第8話:愛媛風エリアと湯けむりの攻防(後編)
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
温泉街を牛耳り、あろうことか『虎チームの春季キャンプ地』を占拠したヤクザに、マオの野球愛と怒りが爆発。
彼らは一直線に、グラウンドへと向かって走り出しました。果たして、神聖なスポーツの場を取り戻すことはできるのでしょうか!
***
「燃やせ燃やせ! グラウンドの芝も、ベンチも全部燃やして、駐車場にしてやるぞなもし!」
虎チームのキャンプ地。
柄の悪い『湯煙一家』のチンピラたちが、たいまつを片手にブルペンやベンチに火を放とうとしていた。
「――お前ら、神聖なグラウンドで何さらしとんねん!!」
地響きのような怒声と共に、球場の入り口ゲートを蹴り破ってマオたちが突入してきた。
「ああん? なんじゃお前らは。ここはもう湯煙一家のシマぞな……」
チンピラが言い終わるよりも早く。
マオの怒りに触発されたゴーンとシーアが、一切の容赦なく飛び込んだ。
「チェストォォォ!!」
「お静まりやす」
ゴーンの金棒が巻き起こした暴風がチンピラたちをフェンス際まで吹き飛ばし、シーアの重圧魔法が彼らをマウンドに縫い付ける。
「ひぃぃっ! ば、バケモノぞなもし……!」
一瞬で無力化されたチンピラたち。
マオは燃え残ったベースの土を丁寧に払いながら、冷たい声で言い放つ。
「芝一本、ベース一つ傷つけさせてたまるか。……よし、ここは片付いたな。親玉がおる『神の湯』にカチコミや!」
***
一方その頃。
温泉街の中心にそびえ立つ巨大な公衆浴場『神の湯』の、一番奥にある大広間。
湯煙一家の組長は、豪華な宴会を開き、コンパニオンである湯女たちをはべらせて酒を煽っていた。
「ひひっ。源泉の権利とキャンプ地を売り払った金をザウード様に献上すれば、ワシらも過激派の大幹部ぞなもし」
ゲスな笑い声を上げる組長。
だがその時、大広間の襖が勢いよく吹き飛んだ。
「そのふざけた宴会、そこまでやで」
もうもうと立ち込める砂埃の中から、マオ、ゴーン、シーアの三人が悠然と姿を現す。
シーアは扇子を広げ、組長の周りで震えている湯女たちを食い入るように見つめた。
「ふふ……あんな別嬪さんたちを独り占めして宴会とは、許せまへんなぁ。あわよくば、私のお酌も……じゅるり」
「お前、こんな緊迫した場面でもブレへんなぁ」
マオが呆れたようにツッコミを入れた直後。
天井の梁の上から、呆れ果てたような声が降ってきた。
『……わ、こんなアホみたいなカチコミ、初めて見だべ……』
天井裏には、おリンにすっかり捕まり、濡れ髪のまま同行させられているくノ一・シノブ(青森・津軽出身)の姿があった。
おリンがシノブの頬をツンツンと突きながら、ウインクを送る。
『野良猫ちゃん、ここからが一番面白いところばい。見ときんしゃい』
「なんじゃきさまらは! どこから入ってきたぞなもし!」
組長が刀を抜き、周囲の障子から完全武装の手下たちが数十人も姿を現す。
マオはニヤリと笑い、扇子をパチンと鳴らして一歩下がった。
「マオ殿、今度こそ完璧に決めるごわす!」
ゴーンが一歩前へ出て、組長をビシッと指差す。
「こ、この御方を……どなたと心得るごわす!!」
『あ、やっぱり「ごわす」が抜けてへん!』
マオが内心で盛大にズッコケるのと同時に、シーアが優雅な手つきで『魔王の印(印籠)』を突き出した。
「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」
圧倒的な魔力の波動が大広間を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返る大広間。
天井裏のシノブは、手で顔を覆ってブルブルと首を振っている。
『わ、またこの茶番劇だべ! いつまで続くんだべか、これ!』
組長は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな温泉街に……!」
だが、次の瞬間。
組長の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。
「……待てや! お前ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞなもし! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」
『よっしゃ! 完璧なテンプレ! この瞬間が一番たまらんわ!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! ワシらは過激派のザウード様と共に、集めた金で人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ここで消し去って、温泉の肥やしにしてやるぞなもし! 出会えぇぇええ!!」
組長の号令で、手下たちが一斉に襲いかかってくる。
「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」
「チェストォォォ!!」
シーアの重圧魔法とゴーンの金棒が炸裂し、部屋は阿鼻叫喚の渦に。
「隙だらけさー」
「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」
『わあぁぁっ!? わ、わだばただの監視役だべ! なんでわまで戦わなきゃなんねぇんだべ!』
おリンに背中を押される形で天井裏から飛び降りたシノブ。
しかし、彼女も腐っても亜人族のエリート密偵である。文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、手下たちを次々と昏倒させていく。
「ひぃぃ……お、お助けをぉ……ぞなもし……」
わずか数十秒。完全に無力化され、震え上がる組長。
マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。
「言語道断である。領民の憩いの場である温泉を独占し、神聖な野球のグラウンドを己の野望の道具にするなど……万死に値する!」
***
事件解決後。
マオたちは地元民たちから感謝され、本来の静けさを取り戻した『神の湯』の広間で、湯上がりの「愛媛風みかん」を満喫していた。
「いやー、やっぱりひと仕事した後の温泉とみかんは最高やな!」
「マオ殿、湯冷めしないようにちゃんと服を着るごわす」
「ふふ……湯上がりの湯女さんたちの、ほんのり上気した頬……まさに絶景どすなぁ……じゅるり」
平和な光景を取り戻し、大満足でくつろぐ一行。
その隅っこでは、すっかりおリンに懐柔(?)されたシノブが、みかんをモグモグと食べながら頭を抱えていた。
『わ、いつの間にかこのアホ一行の仲間入りさせられとるべ……。獣王様さ、なんて報告すればいいんだべか……』
その時、マオの懐の通信魔導具が鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……あー、ベルゼか。もしもし? 今、湯上がりで手が濡れとるから切るでー。事後処理頼むわー。ブツッ」
『あ、マオ様!? ちょっと、ザウードの件で……あああぁぁぁ!!』
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】
はい、安定の丸投げです。
ついにその名がはっきりと見え隠れし始めた、過激派のリーダー・ザウード。
しかし、マオたちの呑気な世直し道中はまだまだ続くようです。
なし崩し的に一行(のお風呂仲間)に加わったシノブと共に、彼らは次なるエリア『九州』へと海を渡ります! さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!




