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第25話:兵庫風エリア(日本海側)とカニ密漁

【ナレーション】

皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。

鳥取風エリアの巨大砂丘で、勇者アレンたちと共にオアシスの水を独占する悪党を成敗したマオ一行。

彼らは山陰の海岸線をさらに東へと進み、風情ある温泉地と日本海の冬の味覚で知られる『兵庫風エリア(日本海側)』へとやってまいりました。


***


「いやー、日本海の潮風がたまらんな! 兵庫の日本海側言うたら、なんちゅうても極上の『松葉風魔ガニ』や! 昼飯は絶対に、焼きガニ、カニ刺し、カニ味噌のフルコースやで!」


潮風に吹かれながら、マオが頭のゴム角を揺らしてよだれを拭っている。


「マオ殿。いくら高級なカニだからといって、食べすぎるとプリン体の摂りすぎで痛風になるごわす。野菜も一緒に食べるごわすよ」


相変わらず健康管理に厳しいゴーン(薩摩弁)の横で、シーア(京都弁)は完全に別のものに目を奪われていた。


「おお……あちらに見えるは、老舗旅館の縁側で宿泊客のためにカニを剥いておられる若女将さんたち! 繊細な指先の動きと、和服の襟足から覗く白いうなじ……! カニの殻を割る時の真剣な眼差し! あわよくば、私がカニの殻に指を挟まれたふりをして、優しく手当てを……じゅるり」


シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。


「お前、カニ剥いてる女将さんでそこまで妄想広げられるんか。ある意味才能やな」


マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。


ビロロロロ! ビロロロロ!


「……またか。せっかくのカニへの期待感が台無しやで」


マオが嫌そうな顔で路地裏に入り、通信ボタンを押すと。


『ボリッ、バキッ、ボリボリボリッ……!!』


「……ベルゼ。お前、ついに胃薬をカニの甲羅ごと噛み砕いとるみたいな音になっとるぞ」


『……マオ様! 鳥取のオアシス解放は結構ですが、勇者一行と一緒になって大立ち回りを演じたという報告書が上がってきているんですが!? 勇者と魔王が砂漠で共闘なんて、他種族にバレたら条約の解釈で大問題になります! しかも今度は兵庫の日本海側!? 頼むから、カニ食って大人しくしててくださ……あぁっ、私の胃壁がカニのハサミで切り刻まれるように……!』


「あ、ごめん! ちょっとカニを焼くパチパチって音で電波が……ザザッ」


マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。


【ナレーション】

はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、日本海の荒波へと消えていきました。


……さて。そんなマオたちの様子を、旅館の屋根の上からジッと見つめる一つの影がありました。


『……獣王様。対象は今日も、カニのことしか考えてねぇだじゃ。わ、日本海側の冷たい風が骨身に沁みるべさ……』


監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。

南国から一転、肌寒い海風に吹かれながら、彼女は深いため息をついていた。


***


気を取り直して、極上のカニを求めて港町へ入ったマオたちだったが、街の様子がおかしい。

旅館の生簀(いけす)は空っぽで、漁師たちや女将さんたちも暗い顔をしてうつむいているのだ。


「なんや、活気がないなぁ。どないしたん?」


マオが近くの女将さんに尋ねると、女将さんは小声で教えてくれた。


「それが……最近この港に居座り始めた『海坊主一家』ってならず者の密漁団が、海のカニを根こそぎ獲り尽くしとるんよ。うちらが抗議しても、暴力で脅されて……」


「なんやて? カニを密漁やと?」


「あぁ。しかも連中、獲ったカニを市場には下ろさず、全部裏の闇ルートで法外な値段で売り捌いとるらしいんよ。逆らう漁師は船を沈められて……このままじゃ、街が干上がってしまうわ」


その言葉を聞いた瞬間、マオの目の色が変わった。


「……なるほどな。領民の生活の糧である海産物を独占し、あまつさえカニを楽しみにしとる観光客の笑顔を奪うとは。……万死に値するやろ!」


マオがピキィッ……と怒りのオーラを立ち昇らせたその時。

懐の通信魔導具が、ブルブルと震えた。


「おっ、おリンか?」


マオが通話ボタンを押すと。


『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』

『わあぁぁっ!? なしてわだば、こんなカニの匂いがプンプンするお湯さ入れられてんだべ! わだすが出汁になっちまうべさ!』


ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブのパニック気味な悲鳴が響いた。


「……お前ら、今回はどんな奇抜な風呂に入っとんねん。ていうかシノブ、また捕まったんか」


『よかたい。密漁団のアジトの裏庭に、何かの儀式にでも使うつもりやったのか『超巨大な魔ガニの甲羅』があったけんね。下から火を焚いてお湯を張ったら、極上の『カニ甲羅風呂』になったばい。お肌にミネラルが浸透して最高っちゃん。野良猫ちゃんは屋根の上で震えとったけん、捕獲して一緒に温めてあげよると』


巨大な赤いカニの甲羅をそのまま使った野趣あふれる露天風呂で、おリンは豊かなプロポーションを伸ばし、出汁になる恐怖に怯えるシノブの頭に手ぬぐいを乗せてあげていた。


『一家の親分しゃんは、私が色仕掛けで熱燗ば飲ませて、奥の宴会場で爆睡しとるよ。裏帳簿によると、このカニの密漁で稼いだ金は、やっぱりあの過激派のザウードに軍資金として送られとるみたいやね』


「ザウード……またあいつか。どこにでも湧いて出よるな」


マオの目が、スッと細くなる。

その時、通信越しにジョンののんびりした声が割り込んできた。


『マオにぃにぃ。僕も別行動で裏の冷凍倉庫の鍵を開けて、密漁されたカニの在庫を全部確保しておいたさー。いつでも突入できるさー』


「おっしゃ、でかした。……ほな、ゴーン、シーア。カニを独り占めする悪党どもに、ちょっとキツめのお仕置きが必要なんとちゃうか?」


「……承知したごわす!」


***


密漁団のアジト、海に面した巨大な宴会場。

目を覚ました親分(筋骨隆々の水棲魔族)が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。


「な、なんじゃ貴様ら! どこから入り込みやがった!」


宴会場には、親分と、雇われた完全武装の密漁団員たちがずらりと並んでいる。

その正面には、マオたち三人が静かな怒りのオーラを燃やして立ち塞がっていた。


親分が太い腕を振り下ろす。

「ええい、何者か知らんが海に沈めてカニの餌にしてしまえ! やれ!」


団員たちが一斉に武器を構えて迫る。

その時、マオが手にした扇子をパチンと閉じた。


「……もうええやろ。ゴーン、シーア、懲らしめてやりなさい!」


それは、某・〇戸〇門のご隠居ばりの、落ち着き払った威厳あるトーンだった。

その命令に対し、ゴーンとシーアが一歩下がり、完璧なシンクロで片膝をつく。


「「ははっ!」」


『わ、セリフと演出が増えとるだべ! 時代劇ごっこがさらにエスカレートしてるべさ!』

カニ甲羅風呂から上がって天井裏に潜んでいたシノブが、思わず心の中でツッコミを入れる。


「峰打ちにごわす!」

「成敗どすえ!」


ゴーンとシーアが飛び出し、襲いかかってきた団員たちを次々と吹き飛ばしていく。

ゴーンの豪快な金棒が旋風を巻き起こし、シーアの重圧魔法が敵を床に這いつくばらせる。


「ひぃぃっ! な、なんじゃこいつら!」

親分が慌てふためき、後ずさりしたその時。


「ええい、静まれ静まれぇい! 頭が高いどすえ!」


シーアが凛とした声で一喝し、流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を天高く突き出した。


「こちらにおわす御方をどなたと心得る! 恐れ多くも魔王様の御前どすえ! ひれ伏しやす!」


圧倒的な魔力の波動が宴会場を包み込む。

マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。


「……余の顔を見忘れたか?」


しんと、静まり返る宴会場。

シノブは『わ、このコテコテなテンプレ口上……でも悔しいけど完成度高いべ』と、様式美の進化に見惚れていた。


親分は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。


「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな日本海の港町に……!」


だが、次の瞬間。

親分の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。


「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」


『よっしゃ! 完璧なテンプレ開き直り! これを聞かなきゃカニは食えんわ!』


「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様と共に、カニの売上金で人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ここで消し去ってやるわ! 出会えぇぇええ!!」


親分の号令で、残っていた精鋭の団員たちが一斉に襲いかかってくる。


「兵庫のカニを独り占めするな、さー!!」


突風と土煙の混乱に紛れ、足音ひとつ立てずに死角を駆け抜けたジョンが、いつの間にか親分の背後へと回り込んでいた。

ジョンが持っていた冷凍用の網で親分を簀巻きにすると、親分は情けない悲鳴を上げて床に転がった。


「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」


『わあぁぁっ!? なしてわだばバスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ! 体からカニの匂いが取れねぇだべさ!』


おリンに背中を押される形で天井裏から飛び出したシノブ。

文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りの手下たちを次々と昏倒させていく。


「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」


完全に無力化され、簀巻きになって震え上がる親分。

マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。


「言語道断である。海の恵みを不当に独占し、領民の生活を脅かして己の野望の道具にするなど……万死に値する!」


***


事件解決後。

密漁されたカニは無事に適正価格で市場に解放され、港町には再び活気が戻っていた。

マオたちは女将さんや漁師たちから大いに感謝され、念願だった『松葉風魔ガニのフルコース』を満喫していた。


「いやー! 焼きガニの香ばしさと、甘くてとろけるカニ刺し! そして濃厚なカニ味噌! 冬の日本海は最高やな!」

「マオ殿、ご飯お代わりごわす!」

「僕もカニ味噌のお代わりさー」


大満足で舌鼓を打つマオ、ゴーン、ジョン。

その横で、シーアはまだカニを剥いてくれる若女将の方から目を離さずにいた。


「ええどすなぁ……あの器用な指先……じゅるり」


そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてバスタオル姿で戦わされたシノブが、カニの爪をしゃぶりながらため息をついていた。


『わ、カニの甲羅さ入れられて出汁にされかけて……ほんと、割に合わない任務だべさ……でも、このカニはなまら甘くて美味いべ……』


【ナレーション】

こうして、兵庫風エリアの平和と極上のカニは守られました。

ザウードの資金源をまた一つ潰したマオたち。彼らの気まぐれな世直し道中は、山陰の海岸線をさらに東、断崖絶壁で有名な『福井風エリア』へと向かいます!

さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!

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