第21話:福岡風エリアと博多屋台の陰謀(後編)
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【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
福岡の夜、屋台の活気を脅かし、あろうことか過激派ザウードの資金源となっていた『黒竜ギルド』。そしてその頭目は、おリンのかつての暗殺の師匠でした。
もつ鍋風呂で包囲され、絶体絶命のおリンとシノブ。そこへ、怒りに燃えるマオたちがついにカチコミをかけます!
***
「さあ、大人しく投降せんね、おリン。時代は過激派のザウード様たい。お前もこっちに戻ってきて、ワシらと一緒に魔族の天下を……」
「……断るばい」
黒竜ギルドの幹部屋敷、巨大なもつ鍋風呂のある大広間。
数十人のギルド員に包囲されながらも、おリンはにんにくの浮いたお湯の中で、冷たい暗殺者の目を師匠に向けていた。
「私はもう、マオしゃんの『家族』やけん。あんたたちみたいに腐った連中の下で働く気はなか」
「そうか。ならば仕方なかね……。裏切り者はここで死ね!」
師匠が冷酷に手を振り下ろし、ギルド員たちが一斉に武器を構えた、その瞬間。
ドゴォォォォォン!!!
大広間の分厚い壁が、凄まじい轟音と共に木っ端微塵に吹き飛んだ。
「……俺の大事な家族に、ずいぶん薄情なこと言うやないか」
もうもうと立ち込める砂埃の中から。
ジョンを先頭に、マオ、ゴーン、シーアの三人が、静かな、しかし尋常ではない怒りのオーラを纏って姿を現した。
「な、なんや貴様ら! どこから入り込みやがった!」
驚愕する師匠とギルド員たち。
「マオ殿。今日のタメは完璧にいくごわす!」
「ええ、私の印籠も、ミリ単位で角度を調整済みどすえ」
ゴーンが一歩前へ出て、師匠をビシッと指差す。
「この御方を……どなたと心得るごわす!!」
『よっしゃ!! 「ごわす」は付いとるけど、気迫は完璧や!』
マオが内心で絶賛するのと同時に、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。
「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」
圧倒的な魔力の波動が大広間を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返る大広間。
もつ鍋風呂の中で身を寄せ合っていたシノブも、『わ、この絶対絶命のピンチでもきっちりこの茶番劇やるだべか……』と、一周回ってその執念に感心している。
師匠は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな歓楽街のギルドに……!」
だが、次の瞬間。
師匠の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。
「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」
『よっしゃ! 完璧なテンプレ開き直り! これを聞かなきゃ福岡の夜は終わらんわ!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様と共に、集めたみかじめ料で武器を買い、人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ここでもつ鍋の具にしてやるばい! 出会えぇぇええ!!」
師匠の号令で、ギルド員たちが一斉に襲いかかってくる。
「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」
「チェストォォォ!!」
シーアの重圧魔法がギルド員たちを床に叩きつけ、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて吹き飛ばす。
ジョンも影から影へと駆け抜け、的確に敵の急所を突いていく。
そして、混乱の最中。
おリンが湯船からふわりと飛び出し、空中で濡れた服を絞りながら、一直線に師匠の元へと向かった。
「……久しぶりの手合わせたいね、師匠」
「舐めるな小娘がぁ!!」
師匠が二刀流の短剣を猛スピードで振るう。
かつてはおリンが手も足も出なかった、凄まじい暗殺術の連撃。
しかし――おリンはそれを、まるで舞を踊るように軽々とかわしていく。
「……師匠。あんたの刃は、もう欲と金にまみれて、鈍りきっとるよ」
「な、なんじゃと……!?」
おリンの幻惑魔法が師匠の視界を揺らし、その隙を突いて、彼女の鋭い蹴りが師匠の顎を正確に撃ち抜いた。
「がはっ……!」
白目を剥いて崩れ落ちる師匠。
かつて自分を育てた恩師を倒したおリンの顔には、少しだけ寂しそうな影が差していた。
「お仕置きばい……」
一方その頃。
『わあぁぁっ!? なしてわだば、バスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ! にんにくとニラの匂いが取れねぇだべさ!』
もつ鍋風呂から飛び出したシノブが、強烈な薬膳の匂いを撒き散らしながら、残りのギルド員たちを『津軽流・猫だまし』の格闘術で次々と昏倒させていた。
「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」
完全に無力化され、震え上がる師匠とギルドの幹部たち。
マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。
「言語道断である。領民の憩いの場である屋台を脅かし、あまつさえ己の愛弟子を野望の道具にしようとするなど……万死に値する!」
***
事件解決後。
マオたちは屋台街に戻り、ギルドの脅威から解放されて活気を取り戻した屋台で、念願だった『豚骨ラーメン』と『明太子』、そして『一口餃子』を満喫していた。
「いやー! 豚骨の深いコクと、極細麺が絡んで最高やな! 明太子の辛みもええアクセントや! おっちゃん、替え玉(二杯目)もういっちょ!」
「マオ殿、替え玉は一回までと言ったごわす!」
健康管理に厳しいゴーンが慌ててマオを止める。
その横で、おリンはラーメンのスープを見つめながら、少しだけしんみりとしていた。
マオはそんなおリンの頭を、ポンと優しく撫でた。
「……気に病むなや、おリン。お前の師匠は、お前が止めてやらんかったら、もっと真っ黒な悪党に成り下がっとったはずや。お前は立派に、自分の過去とケリをつけたんやで」
「……マオしゃん」
おリンの顔に、いつものあざとかわいい笑顔が戻る。
「ありがとう。……よし! 私も替え玉いっちょ!」
「ええどすなぁ……あの忙しくラーメンを湯切りする大将の……奥で餃子を焼いている女将さんの、汗ばんだエプロン姿……じゅるり」
シーアは相変わらず、ブレない視線を送っている。
そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてにんにく臭くなったシノブが、一口餃子を頬張りながらため息をついていた。
『わ、もつ鍋の具にされて、タダ働きさせられて……ほんと、割に合わない任務だべさ……でも、この餃子はなまら美味いべ』
その時、マオの懐の通信魔導具が鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……あー、ベルゼか。もしもし?」
『……マオ様。福岡の巨大ギルドを丸ごと解体したせいで、九州の裏社会が大混乱に陥っています。その事後処理で、私の胃壁はついに……ボリッ、ガリッ……あぁ、もう薬を直接飲むより、噛み砕いた方が……!』
「あ、ごめん! ちょっと屋台の客引きの声が大きくて、電波が……ザザッ」
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】
こうして、福岡風エリアの屋台の平和は守られ、おリンは過去との決着をつけました。
これにて、長かった『九州・沖縄エリア』の世直し道中は完全制覇となります!
次なる目的地は、本州の『山陰地方』。
日本海を渡る船の旅が、一行を待ち受けています。
さて、次はどんな悪党(とご当地グルメ)が待ち受けているのやら!




