第5話:徳島風エリアと熱狂の阿波踊り(勇者遭遇)
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
香川風エリアでうどんマフィアを成敗し、腹を満たしたマオ一行。彼らは次なる目的地、徳島風エリアへと到着しておりました。
この街は現在、年に一度の大祭の真っ最中。街中が熱気と、どこからともなく聞こえるお囃子の音に包まれています。
***
「ええぞええぞ! これが徳島名物『阿波踊り』か! 熱気がすごいやないか!」
ちょうちんが立ち並ぶメインストリートで、マオが目を輝かせていた。
行き交う魔族たちは皆、浴衣や法被姿で陽気に踊り歩いている。
「マオ殿、あまりウロウロすると迷子になるごわすよ。はぐれないよう、俺の背中についてくるごわす」
ゴーン(薩摩弁)が、周囲を警戒しながら保護者のようにマオをガードする。
一方、シーア(京都弁)は完全に別のものに目を奪われていた。
「おお……踊るたびにチラリと見える、踊り子さんたちのうなじ! そして汗で透けた浴衣! この熱狂的な祭りの裏で、あわよくば路地裏に連れ込んで……じゅるり」
シーアが扇子で口元を隠しながら、ニチャァ……と下品な笑みを浮かべている。
『よしよし、今日も平常運転やな』
マオが呑気に屋台の焼き鳥をかじっていると、懐からけたたましい電子音が鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……またか。ほんまタイミング悪いやつっちゃで」
マオが路地裏に身を隠し、嫌そうな顔で通信魔導具のボタンを押す。
『あ、マオ様!? また通信切るつもりですね! 切らないでくださいよ!』
聞こえてきたのは、魔王城でお留守番をしているNo.2、宰相ベルゼの悲痛な声だった。
「おー、ベルゼ。なんやねん、今めっちゃええところなんやけど。お囃子聞こえるか?」
『聞こえるかじゃありませんよ! あなたが香川のうどん屋で暴れたせいで、また事後処理の書類が増えたんです! それに徳島の祭りは警備予算がカツカツなんですから、絶対に、絶対にトラブルを起こさないでくださいよ! ああ、また胃がキリキリと……至急、強い胃薬を……』
「あー、ごめんごめん! ちょっと祭りの太鼓の音で電波が……ブツッ」
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】
はい、安定の職務放棄と丸投げですね。ベルゼ宰相の寿命がゴリゴリ削られている音が聞こえるようです。
……さて。そんなマオたちの様子を、屋根の上のちょうちんの影からジッと見つめる一つの影がありました。
『……獣王様。対象は今日も、呑気に祭りば楽しんでるだげだじゃ。……って、なしてわ、あんな胃痛持ちの宰相の心配までさせられでんだべか……』
監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。
亜人族の優秀な密偵である彼女は、すっかり呆れ顔でため息をついていた。
『それに、あの吸血鬼のスケベ面、なまら腹立つべ……いつか後ろから蹴っ飛ばしてやるじゃ』
***
祭りのメインストリートに戻ったマオたちだったが、少し進んだ先で、屋台の並びから怒号が聞こえてきた。
「なんじゃこりゃあ! 今月のショバ代が足りんぞえ!」
柄の悪い数人の魔族を引き連れ、ふんぞり返っているのは、この街の裏社会を牛耳るヤクザの親分だった。
「そ、そんな無茶な! 祭りの特別協賛金じゃ言うて、先週も払ったばかりじゃないですか!」
「うるさいわ! この祭りはワシの管轄じゃ! 払えんのなら、その屋台をぶち壊して、お前の娘を遊郭にでも売り飛ばしてやるじょ!」
ヤクザの親分がゲラゲラと笑いながら、屋台の骨組みを蹴り飛ばす。
「ひどいごわす! マオ殿、あのような悪党……」
「待て待て、ゴーン。まずは裏を取らなアカン。それに……」
マオがゴーンを制したその時。
祭りの列の向こう側から、聞き覚えのある声が響いてきた。
「てやんでえ! べらぼうめえ! 祭りの屋台をぶっ壊すような野暮な真似は、俺が許さねえぜ!」
踊り子の列をかき分けて現れたのは、ゴム製の安っぽい角を頭につけ、顔を紫に塗った不審な二人組。
勇者アレン(江戸っ子弁)と、聖騎士セリア(名古屋弁)だった。
「アレンザの兄ちゃん! やっぱり来とったんか!」
「おっ! 岡山のスタジアムで会ったマオの旦那じゃねえか! 奇遇だねえ!」
『いや、お前らなんで「かっとばせー! ウサギー!」の応援歌に合わせて阿波踊り踊っとんねん』
マオは内心でツッコミつつ、再会を喜んだ。
「あん? なんじゃお前ら、県外から来た余所者かえ? ワシのシマでデカい顔すな!」
ヤクザの親分が苛立たしげに睨みつける。
マオはニヤリと笑い、アレンの肩を叩いた。
「アレンザの兄ちゃん、ちょっと祭りの準備運動、したないか?」
「へっ! 言われなくとも、血が騒いでたところよ! 邪魔する奴らはブッ飛ばしてやるぜ!」
その時、マオの懐の通信魔導具がブルブルと震えた。
「おっ、おリンか?」
マオが再び路地裏に身を隠し通話ボタンを押すと。
『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』
ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声が響いた。
「お前、こんな街中のどこに風呂があるねん」
『よかたい。街を治める奉行所の裏手に、徳島名物「藍染め」の染料が入った巨大な樽があったけんね。ちょっとお湯張って入ってみたら、深くて最高ばい。肌が少し青くなってきたけど』
豊かなプロポーションを、濃い藍色の染料樽に沈めてくつろぐおリン。
『奉行しゃんは、私が色仕掛けでお酒飲ませて、奥の部屋で爆睡しとるよ。裏帳簿によると、ヤクザが集めたショバ代を、やっぱり過激派のザウードの所に横流ししとるみたいやね』
「なるほどな。裏で糸を引いとるのは奉行っちゅうわけや。……ジョンはどうや?」
『僕もバッチリ、奉行所の金庫の鍵を開けといたさー。いつでもいけるさー』
「おっしゃ。ほな、アレンザの兄ちゃん! このヤクザどもを軽くシメて、親玉の奉行所にカチコミかけるで!」
***
奉行所の奥座敷。
目を覚ました奉行が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「な、なんじゃお前らは! どこから入り込みやがった!」
広間には、奉行の私兵たちがずらりと並んで武器を構えている。
その正面には、マオたちと勇者ペア、そしてボコボコにされて縄で縛られたヤクザの親分が転がされていた。
「マオ殿。今日も練習の成果を見せるごわす!」
「ええ、私の絶妙なタメを御覧なさい」
ゴーンが一歩前へ出て、奉行をビシッと指差した。
「ええい、控えおろう! この御方を……どなたと心得る、ごわす!!」
『あ、また「ごわす」付いたわ』
マオが内心でズッコケるのと同時に、シーアが優雅な手つきで『魔王の印(印籠)』を突き出す。
「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」
圧倒的な魔力の波動が広間を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返る広間。
屋根裏から覗いていた監視役のシノブも、あまりの様式美な展開に『わ、またこの茶番劇だべ……』と頭を抱えている。
奉行は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな祭りに……!」
だが、次の瞬間。
奉行の顔が醜く歪み、開き直りの言葉を叫んだ。
「……待てや! お前ら、ワシを騙そうたってそうはいかんじょ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」
『よっしゃ! 完璧なテンプレ開き直りきたで!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! ワシらは過激派のザウード様と共に、集めた金で再び人間領に攻め入るんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ここで消し去ってやるわ! 出会えぇぇええ!!」
奉行の号令で、奥の部屋から完全武装の増援部隊が一斉に襲いかかってくる。
「てやんでえ! 祭りの邪魔する野暮天どもが! 俺の拳を食らいな!」
アレンが嬉々として飛び出し、魔法無しのステゴロで私兵を次々と吹き飛ばしていく。
セリアも「でら迷惑な連中だわ!」と蹴りを放つ。
「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」
「チェストォォォ!!」
シーアの重圧魔法とゴーンの豪快な金棒が炸裂し、部屋は阿鼻叫喚の渦に。
「隙だらけさー」
「お仕置きばい。……ちょっと、肌が藍色に染まっとるけど気にせんでね」
さらに影から飛び出したジョンと、本当に肌が少し青っぽくなっているおリンの連携により、増援の構成員もあっという間に制圧された。
「ヒィィ……お、お助けをぉ……」
完全に無力化され、震え上がる奉行とヤクザ。
マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。
「言語道断である。領民の笑顔と祭りの熱気を、己の私腹とくだらん野望の道具にするなど……万死に値する!」
***
事件解決後。
マオたちは屋台の店主たちから感謝され、お礼に振る舞われた焼き鳥や酒を堪能していた。
「いやー、やっぱり祭りは最高やな! アレンザの兄ちゃん、セリアの姉ちゃんも、今日は助かったで!」
「へっ、気にするな! 次はスタジアムで、俺たちのウサギチームが勝つところを見せてやるからな!」
アレンとマオがジョッキをぶつけ合い、ゲラゲラと笑う。
その横で、シーアはまだ阿波踊りを踊る娘たちから目を離さずにいた。
「ええどすなぁ……あの躍動感、まさに芸術……じゅるり」
【ナレーション】
こうして、徳島風エリアの祭りの平和は守られました。
一方その頃、屋根裏から事の顛末を見ていたくノ一のシノブは、深いため息をついておりました。
『わ、本当に何を見せられとるんだべか……このアホみでな道中、まだまだ続くんだべか……?』
彼らの気まぐれな世直し道中は、四国エリアをさらに南へと進んでいきます。
さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!




