第24話:鳥取風エリアと砂丘の遭難(勇者遭遇)
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
島根風エリアにて、過激派貴族たちの密会を完璧な様式美でぶっ潰したマオ一行。彼らは山陰地方をさらに東へと進み、見渡す限りの広大な砂の海、『鳥取風エリア』の巨大砂丘へとやってまいりました。
***
「いやー、すっごい砂浜やな! 海はないけど、見渡す限り砂・砂・砂や! 鳥取言うたら、みずみずしい『二十世紀梨(魔梨)』と、とろけるような『鳥取和牛(魔牛)』や! 昼飯は絶対に、梨をデザートにした焼肉定食やで!」
照りつける太陽の下、マオが足元の砂に足を取られながらも上機嫌で歩いている。
「マオ殿。砂丘を歩く時は、無駄な動きをせずにすり足で進まないと、体力を激しく消耗するごわすよ。水分補給も忘れてはいかんごわす」
相変わらずの健康管理オカン属性を発揮するゴーン(薩摩弁)の横で、シーア(京都弁)は完全に別のものに目を奪われていた。
「おお……あちらに見えるは、砂丘の観光客をもてなすベリーダンサー風の衣装をまとった娘さんたち! 強い日差しに煌めく汗と、大胆に露出したお腹のくびれ……! あわよくば、私が熱中症で倒れたふりをして、あの薄いベールで優しく看病を……じゅるり」
シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。
「お前、砂漠に来てまで煩悩全開やな。干からびるでほんまに」
マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……またか。せっかくの砂丘の乾いた風情が台無しやで」
マオが嫌そうな顔で、近くの岩陰に入り通信ボタンを押すと。
『ボリッ、ガリガリッ、ボリボリボリッ……!!』
「……ベルゼ。お前、ついに胃薬を砂と一緒に噛み砕いとるみたいな音になっとるぞ」
『……マオ様! 島根で過激派の貴族たちを一網打尽にしていただいたのは結構ですが、彼らの領地の事後処理や権利関係の再分配で、私のデスクが砂山のようになっているんですが!? しかも、通信の魔力波形からして今度は鳥取の砂丘ですか!? 開けた場所は通信の魔力消費が激しいんです! お願いですから、これ以上面倒事を……あぁっ、私の胃壁が砂漠のように干からびて……!』
「あ、ごめん! ちょっと砂嵐で電波が……ザザッ」
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】
はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、果てしなく広がる砂丘の彼方へと消えていきました。
……さて。気を取り直して、オアシスがあるという集落へ向かって歩き出したマオたちだったが、砂丘の真ん中で、ピクピクと動く二つの奇妙な物体を見つけた。
ゴム製のチープな角を頭につけ、顔を紫色の塗料で雑に塗っただけの、不審な二人組。
「てやんでえ……水……水をくれぇ……カラカラだぜ……」
「アレン……でら暑いがね……もう、干からびるわ……」
砂まみれになって倒れていたのは、勇者アレン(江戸っ子弁)と、聖騎士セリア(名古屋弁)だった。
「なんや、アレンザの兄ちゃんらやないか! 長崎の出島ぶりやな!」
マオが声をかけて水筒の水を分けてやると、二人はむせながらもパァッと顔を輝かせた。
「ぷはぁっ! 助かったぜマオの旦那! まさかこんな砂漠のど真ん中で会うたぁ、奇遇だねえ!」
「いや、俺らは観光やけど。兄ちゃんら、なんでこんな所で遭難しとるん?」
マオが尋ねると、アレンは忌々しそうに砂を叩きながら言った。
「聞いてくれよ! 俺たちの愛するウサギチームが、山陰地方の球場で地方遠征試合をやるって聞いて、追っかけてきたんだ。そしたらこの先の『オアシス村』で、極悪な悪徳商人に引っかかっちまってよ!」
セリアが呆れ顔で腰に手を当てる。
「でら腹立つわ! オアシスの水場がそいつらに独占されてて、コップ一杯の水に『定価の百倍』の値段を吹っかけてきたんだわ! 払えないって言ったら、用心棒どもに砂漠へ放り出されたんだがね!」
『……なるほどな。砂丘の命綱である水を独占して、暴利を貪っとるんか』
マオの目が、スッと細くなる。
その時、懐の通信魔導具がブルブルと震えた。
「おっ、おリンか?」
マオが通話ボタンを押すと。
『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』
『わあぁぁっ!? なしてわだば、こんな冷たい水風呂さ入れられてんだべ! 頭の毛の奥まで砂が入って、洗うのが大変だべさ!』
ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声と、すっかり定番となったシノブの文句が響いた。
「……お前ら、今回はどんな風呂入っとんねん。砂漠やぞ」
『よかたい。悪徳商人が占拠しとるオアシス村の地下に、ひんやり冷たい『天然の湧き水地底湖』があったけんね。お湯やなくて水風呂やけど、砂漠の暑い日差しの後やけん、最高に気持ちよかばい。野良猫ちゃんは、耳に砂が入ったって泣いとるけど』
地下の神秘的な湧き水風呂で、おリンは豊かなプロポーションを冷たい水に沈め、砂まみれのシノブの頭を丁寧に洗ってあげていた。
『商人しゃんは、私が色仕掛けでお酒飲ませて、奥の天幕で爆睡しとるよ。裏帳簿によると、この水商売で稼いだ金は、やっぱりあの過激派のザウードに軍資金として送られとるみたいやね』
「ザウード……こんな砂漠のオアシスまでアイツの資金源か。ジョンはどうや?」
『マオにぃにぃ。僕も別行動で裏の金庫に忍び込んで、アレンザさんたちがぼったくられたお金と、水の管理室の鍵を確保しておいたさー。いつでも突入できるさー』
ジョンののんびりした報告を聞き、マオは口角を上げた。
「アレンザの兄ちゃん。金を取り返すついでに、ちょっとオアシスの大掃除でもせんか?」
「へっ! 言われなくとも、そのつもりだったぜ! いっちょ暴れようぜ!」
***
オアシス村の最奥、悪徳商人の巨大な天幕。
目を覚ました商人が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「な、なんじゃ貴様ら! どこから入り込みやがった!」
天幕の中には、商人と、雇われた完全武装の私兵(用心棒)たちがずらりと並んでいる。
その正面には、マオたち三人と、嬉々として拳を鳴らす勇者ペアが立ち塞がっていた。
「マオ殿。今日も完璧に決めるごわす!」
ゴーンが一歩前へ出て、商人をビシッと指差した。
「こ、この御方を……どなたと心得る!!」
『よっしゃ!! 「ごわす」抜き完璧や! もう親父の前以外なら絶対に噛まんようになったな!』
マオが内心で絶賛するのと同時に、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。
「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」
圧倒的な魔力の波動が天幕を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返る天幕。
湧き水風呂から上がって大きなバスタオルに包まっていた監視役のシノブも、『わ、今日もきっちりこの茶番劇だべ……』と、水滴を滴らせながらその完成度に見惚れていた。
商人は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな鳥取の砂丘に……!」
だが、次の瞬間。
商人の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。
「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」
『よっしゃ! 完璧な開き直り! 砂漠でもテンプレは健在や!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様と共に、集めた金で人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ここで消し去って、砂丘の肥やしにしてやるわ! 出会えぇぇええ!!」
商人の号令で、用心棒たちが一斉に襲いかかってくる。
「てやんでえ! 旅人の喉の渇きを、テメエらの薄汚い野望の道具にするんじゃねえ!」
アレンが嬉々として先陣を切り、ステゴロで屈強な用心棒を次々と吹き飛ばしていく。
セリアも「でら迷惑な連中だわ!」と華麗な蹴りを放つ。
「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」
「チェストォォォ!!」
シーアの重圧魔法が私兵たちを砂に叩きつけ、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて天幕の布ごと吹き飛ばす。
「オアシスのお水を独り占めするな、さー!!」
ゴーンの巻き起こした砂埃の混乱に紛れ、足音ひとつ立てずに死角を駆け抜けたジョンが、いつの間にか商人の背後へと回り込み、持っていた水筒で後頭部を強打する。
「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」
『わあぁぁっ!? なしてわだばバスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ! 砂がくっついてジャリジャリするだべさ!』
おリンに背中を押される形で飛び出したシノブ。
文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りの手下たちを次々と昏倒させていく。
「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」
完全に無力化され、震え上がる商人。
マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。
「言語道断である。砂漠の命綱である水を独占し、あまつさえ罪なき旅人を己の野望の犠牲にしようとするなど……万死に値する!」
***
事件解決後。
オアシスの水は適正な価格(ほぼ無料)で旅人たちに解放され、アレンたちも無事にお金を取り戻した。
マオたちは涼しいオアシスの木陰で、念願だった『鳥取和牛の焼肉定食』と、デザートの『二十世紀梨』を満喫していた。
「いやー! 和牛の脂が甘くて口の中でとろけるな! 食後の梨も、みずみずしくて砂漠の体に染み渡るわ!」
「マオ殿、ご飯お代わりごわす!」
「へっ! マオの旦那、今日もありがとよ! これで無事にウサギチームの応援に行けるぜ!」
大満足で舌鼓を打つマオとゴーン、そして嬉しそうに梨をかじるアレン。
その横で、シーアはまだベリーダンサーの衣装を着た娘たちの方から目を離さずにいた。
「ええどすなぁ……あのくびれと日焼けした肌……じゅるり」
そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてバスタオル姿で戦わされたシノブが、砂まみれの足を拭きながらため息をついていた。
『わ、せっかく水風呂さ入って綺麗になったのに、また砂まみれだべ……でも、この梨はなまら甘くて美味いべ……』
【ナレーション】
こうして、鳥取風エリアのオアシスの平和は守られました。
ザウードの資金源をまた一つ潰したマオたち。彼らの気まぐれな世直し道中は、山陰地方をさらに東へと進み、カニで有名な『兵庫(日本海側)』へと向かいます!
さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!




