第6話:高知風エリアと海援隊(偽物)
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
徳島での熱狂的な阿波踊り(と、ついでに行われたヤクザ退治)を終えたマオ一行は、四国エリアの南、雄大な太平洋を臨む「高知風エリア」へとやってきておりました。
どこまでも続く青い海と、潮の香り。これぞ旅の醍醐味ですね。
***
「いやー、海が広くて気持ちええなぁ! 高知言うたらやっぱり、新鮮なカツオの一本釣りやろ! 今日の昼飯は絶対にカツオのたたきや!」
潮風を全身に浴びながら、ゴム製の角をつけたマオが上機嫌で歩いている。
「マオ殿。あまり浮かれていると、足元の石につまずくごわすよ。常に油断大敵ごわす」
ゴーン(薩摩弁)が真面目に周囲を警戒する中、その後ろを歩くシーア(京都弁)は、港で働く女性たちに熱い視線を送っていた。
「ふふ、ええおすなぁ。荒波に揉まれながらカツオを一本釣りする女漁師さんたち……。日に焼けた肌と、力強く網を引くたびに汗ばむ二の腕! そして潮風に張り付く服! あわよくば船底の倉庫に連れ込んで……じゅるり」
「お前、海に来たら絶対それ言うと思ったわ」
マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……またか。せっかくの潮風のBGMが台無しやで」
『マオ様!? 通信切らないでくださいよ! 徳島の祭りで暴れたせいで、奉行所の修繕費用と慰謝料の請求がこっちに回ってきてるんですよ!』
魔王軍のNo.2、宰相ベルゼの悲鳴のような声が響く。
「あー、ごめんごめん! ちょっと波の音で電波が……ザザッ」
『波の音は電波に関係ないでしょうが! 次こそは絶対に大人しく……ああ、胃薬のストックがもう……誰か至急、新しい胃薬を……!』
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】
はい、安定の丸投げです。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、今日も太平洋の彼方へ消えていきました。
……さて。そんなマオたちの様子を、港に生えるヤシの木の陰からジッと見つめる一つの影がありました。
『……獣王様。対象は今日も、カツオのことしか考えてねえだじゃ。わ、なしてこんた南国まで来て、木の陰からスケベな吸血鬼ば監視してんだべか……』
監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。
亜人族の優秀な密偵である彼女は、毛皮の衣装の下で汗だくになりながら、深いため息をついていた。
『それにしても、あのアホ(マオ)も、少しは留守番しちゅう宰相の心配してやればいいのに……同情するべ』
***
港町へ入ったマオたちだったが、そこには活気あるカツオ漁の風景はなく、漁師たちが暗い顔をしてうつむいていた。
広場では、和装にブーツという奇妙な出立ちをした魔族の集団が、漁師たちから無理やり金を巻き上げている。
「おいおい、これっぽっちかえ? 我ら『魔援隊』は、魔族の夜明けのために動いちゅうがぜよ! これでは立派な軍艦は造れんちや!」
魔援隊の副隊長が、大袈裟な土佐弁でふんぞり返っている。
「そ、そんなこと言われたって! 今月のカツオの売り上げは全部渡したじゃないか!」
「うるさいぜよ! 隊長殿の命令が絶対ながじゃ! いつ人間どもが条約を破って海から攻めてくるか分からんがじゃ! これは海防のための特別税ぜよ! 払えんのなら、お前の船を没収するちや!」
『……なるほどな。また人間の脅威を煽って、同胞から搾取するクズの集団っちゅうわけやな』
マオが路地裏に身を隠し、通信魔導具のボタンを押す。
「おっ、おリンか?」
『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』
ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声が響いた。
「お前、この港町のどこに風呂があるねん」
『よかたい。あの魔援隊って名乗っとるペテン師の屋敷に、大量の柚子を浮かべた巨大な「柚子風呂」があったけんね。ちょっとお湯張って入ってみたら、柑橘系の香りが最高ばい。お肌がツルツルしてきたとよ』
豊かなプロポーションを、黄色い柚子がぎっしり浮かぶお湯に沈めてくつろぐおリン。
『広場で集金しとる連中の親玉……ペテン師の隊長しゃんは、私が色仕掛けでお酒飲ませて、奥の部屋で爆睡しとるよ。裏帳簿によると、軍艦なんか造る気はさらさら無くて、巻き上げたお金は全部「ザウード」って名前の過激派リーダーに横流ししとるみたいやね』
「ザウード……どっかで聞いたことある名前やな。あのダンジョンの密輸事件の時も、たしか裏で糸引いとったやつか」
マオの目が、スッと細くなる。
『僕もバッチリ、裏の金庫の鍵を開けといたさー。いつでも突入できるさー』
ジョンののんびりした声が通信越しに聞こえる。
「おっしゃ。ほな、ゴーン、シーア。ちょっとあのペテン師どもに、本当の『夜明け』ってもんを教えたるで!」
***
魔援隊の拠点である、港の豪邸。
その奥座敷で、目を覚ました隊長が顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「な、なんじゃお前らは! どこから入り込みやがったがぜよ!」
広間には、隊長と、広場から戻ってきた副隊長をはじめとする武装した隊員たちがずらりと並んでいる。
その正面には、マオたち三人が悠然と立ち塞がっていた。
「マオ殿。今日のタメは完璧にいくごわす!」
「ええ、私の印籠を出す角度も計算し尽くされてますえ」
ゴーンとシーアが目配せをする。
マオが扇子をパチンと鳴らして一歩下がると、ゴーンが前へ出て、隊長をビシッと指差した。
「こ、この御方を……どなたと心得るごわす!!」
『よっしゃ! 「ごわす」は付いたけど、タイミングはバッチリや!』
マオが内心で頷くのと同時に、シーアが優雅な手つきで『魔王の印(印籠)』を突き出す。
「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」
圧倒的な魔力の波動が広間を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返る広間。
屋根裏から覗いていた監視役のシノブも、『わ、またこのパターンだべ……』と頭を抱えている。
隊長は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな南国の港町に……!」
だが、次の瞬間。
隊長の顔が醜く歪み、開き直りの言葉を叫んだ。
「……待てや! お前ら、ワシを騙そうたってそうはいかんがぜよ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語ながじゃ!」
『よっしゃ! 完璧なテンプレ開き直りきたで!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! ワシらは過激派のザウード様と共に、この金で再び人間領に攻め入るんじゃ! 偽物ごと海に沈めてやるぜよ! 出会えぇぇええ!!」
隊長の号令で、奥の部屋から完全武装の増援部隊が一斉に襲いかかってくる。
「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」
「チェストォォォ!!」
シーアの重圧魔法が広間を制圧し、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、隊員たちをまとめて襖ごと吹き飛ばす。
「隙だらけさー」
「お仕置きばい。……ちょっと、柚子の香りがしとるけど気にせんでね」
さらに影から飛び出したジョンと、本当にほんのりと柑橘系の香りを漂わせているおリンの連携により、増援の構成員もあっという間に制圧された。
「ヒィィ……お、お助けをぉ……ちや……」
完全に無力化され、震え上がる隊長と副隊長。
マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。
「言語道断である。魔族の夜明けとほざきながら、同胞の汗の結晶を己の野望のために掠め取るなど……万死に値する!」
***
事件解決後。
マオたちは漁師たちから感謝され、お礼に振る舞われた大量の『カツオのたたき』と酒を堪能していた。
「いやー、やっぱり本場のカツオはニンニクが効いてて最高やな!」
「マオ殿、ご飯お代わりごわす!」
大満足で舌鼓を打つマオとゴーン。
その横で、シーアはまだ港で働く女漁師たちから目を離さずにいた。
「ええどすなぁ……あの逞しい太もも……じゅるり」
【ナレーション】
こうして、高知風エリアの海の平和は守られました。
背後で見え隠れし始めた「過激派ザウード」の存在。しかし、マオたちの呑気な世直し道中はまだまだ続くようです。
一方その頃、屋根裏から事の顛末を見ていたくノ一のシノブは、カツオのいい匂いにお腹を鳴らしながら、深いため息をついておりました。
『わ、いつになったらこのアホみでな尾行任務、終わるんだべか……?』
彼らの気まぐれな旅は、四国エリアをさらに西へと進んでいきます。
さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!




