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第17話:熊本風エリアと消えた復興資金

【ナレーション】

皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。

美しい海と島々を巡る「アイランドホッピング」を大満喫したマオ一行は、船に乗ってついに九州本土へと帰還いたしました。

彼らが降り立ったのは、九州の中央部に位置し、巨大で堅牢な黒い城『銀杏城(ぎんなんじょう)』がそびえ立つ『熊本風エリア』であります。


***


「いやー、ついに本土に帰ってきたで! やっぱり陸地は落ち着くなぁ! 熊本言うたら、あの立派な黒いお城と……なんちゅうても極上の『馬刺し』と『辛子蓮根(からしれんこん)』や! 昼飯は絶対に馬肉のフルコースやで!」


ゴム製の角をつけたマオが、遠くに見える巨大な城跡を見上げながら上機嫌で歩いている。


「マオ殿。本土に戻ったからといって油断してはいかんごわす。それに、あのお城……なんだかあちこち崩れたままになっているごわすよ」


ゴーン(薩摩弁)が真面目に城の方を指差して訝しんでいる。

その横で、シーア(京都弁)は完全に別のものに目を奪われていた。


「おお……あちらに見えるは、馬刺し屋で立ち働く若女将さん! 白い割烹着からスッと伸びた美しいうなじと、キリッとした働き者の横顔! あわよくば、私が辛子蓮根の辛さでむせて涙目になったふりをして、背中をさすってもらい……じゅるり」


シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。


「お前、割烹着見たら絶対それ言うシステムになっとるやろ」


マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。


ビロロロロ! ビロロロロ!


「……またか。せっかくの本土上陸の気分が台無しやで」


マオが嫌そうな顔で通信ボタンを押すと。


『ボリッ、ボリボリボリッ……ゴクッ……』


「……ベルゼ。お前、ついに胃薬を水で流し込む音まで聞かせるようになったんか」


『……マオ様! アイランドホッピングの膨大な経費精算、一体誰がやったと思ってるんですか!? それに、今そちらは熊本ですね? 首都から送ったはずの「銀杏城の復興資金」が、いつまで経っても現場で使われていないという報告が上がってきているんです! 現地の城代に確認を……あぁっ、ストレスで胃に穴が……!』


「あ、ごめん! ちょっと銀杏の木に止まっとるカラスの鳴き声がうるさくて、電波が……ザザッ」


マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。


【ナレーション】 はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、熊本の青空へと消えていきました。


……さて。そんなマオたちの様子を、大きな銀杏の木の陰からジッと見つめる一つの影がありました。


『……獣王様。対象は今日も、馬刺しのことしか考えてねぇだじゃ。わ、なしてまた九州本土まで連れ戻されて、木の陰さ隠れなきゃなんねぇんだべか……』


監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。

南の島で散々おリンの風呂に付き合わされた彼女は、本土の乾いた空気に少しだけ安堵しつつも、深いため息をついていた。


***


気を取り直して、極上の馬刺しを求めて城下町へ入ったマオたちだったが、街の様子がおかしい。

人々は疲れ切った顔をしており、せっかくの馬刺し屋も客足がまばらだった。


「なんや、活気がないなぁ。どないしたん?」


マオが先ほどシーアが目を付けていた馬刺し屋の若女将に尋ねると、女将は小声で教えてくれた。


「それが……この街を治めとる城代様が、『お城の修理に金が要るけん』って言うて、わしらから無理やり重い税を取り立てよるんよ。ばってん、お城は一向に直らんままだけん……」


「なんやて? 復興資金なら、首都のベルゼが送ったって言うとったぞ」


「そんなお金、一銭も街には降りてきとらんバイ。城代様が私兵を雇って、城の奥で贅沢三昧しとるって噂だけん……」


その言葉を聞いた瞬間、マオの目の色が変わった。


「なんやて? 領民の故郷への想いを踏みにじり、あまつさえ復興資金を己の私欲のために横領するやと? ……万死に値するやろ!」


マオがブチギレそうになったその時。

懐の通信魔導具が、再びブルブルと震えた。


「おっ、おリンか?」


マオが路地裏に身を隠し、通話ボタンを押すと。


『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』

『わあぁぁっ!? なしてわだば、滝の裏側さ連れてこられてんだべ! 水しぶきが冷てぇべさ!』


ザザザザァァッ……という激しい水音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブのパニック気味な悲鳴が響いた。


「……お前ら、今回はどんな激しい風呂に入っとんねん」


『よかたい。街の郊外に、滝の裏側に入れる『裏見の滝風呂』があったけんね。マイナスイオンたっぷりで、滝のカーテン越しに見る景色が最高ばい。野良猫ちゃんは音がうるさいって泣いとるけど』


神秘的な裏見の滝の天然風呂で、おリンは豊かなプロポーションを輝かせ、水しぶきを嫌がるシノブの頭に手ぬぐいを乗せてあげていた。


『城代しゃんは、私が色仕掛けで強い米焼酎ば飲ませて、城の奥の部屋で爆睡しとるよ。裏帳簿によると、首都から送られた復興資金と街から搾り取った税金は……やっぱり全部、過激派のザウードに軍資金として横流ししとるみたいやね』


「ザウード……! またあいつか。どこにでも湧いて出よるな」


マオの目が、スッと細くなる。

その時、通信越しにもう一つの声が割り込んできた。


『マオにぃにぃ。僕もバッチリさー。もうお城の金庫の鍵を開けて、帳簿をすり替えといたさー。いつでも突入できるさー』


別行動で城へ潜入していたジョンの、静かな怒りを含んだ声。

それを聞き、マオはゴーンとシーアの肩を叩いた。


「……ゴーン、シーア。領民の想いを裏切った悪党どもに、ちょっとキツめのお仕置きが必要なんとちゃうか?」


「……承知したごわす! マオ殿、今日の俺のタメは完璧にごわすよ!」


***


銀杏城の奥深く、城代の私室。

目を覚ました城代(過激派に寝返った魔族)が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。


「な、なんばしとっとか貴様ら! どこから入り込みやがった!」


広間には、城代と、横領した金で雇われた完全武装の私兵たちがずらりと並んでいる。

その正面には、マオたち三人が静かな怒りのオーラを燃やして立ち塞がっている。


「マオ殿。いくごわす!」


ゴーンが一歩前へ出て、たっぷりとした間(タメ)を取ってから、城代をビシッと指差した。


「こ、この御方を……どなたと心得る!!」


『よっしゃ!! 語尾の「ごわす」抜き、完全にマスターしたな! めっちゃカッコええでゴーン!』


マオが内心で大絶賛するのと同時に、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。


「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」


圧倒的な魔力の波動が私室を包み込む。

マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。


「……余の顔を見忘れたか?」


しんと、静まり返る部屋。

滝風呂から上がってバスタオルに包まっていた監視役のシノブも、『わ、この様式美……何度見ても悔しいけど完成度高いべ』と、感心してしまっていた。


城代は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。


「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな熊本に……!」


だが、次の瞬間。

城代の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。


「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんバイ! 魔王様ならコテコテの関西弁だろが! そぎゃん気取った標準語なわけなかっ!」


『よっしゃ! 完璧なテンプレ開き直り! これを聞かな飯が食えへんわ!』


「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けバイ! 我らは過激派のザウード様と共に、集めた復興資金で人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ここで斬り捨てて、銀杏の肥やしにしてやるバイ! 出会えぇぇええ!!」


城代の号令で、私兵たちが一斉に襲いかかってくる。


「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」

「チェストォォォ!!」


シーアの重圧魔法が私兵たちを床に叩きつけ、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて襖ごと吹き飛ばす。


「お城のお金を盗むな、さー!!」


ゴーンが巻き起こした突風と土煙の混乱に紛れ、文字通り『影』のように死角を駆け抜けたジョンが、いつの間にか城代の背後へと回り込んでいた。

ジョンが持っていた帳簿の束で後頭部を強打すると、城代は情けない悲鳴を上げて床に倒れ伏した。


「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」


『わあぁぁっ!? なしてわだばバスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ! 肌が冷えるだべさ!』


おリンに背中を押される形で飛び出したシノブ。

文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りの手下たちを次々と昏倒させていく。


「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」


完全に無力化され、震え上がる城代。

マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。


「言語道断である。領民のお城への想いを裏切り、復興資金を己の野望の道具にするなど……万死に値する!」


***


事件解決後。

復興資金は無事に街へ戻り、銀杏城の本格的な修繕工事が始まった。

マオたちは若女将から大いに感謝され、念願だった『極上の馬刺し』と『辛子蓮根』を満喫していた。


「いやー! 赤身の馬刺しは甘くてとろけるし、ツンとくる辛子蓮根が焼酎に合うわぁ!」

「マオ殿、馬肉お代わりごわす!」

「お城が直ってよかったさー」


大満足で舌鼓を打つマオ、ゴーン、ジョン。

その横で、シーアはまだ忙しく立ち働く若女将の方から目を離さずにいた。


「ええどすなぁ……あの割烹着姿のうなじ……じゅるり」


そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてバスタオル姿で戦わされたシノブが、馬刺しを頬張りながらため息をついていた。


『わ、着替える暇も与えられねぇで戦わされて……でも、この馬刺しはなまら美味いべ……』


【ナレーション】

こうして、熊本風エリアの復興資金と馬刺しは守られました。

ザウードの資金源をまた一つ潰したマオたち。彼らの気まぐれな世直し道中は、さらに九州の西、異国情緒あふれる『長崎風エリア』へと向かいます!

さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!

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