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第22話:島根への日本海航路と幽霊船

【ナレーション】

皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。

長かった九州・沖縄のアイランドホッピングを終え、マオ一行はついに本州へと向かう客船に乗船いたしました。

九州の北の港から、日本海を渡って『島根風エリア』へと向かう海路。雄大な日本海の荒波が、彼らを歓迎しているようです。


***


「いやー! 潮風が冷たくなってきたな! これぞ日本海や! 島根に着いたら絶対に、脂の乗った『のどぐろの塩焼き』と、濃厚な『カニ汁』を腹一杯食うで!」


揺れる客船の甲板で、マオが日本海に向かって大きく深呼吸をしている。


「マオ殿。船の甲板で身を乗り出すと、波にさらわれて海に落ちるごわすよ。手すりから離れるごわす」


相変わらずのオカンぶりを発揮するゴーン(薩摩弁)の横で、シーア(京都弁)は完全に別のものに目を奪われていた。


「おお……あちらに見えるは、船の揺れでほんのり顔を赤らめ、船酔いに耐える女性客たち……! 普段のしっかりした姿とは違う、あの儚げな表情と、手すりを握る白い指先! あわよくば、私が介抱するふりをして船室のベッドへ……じゅるり」


シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。


「お前、船酔いしてる人見ても発情するんか。ほんま守備範囲広すぎやろ」


マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。


ビロロロロ! ビロロロロ!


「……またか。せっかくの日本海の波音が台無しやで」


マオが嫌そうな顔で甲板の陰に入り、通信ボタンを押すと。


『ボリッ、ボリボリボリッ……!』


「……ベルゼ。お前、福岡の件からずっと胃薬噛みっ放しなんとちゃうか」


『……マオ様! 福岡の巨大ギルドを丸ごと解体したせいで、九州の裏社会の事後処理が全部こっちに回ってきているんですが!? しかも、通信の魔力波形からして、今度は日本海の上ですね!? お願いですから、船を沈めたりするような真似だけは……あぁっ、私の胃壁が荒波のように……!』


「あ、ごめん! ちょっとカモメの鳴き声がうるさくて、電波が……ザザッ」


マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。


【ナレーション】

はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、日本海の荒波へと消えていきました。


……さて。そんなマオたちの様子を、船の最も高いマストの上からジッと見つめる一つの影がありました。


『……獣王様。対象は今日も、カニのことしか考えてねぇだじゃ。わ、船が揺れてなまら気持ち悪いべさ……なしてこんな高いとこさ隠れなきゃなんねぇんだべ……』


監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。

三半規管は強いはずの彼女だが、日本海の容赦ない荒波にすっかり船酔いし、顔を青くしてマストにしがみついていた。


***


客船が航路の半ばに差し掛かった頃。

急に周囲の空気が冷たくなり、海上に不気味な濃霧が立ち込めた。


「なんや、急に霧が出てきたな」


マオが訝しげに海面を見つめていると、霧の奥から巨大な黒い影が姿を現した。

ボロボロの帆を張り、船体に無数のフジツボをつけた巨大な帆船――『幽霊船』である。


「ヒィィッ! ゆ、幽霊船だぁぁ!」

「助けてくれぇ!」


客船の乗客たちがパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う。

幽霊船が客船に横付けされると、骸骨や半透明の亡霊の姿をした海賊たちが、次々と甲板に乗り移ってきた。


「ゲハハハ! この船の積み荷と命は、我ら『日本海海賊団の亡霊』がいただく!」


亡霊の部隊長が、錆びた剣を振り上げて高笑いする。


「なんや、せっかくの船旅の邪魔しやがって。のどぐろ食う予定が台無しやないか」


マオが舌打ちをした、その時。

懐の通信魔導具が、ブルブルと震えた。


「おっ、おリンか?」


マオが通話ボタンを押すと。


『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』

『わあぁぁっ!? なしてわだば、幽霊船の樽の中さ入れられてんだべ! 水が冷てぇべさ!』


ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブのパニック気味な悲鳴が響いた。


「……お前ら、いつの間に幽霊船に乗り移っとったんや。しかも今回はどんな風呂やねん」


『よかたい。霧が出た瞬間に、ジョンと二人で先にこっちへ潜入しとったとよ。船長室に立派な『オーク材のワイン樽』があったけんね。海水を沸かして入ってみたら、潮の香りと木の香りが混ざって最高ばい。野良猫ちゃんはマストで吐きそうになっとったけん、捕獲して一緒に洗ってあげよると』


不気味な幽霊船の船長室。その片隅に置かれた巨大なワイン樽の即席風呂で、おリンは豊かなプロポーションを輝かせ、青ざめた顔のシノブの頭に手ぬぐいを乗せてあげていた。


『船長しゃんは、私が色仕掛けでお供え物の御神酒ば飲ませて、奥のハンモックで爆睡しとるよ。航海日誌によると……あの過激派のザウードが死霊術師ば雇って、この幽霊船を操って密貿易の船を襲わせとるみたいやね。奪った積み荷はザウードの資金になっとるたい』


「ザウード……! 海の上まであいつの息がかかっとるんか」


マオの目が、スッと細くなる。

その時、通信越しにジョンののんびりした声が割り込んできた。


『マオにぃにぃ。僕も別行動で、幽霊船の宝物庫の鍵を開けといたさー。奪われた荷物は全部無事さー』


「おっしゃ、でかした。……ほな、ゴーン、シーア。客船に乗ってきた下っ端の亡霊どもはほっといて、直接、幽霊船の親玉のところにカチコミや!」


***


幽霊船の船長室。

目を覚ました亡霊船長(半透明の巨大な海賊)が、顔を真っ赤にして(※半透明ですが)怒鳴り散らしていた。


「な、なんじゃ貴様らは! どこから入り込みやがった!」


部屋には、亡霊船長と、完全武装した亡霊海賊たちがずらりと並んでいる。

その正面には、マオたち三人が悠然と立ち塞がっていた。


「マオ殿。今日のタメも完璧にいくごわす!」

「ええ、私の印籠の角度も計算し尽くされてますえ」


ゴーンとシーアが目配せをする。

マオが扇子をパチンと鳴らして一歩下がると、ゴーンが前へ出て、亡霊船長をビシッと指差した。


「こ、この御方を……どなたと心得る!!」


『よっしゃ!! 語尾の「ごわす」抜き、完璧や!』


マオが内心で大絶賛するのと同時に、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。


「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」


圧倒的な魔力の波動が船長室を包み込む。

マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。


「……余の顔を見忘れたか?」


しんと、静まり返る船長室。

樽風呂から上がってバスタオルに包まっていたシノブも、『わ、相手が幽霊でもきっちりこの茶番劇やるだべか……』と、そのブレなさ加減に感心している。


亡霊船長は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。


「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんで魔王様がこんな日本海の幽霊船に……!」


だが、次の瞬間。

亡霊船長の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。


「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」


『よっしゃ! 亡霊相手でも完璧なテンプレ開き直り! これを聞かなきゃ始まらんわ!』


「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様に雇われた亡霊! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! 海の藻屑にしてやるわ! 出会えぇぇええ!!」


亡霊船長の号令で、海賊たちが一斉に襲いかかってくる。


「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……浄化しやす」

「チェストォォォ!!」


シーアの重圧と浄化を織り交ぜた魔法が亡霊たちを床に縫い付け、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて甲板まで吹き飛ばす。


「死んだ後まで悪いことするな、さー!!」


ゴーンが巻き起こした突風に紛れ、影から影へと駆け抜けたジョンが、いつの間にか亡霊船長の背後へと回り込み、魔力を込めた短剣の柄で後頭部を強打する。


「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」


『わあぁぁっ!? なしてわだばバスタオルのまま、幽霊相手に戦わなきゃなんねぇんだべ!』


おリンに背中を押される形で飛び出したシノブ。

文句を言いながらも、魔力を込めた『津軽流・猫だまし』の物理格闘術(なぜか幽霊にも当たる)で、残りの手下たちを次々と昏倒(?)させていく。


「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」


完全に無力化され、震え上がる亡霊船長。

マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。


「言語道断である。死してなお海を荒らし、人々の命を脅かし、あまつさえ己の野望の道具とするなど……万死に値する!」


「いや、ワシらもう死んどるがな!」


亡霊船長の悲痛なツッコミを最後に、シーアの浄化魔法が広がり、幽霊船と海賊たちは光の粒子となって海へと消えていった。


***


事件解決後。

霧は晴れ、客船は無事に本州の『島根風エリア』の港へと到着した。

マオたちは乗客や船長から大いに感謝され、念願だった『のどぐろの塩焼き』と『カニ汁』を満喫していた。


「いやー! のどぐろは脂が乗ってて口の中でとろけるし、カニの出汁が効いた味噌汁も最高やな!」

「マオ殿、ご飯お代わりごわす!」

「僕もカニいっぱい食べるさー」


大満足で舌鼓を打つマオ、ゴーン、ジョン。

その横で、シーアはまだ海の方を向いてため息をついていた。


「ええどすなぁ……あの幽霊船におった、透き通るような肌の美女の幽霊……あわよくばお持ち帰りしたかった……じゅるり」


そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてバスタオル姿で幽霊と戦わされたシノブが、カニ汁をすすりながらため息をついていた。


『わ、幽霊船さ連れ込まれて、バスタオルのまま戦わされて……ほんと、割に合わない任務だべさ……でも、このカニ汁はなまら美味いべ』


【ナレーション】

こうして、日本海の航路の平和は守られました。

過激派ザウードの資金源をまた一つ潰したマオたち。本州・山陰地方へと上陸した彼らの気まぐれな世直し道中は、さらに続いていきます!

さて、次はどんな悪党(とご当地グルメ)が待ち受けているのやら!

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