第19話:佐賀風エリアと魔法陶器の偽造
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
長崎風エリアの出島で、最新型高反発バットと平和を守ったマオ一行。彼らは九州エリアをさらに北上し、美しい焼き物の里として知られる『佐賀風エリア』へとやってまいりました。
この街は「有田風」や「伊万里風」と呼ばれる、魔族領でも最高級の魔法陶器の産地であります。
***
「いやー! 街のあちこちに立派な壺やら皿やらが飾られとって、風情があるなぁ! 今日の昼飯は絶対に、透き通った『呼子のイカの活き造り』と、霜降りの『佐賀牛(魔牛)』のステーキやで!」
陶器の工房が立ち並ぶ石畳の坂道を、マオが頭のゴム角を揺らしながら上機嫌で歩いている。
「マオ殿。いくら高級な器だからといって、歩きながらジロジロ覗き込むのは行儀が悪かごわすよ。割ったら弁償しきれんごわす」
相変わらずのオカン属性を発揮するゴーンの横で、シーアは完全に別のものに目を奪われていた。
「おお……あちらに見えるは、工房で絵付け作業をする女職人さんたち! 繊細な筆遣いのため、息を詰めてわずかに開いた艶やかな唇……! 集中する真剣な横顔と、かすかに汗ばむ細いうなじ! あわよくば、私が筆の持ち方を教わるふりをして、背後から手を重ねて……じゅるり」
シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。
「お前、職人さん見たらとりあえず『じゅるり』って言うシステムになっとるやろ」
マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……またか。せっかくの焼き物の里の風情が台無しやで」
マオが嫌そうな顔で路地裏に入り、通信ボタンを押すと。
『ボリッ、ガリガリッ、ボリボリボリッ……!』
「……ベルゼ。お前、長崎のバット奪還事件からずっと胃薬噛みっ放しなんとちゃうか」
『……マオ様! 出島の悪徳商人を潰したせいで、海外の貿易商たちからの問い合わせ対応が全部こっちに回ってきているんですが!? しかも、ザウード一派の動きがさらに活発化しています。いいですか、佐賀には絶対に面倒事を起こすような……あぁっ、私の胃壁が安物の陶器のようにひび割れて……!』
「あ、ごめん! ちょっと窯元の炎の音が大きくて、電波が……ザザッ」
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】 はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、登り窯の熱気の中へと消えていきました。
***
気を取り直して、美味しいイカと佐賀牛を求めて工房の並ぶ通りへ入ったマオたちだったが、街の様子がおかしい。
職人たちが皆、顔に隈を作り、フラフラになりながら工房と倉庫を往復しているのだ。
「なんや、活気がないなぁ。どないしたん?」
マオが近くでへたり込んでいた初老の職人に尋ねると、職人は小声で教えてくれた。
「それが……最近この街を治めるようになった悪徳窯元が、過激派のザウード様と結託して、がばい(凄く)無茶な命令を出してきとるんじゃ」
「無茶な命令やと?」
「あぁ。わしらの伝統技術を使って、危険な『爆発魔法を込めた偽造陶器』を大量生産させられとる。それだけじゃなか。あろうことか、去年『虎チーム』がペナントレースで勝ち取った神聖な『優勝トロフィー(有田風の特注品)』を盗み出し、精巧な偽物とすり替えて、本物を海外へ売り飛ばそうとしとるんじゃ……逆らえば、窯を壊されるけん……」
その言葉を聞いた瞬間、マオの目の色が変わった。
「……は? 爆発する偽造品で街を危険に晒すのも許せんが、神聖な虎チームの優勝トロフィーを売り飛ばすやと? ……それは万死に値するやろ!!」
マオから、ピキィッ……と尋常ではない怒りのオーラが立ち昇る。愛媛や宮崎の時と同様、野球絡みの悪事に対してはマオの怒りゲージの上昇が異常に早い。
その時、マオの懐の通信魔導具が、ブルブルと震えた。
「おっ、おリンか?」
マオが通話ボタンを押すと。
『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』
『わあぁぁっ!? なしてわだば、こんな熱いお湯の中で紅茶のティーバッグみでぇに扱われてんだべ! 目が回るべさ!』
ちゃぷん……ぐるぐるぐる……という水音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブのパニック気味な悲鳴が響いた。
「……お前ら、今回はどんな風呂入っとんねん。しかもなんか回っとる音がするぞ」
『よかたい。悪徳窯元の屋敷の奥に、最高級の有田風陶器で作られた『超巨大ティーカップ風呂』があったけんね。お湯張ってハーブの入った袋ば浮かべたら、極上のハーブティー風呂になったばい。野良猫ちゃんは、私がスプーン代わりに大きな杖でお湯ばかき混ぜとるけん、ティーバッグみたいに回って泣いとるけど』
豪華絢爛な絵付けが施された巨大なティーカップ風呂。おリンは豊かなプロポーションをハーブの香る湯に沈め、一緒に浸かっているシノブの頭を、ティーバッグを揺らすように楽しげにつついている。
『窯元の親玉は、私が色仕掛けでお酒飲ませて、奥のソファーで爆睡しとるよ。やっぱり、偽造陶器とトロフィーの売上金は、全部ザウードの軍資金になるみたいやね』
「ザウード……! ここもアイツの資金源か。ジョンはどうや?」
『マオにぃにぃ。僕も別行動で裏の倉庫に忍び込んで、盗まれた本物の「優勝トロフィー」を確保したさー。いつでも突入できるさー』
通信越しに聞こえる、ジョンの静かで頼もしい報告。
マオは口角を上げ、ゴーンとシーアの肩を叩いた。
「……ゴーン、シーア。虎チームの誇りを汚した悪党どもに、ちょっとキツめのお仕置きが必要なんとちゃうか?」
「……承知したごわす! マオ殿、今日の俺の口上は、伊万里の陶器よりも美しく決めるごわすよ!」
***
悪徳窯元の屋敷、その最深部にある広間。
目を覚ました窯元(過激派に寝返った魔族)が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「な、なんじゃ貴様ら! どこから入り込みやがった!」
広間には、窯元と、雇われた完全武装の私兵たちがずらりと並んでいる。
その正面には、マオたち三人が静かな怒りのオーラを燃やして立ち塞がっていた。
「マオ殿。いくごわす!」
ゴーンが一歩前へ出て、たっぷりとした間を取ってから、窯元をビシッと指差した。
「こ、この御方を……どなたと心得る!!」
『よっしゃ!! 「ごわす」抜き完璧や! もうすっかりモノにしたな!』
マオが内心で絶賛するのと同時に、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。
「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」
圧倒的な魔力の波動が広間を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返る広間。
ハーブティー風呂から上がって大きなバスタオルに包まっていた監視役のシノブも、『わ、今日もきっちりこの茶番劇だべ……』と、その完成度の高さに少しだけ安堵すら覚えていた。
窯元は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな佐賀の窯元に……!」
だが、次の瞬間。
窯元の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。
「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! そがん気取った標準語なわけなかろうが!」
『よっしゃ! 完璧なテンプレ開き直り! これを聞かなきゃ仕事が始まらんわ!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様と共に、集めた金で人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ここで消し去って、焼き物の灰にしてやるばい! 出会えぇぇええ!!」
窯元の号令で、私兵たちが一斉に襲いかかってくる。
「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」
「チェストォォォ!!」
シーアの重圧魔法が私兵たちを床に叩きつけ、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて襖ごと吹き飛ばす。
「神聖なトロフィーを汚すな、さー!!」
ゴーンが巻き起こした突風と混乱に紛れ、文字通り『影』のように死角を駆け抜けたジョンが、いつの間にか窯元の背後へと回り込んでいた。
ジョンが持っていた偽造品の壺(硬い)で後頭部を強打すると、窯元は情けない悲鳴を上げて床に倒れ伏した。
「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」
『わあぁぁっ!? なしてわだばバスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ! ハーブの匂いが取れねぇだべさ!』
おリンに背中を押される形で飛び出したシノブ。
文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りの手下たちを次々と昏倒させていく。
「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」
完全に無力化され、震え上がる窯元。
マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。
「言語道断である。職人たちの誇りを踏みにじり、あまつさえ神聖な野球のトロフィーを己の野望の道具にするなど……万死に値する!」
***
事件解決後。
本物の優勝トロフィーは無事に保護され、工房には再び職人たちの活気が戻っていた。
マオたちは職人たちから大いに感謝され、美しい有田風の器に盛られた『呼子のイカの活き造り』と『佐賀牛のステーキ』を満喫していた。
「いやー! イカは透き通ってコリコリやし、佐賀牛は口の中でとろけるわ! この器の美しさも最高やな!」
「マオ殿、お肉お代わりごわす!」
「トロフィーが無事でよかったさー」
大満足で舌鼓を打つマオ、ゴーン、ジョン。
その横で、シーアはまだ絵付け作業に戻った女職人たちの方から目を離さずにいた。
「ええどすなぁ……あの筆を持つ白い指先……じゅるり」
そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてバスタオル姿で戦わされたシノブが、イカのゲソを頬張りながらため息をついていた。
『わ、ティーバッグにされて戦わされて……でも、このイカはなまら美味いべ……』
【ナレーション】
こうして、佐賀風エリアの陶器と野球トロフィーの平和は守られました。
ザウードの資金源をまた一つ潰したマオたち。彼らの気まぐれな世直し道中は、さらに九州の最大の都市『福岡風エリア』へと向かいます!
そこでは、おリンの過去に関わる因縁の事件が……? さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!




