第27話:福井風エリアと断崖の決闘(後編)
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
恐竜の化石をアンデッド化し、街を襲わせようとした過激派の死霊術師。
彼の卑劣な人質作戦により、マオ一行は日本海の荒波が砕け散る『東尋坊風・断崖絶壁』へと舞台を移すことになりました。
そこはかとなく物悲しい風が吹き抜ける崖の上で、ついに決着の時が訪れます。
***
ざぱぁぁぁん……!!
日本海の冷たい風が吹き荒れ、切り立った岩肌に激しい波が打ち砕けている。
その断崖絶壁の突端で、死霊術師の親玉が、縛り上げた発掘作業員(人質)を盾にして高笑いしていた。
「ヒャーッハッハ! 来たな愚か者ども! もう逃げ場はないぞ!」
「逃げ場がないのはお前の方やろ。そこから先は海やで」
崖の手前に、マオ、ゴーン、シーアの三人が立ち塞がる。
「うるさい! ワシにはこの無敵の人質がおるんじゃ! 動けばこいつを波間に突き落とすぞ!」
「ひぃぃっ! た、助けてくれぇ……!」
足元の岩が崩れ落ちるほどのギリギリの崖っぷち。一歩間違えれば、人質は命を落とす。
親玉が勝ち誇ったようにニヤリと笑った、その瞬間だった。
「……隙だらけさー」
親玉の足元の『影』から、音もなくジョンが飛び出した。
密偵としての極限の身のこなしで、親玉が反応するよりも早くロープを切り裂き、人質の襟首を掴んで瞬時に死角へと引きずり込む。
「なっ!? 人質が消えた!?」
「マオにぃにぃ、人質さんは無事に確保したさー」
「おっしゃ、でかしたジョン!」
親玉が驚愕して目を丸くする中、マオは手にした扇子をパチンと鳴らして一歩下がった。
「……もうええやろ。ゴーン、シーア、懲らしめてやりなさい!」
「「ははっ!」」
某・ご隠居のトーンで発せられたマオの号令に、二人は完璧なシンクロで片膝をつき、そのままの勢いで親玉の護衛として残っていた私兵たちへ飛び込んだ。
「チェストォォォ!!」
「成敗どすえ!」
ゴーンの金棒が私兵たちの武器を粉砕し、シーアの重圧魔法が彼らを岩肌に叩きつける。
わずか数秒で私兵たちが無力化され、親玉が「ひぃっ!?」と後ずさりしたその時。
「ええい、静まれ静まれぇい!! 頭が高いどすえ!!」
シーアが、これまでにないほどのドスを効かせた声で一喝し、流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を天高く突き出した。
「こちらにおわす御方をどなたと心得る! 恐れ多くも魔王様の御前どすえ! ひれ伏しやす!」
圧倒的な魔力の波動が断崖絶壁を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、冷酷な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返る崖の上。
露天風呂から上がって大きなバスタオルに包まっていた監視役のシノブも、岩陰から『わ、波の音に負けねぇ立派な声だべ……時代劇ごっこが極まってきたべさ』と感心している。
親玉は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんで魔王様がこんな福井の断崖絶壁に……!」
だが、次の瞬間。
親玉の顔が醜く歪み、開き直りの言葉を叫んだ。
「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」
『よっしゃ! 完璧なテンプレ開き直り! これを聞かなきゃカツ丼は食えんわ!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様と共に、人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! 出会えぇぇええ!!」
親玉の最後の号令で、崖の裏手に隠れていたアンデッドの残党たちが這い上がってくる。
「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」
『わあぁぁっ!? なしてわだばバスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ! 潮風が冷てぇべさ!』
おリンに背中を押される形で飛び出したシノブ。
文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りのアンデッドたちを次々と昏倒(再粉砕)させていく。
「ひぃぃ……ワ、ワシの化石軍団がぁ……!」
完全に無力化され、逃げ場を失った親玉は、崖のギリギリ端っこで崩れ落ちるように膝をついた。
***
ざぱぁぁぁん……!
その時である。
どこからともなく、物悲しいトランペットのメロディ(幻聴)が、波の音に混じって聞こえてきたような気がした。
親玉は、遠く日本海の水平線を見つめながら、ポツリポツリと語り始めた。
「……どうせワシは、日陰者じゃった……」
「え? なんや急に」
マオが戸惑う。
「死者を弄ぶ『死霊術師』として忌み嫌われ、誰からも認められず、暗い地下室で骨をいじるだけの日々……。そんなワシの才能を認め、光を当ててくれたのが、ザウード様じゃった……。ワシはただ、自分の力を世間に証明したかっただけなんじゃあぁ……!」
涙ながらに、自分の不幸な生い立ちと犯行の動機を独白し始める親玉。
『わ……な、なんで急にサ〇ペンス劇場が始まったんだべか……?』
バスタオル姿のシノブが、ドン引きしながらツッコミを入れる。
だが、マオの目は真剣だった。
彼は親玉の前にツカツカと歩み寄ると、崖の突端に立ち、某・船〇英一郎ばりの熱量で説教を叩き込んだ。
「バカヤロー!! 泣いてる暇があったら自分の罪を数えろ!!」
「ヒッ!?」
「お前がそんな身勝手な理由で街を壊して、罪なき領民を傷つけて、田舎のオカンが喜ぶとでも思っとるんか!! お前の『死霊術』は、死者を冒涜するためやない! 発掘された化石の声を聴き、古代のロマンを後世に語り継ぐために使うべきやったんや!!」
マオの熱すぎる説教が、日本海の強風に乗って崖に響き渡る。
「あ、うぅ……魔王様……オカァチャァァァン!!」
親玉は両手で顔を覆い、崖の上で泣き崩れた。
完全に『火曜サ〇ペンス』のラストシーンである。
「やれやれ……無事に『自供』も取れたことやし。一件落着やな」
「マオ殿。あの説教、胸に沁みる素晴らしいお言葉だったごわす……!」
ゴーンが感動の涙を流している。
「ふふ、ええおすなぁ。荒波を背景に泣き崩れる犯人と、バスタオル姿の娘さん……まさに名作ドラマのワンシーンどすえ……じゅるり」
シーアはやっぱりブレなかった。
***
事件解決後。
恐竜の化石たちは無事に発掘現場へと戻され、親玉は城の警備隊に引き渡された。
マオたちは街の食堂で、念願だった『ソースカツ丼』と『越前風おろしそば』のセットを満喫していた。
「いやー! 薄くてサクサクのカツに、甘辛いソースが染み込んで最高や! 濃い味の後に、ピリッと辛いおろしそばでさっぱりするのも完璧なコンボやな!」
「マオ殿、カツ丼お代わりごわす!」
「僕もおそばちゅるちゅる食べるさー」
大満足で舌鼓を打つマオ、ゴーン、ジョン。
その横で、シーアはまだ海女さんたちがいる浜辺の方から目を離さずにいた。
「ええどすなぁ……あのピタッとしたウェットスーツ……じゅるり」
そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてバスタオル姿でサスペンス劇場を見せられたシノブが、カツをサクサクとかじりながらため息をついていた。
『わ、時代劇の次はサスペンスだべか……ほんと、情緒がおかしくなりそうな任務だべさ……でも、このカツ丼はなまら美味いべ』
【ナレーション】
こうして、福井風エリアの平和と古代のロマンは守られました。
時代劇からサスペンスまで、様式美(悪ノリ)の引き出しを増やしていくマオたち。
次なる目的地は、巨大な淡水湖が広がる『滋賀風エリア』です。
さて、次はどんな悪党(とドラマチックな展開)が待ち受けているのやら!




