第26話:福井風エリアと恐竜アンデッド(前編)
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
兵庫風エリアで極上のカニを満喫し、時代劇の様式美を一段と悪ノリ……もとい、進化させたマオ一行。
彼らは日本海沿いをさらに北東へと進み、断崖絶壁の海岸線と、古代のロマン溢れる『福井風エリア』へとやってまいりました。ここは魔族領でも有数の、恐竜の化石の発掘地であります。
***
「いやー、日本海の荒波が作り出した絶景やなぁ! 福井言うたら、なんちゅうても甘辛いタレが染みた『ソースカツ丼』と、大根おろしでさっぱり食う『越前風おろしそば』のセットや! 昼飯は絶対に炭水化物のダブルパンチやで!」
冷たい海風に吹かれながら、マオが頭のゴム角を揺らして上機嫌に歩いている。
「マオ殿。いくら美味いからといって、カツ丼とそばを一緒に食べるのはカロリーと塩分の過剰摂取ごわす。食後はしっかりと海岸沿いをランニングするごわすよ」
相変わらずの健康管理オカン属性を発揮するゴーン(薩摩弁)の横で、シーア(京都弁)は完全に別のものに目を奪われていた。
「おお……あちらの岩場に見えるは、冷たい海での漁を終えて上がってきた海女さんたち! 体にピタッと張り付く漆黒のウェットスーツ姿……! 浮き出るボディラインと、息を整えるために上下する胸元! あわよくば、私が冷えた体を温めるふりをして、あのファスナーをゆっくりと……じゅるり」
シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。
「お前、とうとうウェットスーツフェチにまで目覚めたんか。業が深い男やで」
マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……またか。せっかくの古代のロマンが台無しやで」
マオが嫌そうな顔で岩陰に入り、通信ボタンを押すと。
『ボリッ、ガリガリッ、ボリボリボリッ……!!』
「……ベルゼ。お前、今日は何錠いっぺんに噛み砕いとるんや」
『……マオ様! 兵庫の香住風エリアで密漁団をボコボコにしたせいで、市場のカニの流通価格が乱高下して、経済局がパニックになっているんですが!? しかも通信の魔力波形からして、今度は福井ですか!? お願いですから、これ以上面倒事を……あぁっ、私の胃壁が日本海の荒波に削られる岩肌のように……!』
「あ、ごめん! ちょっと波の音がデカくて電波が……ザザッ」
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】
はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、ざぱぁぁん! という見事な日本海の波音にかき消されていきました。
……さて。そんなマオたちの様子を、切り立った岩場の上からジッと見つめる一つの影がありました。
『……獣王様。対象は今日も、カツ丼とそばのことしか考えてねぇだじゃ。わ、日本海側の風が強すぎて、岩から落ちそうだべさ……』
監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。 すっかりおリンの「お風呂仲間」として強制連行される日々が定着してしまった彼女だが、やはり密偵としての意地を見せ、なんとか単独での尾行を試みていた。
***
気を取り直して、ソースカツ丼を求めて街へ入ったマオたちだったが、街の様子が尋常ではない。
人々が悲鳴を上げて逃げ惑い、遠くの発掘現場の方から『ズシン、ズシン』という巨大な地響きが聞こえてくるのだ。
「なんや、えらい騒ぎやな。どないしたん?」
マオが逃げてきた発掘作業員に尋ねると、作業員は青ざめた顔で教えてくれた。
「に、逃げろ! 発掘現場の奥から、『死霊術師』を名乗る過激派の連中が現れて、発掘したばかりの『恐竜の化石』をアンデッドとして蘇らせやがったんだ! このままじゃ、街が骨だらけの化石モンスターに踏み潰されちまう!」
「なんやて? 化石をアンデッドにやと?」
「あぁ。連中、古代の恐竜の力で軍隊を作って、人間領へ攻め込むつもりらしい! 止めようとした作業員たちは、みんな人質にされて絶壁のほうへ……!」
その言葉を聞いた瞬間、マオの目の色が変わった。
「……なるほどな。古代のロマンを冒涜し、あまつさえ罪なき領民を人質に取って戦争の道具にするなど。……万死に値するやろ!」
マオがピキィッ……と怒りのオーラを立ち昇らせたその時。
懐の通信魔導具が、ブルブルと震えた。
「おっ、おリンか?」
マオが通話ボタンを押すと。
『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』
『わあぁぁっ!? なしてわだば、こんな波打ち際の岩風呂さ入れられてんだべ! 波かぶってしょっぱいべさ! 寒いべ!』
ざぱぁぁん!! という激しい波音と共に、おリンの艶っぽい声と、岩場にいたはずのシノブのパニック気味な悲鳴が響いた。
「……お前ら、今回はどんな過酷な風呂に入っとんねん。ていうかシノブ、また合流早かったな」
『よかたい。発掘現場の裏手の海岸に、荒波が打ち寄せる『越前風・波打ち際露天風呂』があったけんね。お湯は温かいけど、たまに日本海の冷たい波がザバッと入ってくるスリルが最高ばい。野良猫ちゃんは岩場から風で落ちてきたとこをキャッチしたとよ』
日本海の荒波がすぐ横で砕け散るワイルドな天然露天風呂で、おリンは豊かなプロポーションを輝かせ、波をかぶって涙目になっているシノブの頭に手ぬぐいを乗せてあげていた。
『死霊術師の幹部しゃんたちは、発掘現場のテントで私が色仕掛けでお酒飲ませて、爆睡させとるよ。裏帳簿によると、やっぱりこの化石軍団の計画も、あの過激派のザウードが裏で糸引いとるみたいやね』
「ザウード……! またあいつか」
マオの目が、スッと細くなる。
その時、通信越しにジョンののんびりした声が割り込んできた。
『マオにぃにぃ。僕も別行動で、化石を操ってる魔導具の設計図と、人質のいる絶壁へのルートを確保しておいたさー。いつでもいけるさー』
「おっしゃ、でかした。……ほな、ゴーン、シーア。恐竜の眠りを妨げるおこがましい悪党どもに、ちょっとキツめのお仕置きが必要なんとちゃうか?」
「……承知したごわす! マオ殿、今日も完璧なフォーメーションでいくごわすよ!」
***
マオたちが発掘現場へ駆けつけると、そこには骨だけの姿となった巨大なティラノサウルス風のアンデッドが数体、街へ向かって進軍を始めようとしていた。
その足元で、死霊術師の親玉がゲラゲラと下品な笑い声を上げている。
「ヒャーッハッハ! 行けぇ! 我らが化石軍団よ! このまま街を踏み潰し、人間領まで進軍するんじゃ!」
「おいコラ。他人の街で勝手にジュラシックなパニック起こしとんちゃうぞ」
土煙を上げて、マオたち三人が立ち塞がる。
「あん? なんじゃお前らは。たった三人でこの無敵の化石軍団を止めようっちゅうんか? 骨の髄までしゃぶってやるわ! やれぇ!」
親玉の号令で、巨大な骨の恐竜たちが一斉に咆哮を上げ、襲いかかってきた。
「やれやれ……化石は博物館で大人しゅう見られるのが一番どすえ。お静まりやす!」
シーアが扇子を振るうと、桁外れの重圧魔法が空間を歪め、巨大な骨恐竜たちの動きがピタリと止まる。
「チェストォォォ!!」
そこへ、ゴーンの豪快な金棒が一閃。
重圧で動けない恐竜の骨組みを、まるで積み木を崩すように粉々に粉砕してしまった。
「な、なんじゃとォ!? ワシの無敵の化石軍団が一撃で……!?」
親玉が驚愕して後ずさる。
「マオ殿! 雑魚は片付けたごわす! アイツを……」
ゴーンが親玉に向かって踏み込もうとした、その時。
親玉は懐から、発掘作業員の一人を縛り上げたロープを取り出し、ニヤリと卑劣な笑みを浮かべた。
「ひ、ヒィィッ! 近づくな! この先にある東尋坊風の『断崖絶壁』には、こいつの仲間が人質としてズラリと並べられとるんじゃ! ワシが少しでも合図を出せば、部下たちが人質を日本海の荒波へ突き落とすぞ!」
「なんやて……! 卑怯な真似を!」
マオがギリッと歯を食いしばる。
「ヒャーッハッハ! 悔しかったら追ってこい! 断崖絶壁で、お前らも海の藻屑にしてやるわ!」
親玉はそう叫ぶと、人質を引きずりながら、ざぱぁぁん!と不吉な波音が響く断崖絶壁の方へと全速力で逃げていった。
「マオにぃにぃ! 人質が危ないさー!」
影から現れたジョンが焦った声を上げる。
「チィッ……待てコラ逃げるな! 野郎ども、絶壁まで追うで!」
【ナレーション】
卑劣な死霊術師を追い、日本海の荒波が砕け散る『東尋坊風・断崖絶壁』へと向かうマオ一行。
そこには、まるで『火曜サ〇ペンス』のような、ドラマチックすぎる決戦の舞台が整えられておりました。
次号、怒涛の解決編(と、熱すぎる説教)をお楽しみに!




