」
「まぁ! 指輪だって、とっても嬉しいわよ!」
「そうか。ならいい」
エルトに手を引かれながら、夫妻と少し離れた場所へ移動する。
今夜はダンスパーティーでもあるのよ。
ある程度、人数が揃ったらダンスの時間もあるわ。
「クリスティナ様!」
「あら、フェイン嬢」
クシェルナ様よ。先日のテンセイシャ狩り、もとい異界送り以来。
「もう体調は大丈夫なの?」
「おかげさまで! すっかり体はよくなりました! それに、あのあとでラトビア嬢……救国の乙女、ルーナ様も診てくださったので!」
「それはよかったわ。パーティーにも参加できるほどに体調が戻ったなら安心ね」
「はい!」
「でも、無理はしないようにね」
「承知しています。でも今日はぜひ、クリスティナ様たちに感謝を伝えに来たくて」
「ふふ、ありがとう。受け取るわね」
ここしばらくテンセイシャたちを異界送りしたおかげで、いくつかの貴族家からは改めて感謝された。エルトにも沢山、人が集まってきて、なんだか大変よ。
「シュレイジア神の巫女、フェリシア・ルフィス・リュミエット公爵令嬢! 御入場です!」
また注目が集まる。
フェリシア様が会場に来られたのね。
読み上げられた名前が彼女のものだったから、お一人で来られたのかと思ったけど。
どうやら同行者がいるみたい。見覚えはないわね?
「……あれは神殿騎士の一人だな」
「知っているの? エルト」
「ああ、少しだけ。ルフィス嬢の護衛を務めている神殿騎士だ。士官学校で見かけたことがある」
「まぁ! 士官学校出身の!」
つまり、エリート系ね!
騎士となった人たちは、どこかの騎士団に所属するか、主君を得るかなどあるけれど。
神殿に入り、神殿騎士となる人もいるのよ。
「ちょっと意外かも?」
「そうか?」
「フェリシア様が騎士をパートナーにするとは思わなかったわ」
思えばルーナ様も、前までエルトに惹かれていたとか。
……女神に連なる人の趣味って、実は騎士だったりする?
「公爵令嬢だから引く手数多だろうな。さらに【天与】を授かっている。だが、ただの貴族をパートナーにする気があるなら、誰が一番相応しいかというと」
「レヴァン……殿下でしょうね」
「そうなるだろうな」
「それを嫌がったのかしらねぇ」
レヴァンにはお気の毒かもしれないけど。
フェリシア様はルフィス家に権力を持たせたがってはいないみたい。
だからこそ自ら神殿に入り、私たち三人の誰よりも巫女として活動している。
最近は私も異界送りでそれっぽいことをしていたけどね!
フェリシア様が神殿関係をまとめて引き受けてくれているから私は自由に動けている。
ルーナ様もきっとそうよね。
今、なかなか大変なのよね、ルーナ様って。
神殿からすれば三女神の象徴となる【天与】を授かった三人なんて、本当は全員抱え込みたいはずなのよ。
それをフェリシア様が一手に引き受けてくれることでどうにか抑えているの。
「でも、フェリシア様の自由を私たちが奪ってしまっているのよね……」
「そうではないだろう」
「そう?」
「ルフィス嬢は自分の意思でしたいことをしている。少なくとも俺にはそう見える」
「……まぁ、それはそうね」
「教団を潰したあと、本人が望まないなら別の道を歩むだろう」
うーん。確かにそんな気がするわね!
私のことを勝手に王都中に広めるとか、けっこう自分の考えを押し進めるタイプよね!
じゃあ、本気で嫌なら抵抗するだろうし。心配しなくていいかな?
「第一王女! レミーナ・ラム・リュミエット殿下のご入場です!」
今度こそ、お一人で入場されたのは噂のレミーナ王女よ。
遠目で見えるのはレヴァンと同じ髪色と瞳。
今年、十六歳になり、エルトを慕っているという王族。
注目を浴びていたレミーナ王女は会場内を一通り見渡したかと思うと、私とエルトがいる方向に顔を固定した。まだ距離はあるけれど、その視線の先にいるのは私たちでしょうね。
「見つかっちゃったわ」
「そうだな」
私とエルトが黙って様子を窺っていると、こちらが動くまでもなく、レミーナ王女はまっすぐに私たちのところへ歩いてくる。
あらあら……。
「──エルト様、お久しぶりです」
「……ああ。王女殿下、ご挨拶申し上げる」
一応、黙って成り行きを見守ってみる私。
「エルト様、この度は陞爵をお受けになると聞きました。まずは誰よりも先に祝福の言葉を送らせてくださいませ」
「受け取った」
レミーナ王女はエルトに一直線ね!
ただ、これはエルトに夢中というよりは意識的に私を無視している感じ?
なるほど、王女はそっちタイプなのね!
みんな、いろいろとやるわよねぇ、嫌がらせ!




