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第18話:長崎風エリアと出島の密貿易(勇者遭遇)

【ナレーション】

皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。

熊本風エリアでの復興資金横領事件を解決し、絶品の馬刺しを堪能したマオ一行。彼らは九州エリアを北西へと進み、異国情緒あふれる港町『長崎風エリア』へとやってまいりました。

石畳の坂道に洋館が立ち並び、港には外国からの貿易船が行き交う、非常にハイカラな街であります。


***


「いやー! 街並みがオシャレやなぁ! 昼飯は絶対に、海鮮と野菜がたっぷりの『ちゃんぽん』と、おやつに甘ーい『カステラ』やで!」


石畳の坂道を、マオが頭のゴム角を揺らしながら上機嫌で歩いている。


「マオ殿。いくら洋風の街並みだからといって、浮かれて石畳で足を滑らせないように気をつけるごわすよ」


相変わらずオカン属性全開のゴーンの横で、シーアは完全に別のものに目を奪われていた。


「おお……あちらに見えるは、南蛮渡来のフリルドレスをまとった令嬢たち! 普段の和装とは違う、コルセットで締められた細い腰と、ふわりと広がるスカートの裾! あわよくば、私がエスコートするふりをして、ダンスホールで熱く身を寄せ合い……じゅるり」


シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。


「お前、ドレス見たら絶対それ言うシステムになっとるやろ」


マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。


ビロロロロ! ビロロロロ!


「……またか。せっかくの異国情緒が台無しやで」


マオが嫌そうな顔で路地裏に入り、通信ボタンを押すと。


『ボリッ、ボリボリボリッ……!』


「……ベルゼ。お前、今日は何錠いっぺんに噛み砕いとるんや」


『……マオ様! 熊本の銀杏城の修繕費用の領収書が、私のデスクに山のように届いているんですが!? しかも通信の魔力波形からして、今度は長崎方面ですね? 頼むから、異国との貿易摩擦を起こすような真似だけは……あぁっ、ストレスで胃壁がカステラのようにボロボロに……!』


「あ、ごめん! ちょっと教会の鐘の音がうるさくて、電波が……ザザッ」


マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。


【ナレーション】 はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、美しいステンドグラスの輝きへと消えていきました。


……さて。そんなマオたちの様子を、洋館の屋根の上からジッと見つめる一つの影がありました。


『……獣王様。対象は今日も、ちゃんぽんのことしか考えてねぇだじゃ。わ、この洋館の屋根、ツルツルしててなまら滑るべさ……尾行しづらいだべ……』


監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。

彼女は屋根の傾斜に爪を立てながら、深いため息をついていた。

だが次の瞬間、背後からふわりと甘い香りがして、彼女の体は影の中へと引きずり込まれていったのだった。


***


気を取り直して、外国からの品物が集まるという人工の貿易島『出島(でじま)』の入り口へとやってきたマオたち。

しかし、関所の前で何やら大きな揉め事が起きているようだった。


「てやんでえ! べらぼうめ! なんでぇこの値段は! 桁が二つも違うじゃねえか! 足下見やがって!」

「でら高いがね! こんなぼったくり、訴えるよ!」


柄の悪い悪徳商人と揉めているのは、ゴム製のチープな角を頭につけ、顔を紫色の塗料で雑に塗っただけの不審な二人組。

勇者アレン(江戸っ子弁)と、聖騎士セリア(名古屋弁)だった。


「なんや、アレンザの兄ちゃんらやないか! 久しぶりやな!」


マオが声をかけると、アレンは振り返ってパァッと顔を輝かせた。


「おっ! マオの旦那じゃねえか! 奇遇だねえ! 岡山のスタジアムや阿波踊り以来だな!」


「また会ったねぇ。あんたたちも、ここの商館に用事かね?」

セリアが呆れ顔で腰に手を当てる。


「いや、俺らは観光や。兄ちゃんらは何で揉めとったん?」


マオが尋ねると、アレンは忌々しそうに悪徳商人を指差した。


「聞いてくれよ! 人間領じゃ手に入らねえ『最新型の高反発バット』が、ここの商館に密輸入されてるって聞いて、ウサギチームの主砲のために買い付けに来たんだ。そしたらこの野郎、定価の数十倍の値段を吹っかけてきやがってよ!」


悪徳商人が鼻で笑う。


「へっ、嫌なら買わんでよろしい! このバットは、ここ『出島』を管理する奉行様の許可を得て、ワシらが独占販売しとるんじゃ。いくら値段を吊り上げようと、こっちの勝手じゃろうが!」


『……なるほどな。特権階級と結託して、野球の道具を不当に独占して暴利を貪っとるんか』


マオの目が、スッと細くなる。

その時、懐の通信魔導具がブルブルと震えた。


「おっ、おリンか?」


マオが死角に入り、通話ボタンを押すと。


『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』

『わあぁぁっ!? なしてわだば、こんなキラキラしたお風呂さ入れられてんだべ! 泡が目に入って痛いべさ!』


ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブのパニック気味な悲鳴が響いた。


「……お前ら、今回はどんな風呂入っとんねん。しかもシノブ、いつの間に合流したんや」


『よかたい。出島の奥にある奉行しゃんの洋館に、ステンドグラスから光が差し込む『西洋風の猫足バスタブ』があったけんね。お湯張ってバラの香りの石鹸を溶かしたら、極上の泡風呂になったばい。野良猫ちゃんは屋根から足滑らせたとこを捕獲したとよ』


虹色の光が差し込む豪華な泡風呂で、おリンは豊かなプロポーションをきめ細かな泡で隠しつつ、シノブの頭に泡を乗せて遊んであげていた。


『奉行しゃんは、私が色仕掛けでワインば飲ませて、奥のベッドで爆睡しとるよ。裏帳簿によると、このバットの独占販売で稼いだ金は、全部あの過激派のザウードに軍資金として送られとるみたいやね』


「ザウード……やっぱりあいつの資金源か。ジョンはどうや?」


『マオにぃにぃ。僕も別行動で裏の倉庫に忍び込んで、バットのらる在庫を全部確保しておいたさー。いつでも突入できるさー』


ジョンののんびりした報告を聞き、マオは口角を上げた。


「アレンザの兄ちゃん。バットを取り返すついでに、ちょっと悪党のお掃除でもせんか?」

「へっ! 言われなくとも、そのつもりだったぜ! いっちょ暴れようぜ!」


***


出島の最奥、奉行の洋館。

その豪華な執務室で、目を覚ました奉行と悪徳商人が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。


「な、なんじゃ貴様ら! どこから入り込みやがった!」


部屋には、奉行と、完全武装した私兵たちがずらりと並んでいる。

その正面には、マオたち三人と、嬉々として拳を鳴らす勇者ペアが立ち塞がっていた。


「マオ殿。今日も完璧に決めるごわす!」


ゴーンが一歩前へ出て、奉行と商人をビシッと指差した。


「こ、この御方を……どなたと心得る!!」


『よっしゃ!! 「ごわす」抜き完璧や! もう完全にモノにしたな!』


マオが内心で絶賛するのと同時に、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。


「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」


圧倒的な魔力の波動が執務室を包み込む。

マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。


「……余の顔を見忘れたか?」


しんと、静まり返る執務室。

泡風呂から上がって大きなバスタオルに包まっていた監視役のシノブも、『わ、今日もきっちりこの茶番劇だべ……』と、その完成度の高さに見惚れていた。


奉行と商人は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。


「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな長崎の出島に……!」


だが、次の瞬間。

奉行の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。


「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」


『よっしゃ! 完璧な開き直り! これを聞かなきゃ仕事が始まらんわ!』


「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様と共に、集めた金で人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ここで消し去ってやるわ! 出会えぇぇええ!!」


奉行の号令で、私兵たちが一斉に襲いかかってくる。


「てやんでえ! 神聖な野球の道具を、テメエらの薄汚い野望の道具にするんじゃねえ!」


アレンが嬉々として先陣を切り、ステゴロで私兵を次々と吹き飛ばしていく。

セリアも「でら迷惑な連中だわ!」と蹴りを放つ。


「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」

「チェストォォォ!!」


シーアの重圧魔法が私兵たちを床に叩きつけ、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて吹き飛ばす。


「野球の邪魔をするな、さー!!」


影の隙間を縫うように駆け抜けたジョンが、いつの間にか奉行の背後へと回り込み、持っていた帳簿で後頭部を強打する。


「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」


『わあぁぁっ!? なしてわだばバスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ! 肌が冷えるだべさ!』


おリンに背中を押される形で飛び出したシノブ。

文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りの手下たちを次々と昏倒させていく。


「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」


完全に無力化され、震え上がる奉行と商人。

マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。


「言語道断である。特権を利用して不当な利益をむさぼり、あまつさえ戦争の火種をばら撒こうとするなど……万死に値する!」


***


事件解決後。

マオたちは無事に適正価格でバットを手に入れたアレンたちと共に、港の見えるレストランで『ちゃんぽん』と『カステラ』を満喫していた。


「いやー! 魚介のダシが効いたスープに、太麺が絡んで最高やな! カステラのザラメの食感もたまらんわ!」

「マオ殿、ちゃんぽんお代わりごわす!」

「へっ! マオの旦那、今日もありがとよ! このバットで、ウサギチームは必ず優勝するぜ!」


大満足で舌鼓を打つマオとゴーン、そして嬉しそうにバットを振るアレン。

その横で、シーアはまだフリルドレスの女性たちの方から目を離さずにいた。


「ええどすなぁ……あのふんわりとしたシルエット……じゅるり」


そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてバスタオル姿で戦わされたシノブが、カステラを頬張りながらため息をついていた。


『わ、着替える暇も与えられねぇで戦わされて……でも、このカステラはなまら甘くて美味いべ……』


【ナレーション】

こうして、長崎風エリアの平和と、最新型の野球バットは守られました。

ザウードの資金源をまた一つ潰したマオたち。彼らの気まぐれな世直し道中は、さらに九州を巡っていきます。

さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!

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