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第16話:宮古風エリアと美しき海の魔雪塩

【ナレーション】

皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。

奄美、沖縄本島、石垣と続いてきたマオ一行の『沖縄方面アイランドホッピングルート』も、いよいよ大詰め。彼らは透き通るような「宮古ブルー」の海と、サンゴ礁が隆起してできた平坦な島、『宮古風エリア』へとやってまいりました。


***


「いやー! 同じ南の島でも、海の色がまたちゃうなぁ! これが噂の宮古ブルーか! 昼飯は絶対に、あっさりスープの『宮古そば』と、名物の『魔雪塩(まゆきじお)』をたっぷりかけたソフトクリームやで!」


どこまでも平坦なサトウキビ畑の一本道を、マオが麦わら帽子を片手に上機嫌で歩いている。


「マオ殿。いくら暑いからといって、冷たいソフトクリームの食べすぎは腹を下す原因になるごわす。温かいお茶も飲むごわすよ」


相変わらずオカン全開のゴーンの横で、シーアは集落の広場で行われている伝統行事の方へ熱い視線を送っていた。


「おお……あちらに見えるは、全身に泥を塗った神様が人々に泥をなすりつける奇祭『パーントゥ』! 厄除けとはいえ、泥を塗られて悲鳴を上げる娘さんたちの艶かしい姿……! あわよくば、私が神様のふりをして、娘さんたちの全身にくまなく泥を……じゅるり」


シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。


「お前、神聖な祭りを何やと思っとんねん」


マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。


ビロロロロ! ビロロロロ!


「……またか。せっかくの南国の潮風が台無しやで」


マオが嫌そうな顔で通信ボタンを押すと。


『ボリッ、ガリッ、ボリボリボリッ……!』


「……ベルゼ。お前、もう胃薬を砕く音がBGMみたいになっとるやないか」


『……マオ様! 宮古島方面まで行かれると、海底の長距離魔力通信ケーブルの利用料が跳ね上がるんです! どこまで予算を圧迫すれば気が済むんですか! ザウード一派の動きも全国的に活発化しているのに、呑気にアイランドホッピングなんて……あぁっ、私の胃壁が宮古ブルーのように青ざめて……!』


「あ、ごめん! ちょっとサトウキビが風に揺れる音で、電波が……ザザッ」


マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。


【ナレーション】 はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、美しい宮古ブルーの海へと消えていきました。


……さて。そんなマオたちの様子を、サトウキビ畑の陰からジッと見つめる一つの影がありました。


『……獣王様。対象は今日も、ソフトクリームのことしか考えてねぇだじゃ。わ、いつになったらこの南の島巡り終わるんだべか……毛皮の装束が蒸れて、あせもができそうだべ……』


監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。

連日の南国特有の湿気により、彼女の体力と精神力は限界に近づきつつあった。


***


気を取り直して、極上の魔雪塩を求めて製塩所がある集落へ入ったマオたちだったが、村の様子がおかしい。

宮古そばの店は閉まり、村人たちが暗い顔をしてうつむいているのだ。


「なんや、活気がないなぁ。どないしたん?」


マオが近くの村人に尋ねると、村人は小声で教えてくれた。


「んみゃーち(いらっしゃい)……実は最近、過激派のザウード様を名乗る連中が、村の製塩所を勝手に占拠してしまったさいが」


「製塩所を占拠やと?」


「そうさいが。連中、わったー(俺たち)が海から汲み上げて作っていた『魔雪塩』を独占して、外のエリアに法外な高値で売り捌いてるんだら。逆らう者は、熱い製塩窯の火焚きとしてタダ働きさせられて……でーじ困ってるさー」


その言葉を聞いた瞬間、マオの目の色が変わった。

隣で話を聞いていたジョンの目も、スッと冷たくなる。


「マオにぃにぃ。沖縄の島々の宝物であるお塩を、自分たちの利益のためだけに独占するなんて……絶対に許さないさー」


「あぁ。領民の財産を奪い、あまつさえ過激派の軍資金集めをするなど……万死に値するやろ!」


マオがブチギレそうになったその時。

懐の通信魔導具が、再びブルブルと震えた。


「おっ、おリンか?」


マオが路地裏に身を隠し、通話ボタンを押すと。


『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』

『わあぁぁっ!? なしてわだば、こんなしょっぱいお湯さ入れられてんだべ! 日焼けした肌に塩水が沁みるだべさ! 痛いべ!』


ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブのパニック気味な悲鳴が響いた。


「……お前ら、今回はどんな風呂入っとんねん」


『よかたい。過激派の幹部が占拠しとる製塩所の地下に、宮古島特有の『地下地底湖』があったけんね。そこに魔雪塩をたっぷり溶かして『タラソテラピー塩風呂』にしとるとよ。浸透圧でお肌がキュッと引き締まるばい。野良猫ちゃんは、傷に塩が沁みるって泣いとるけど』


神秘的な光に照らされた地底湖の塩風呂で、おリンは豊かなプロポーションを輝かせ、沁みる肌を押さえて涙目になるシノブの頭に手ぬぐいを乗せてあげていた。


『幹部しゃんは、私が色仕掛けで泡盛ば飲ませて、奥のソファーで爆睡しとるよ。裏帳簿によると、この魔雪塩で稼いだ金は、船で一気に本州のザウードの元へ送られる予定みたいやね』


「ザウード……やっぱりここもアイツの資金源か」


マオの目が、スッと細くなる。


『マオにぃにぃ。僕、もう地下の窯焚き場の鍵を開けて、村の人たちを逃がしたさー。いつでも幹部の部屋に突入できるさー』


ジョンの静かな怒りを含んだ声を聞き、マオはゴーンとシーアの肩を叩いた。


「……ゴーン、シーア。南の島の締めくくりに、ちょっとキツめのお仕置きが必要なんとちゃうか?」


「……承知したごわす! マオ殿、今日の俺のタメは完璧にごわすよ!」


***


製塩所の奥深く、幹部室。

目を覚ました幹部(過激派の魔導士)が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。


「な、なんや貴様ら! どこから入り込みやがった!」


広間には、幹部と、完全武装した過激派の兵士たちがずらりと並んでいる。

その後ろには、出荷を待つ大量の『魔雪塩』が積まれていた。

その正面には、マオたち三人が静かな怒りのオーラを燃やして立ち塞がっている。


「マオ殿。いくごわす!」


ゴーンが一歩前へ出て、たっぷりとした間(タメ)を取ってから、幹部をビシッと指差した。


「こ、この御方を……どなたと心得る!!」


『よっしゃ!! タメも完璧、語尾の「ごわす」抜きも完璧や! 成長したなゴーン!』


マオが内心で感涙するのと同時に、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。


「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」


圧倒的な魔力の波動が幹部室を包み込む。

マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。


「……余の顔を見忘れたか?」


しんと、静まり返る幹部室。

地底湖から上がってバスタオルに包まっていた監視役のシノブも、『わ、この様式美……悔しいけどちょっとクセになってきたべ』と、その完成度の高さに見惚れていた。


幹部は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。


「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな宮古島に……!」


だが、次の瞬間。

幹部の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。


「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」


『よっしゃ! 完璧なテンプレ開き直り! これがないと南の島を終わられへんわ!』


「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様と共に、塩の金で人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! 塩漬けにしてやるさいが! 出会えぇぇええ!!」


幹部の号令で、兵士たちが一斉に襲いかかってくる。


「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」

「チェストォォォ!!」


シーアの重圧魔法が兵士たちを床に叩きつけ、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて塩の山の前まで吹き飛ばす。


「宮古の塩を汚すな、さー!!」


影から影へと高速で転移したジョンが、幹部の背後に回り込み、持っていた塩袋で幹部の顔面を強打する。


「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」


『わあぁぁっ!? なしてわだばバスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ! 肌が塩でヒリヒリするべ!』


おリンに背中を押される形で飛び出したシノブ。

文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りの手下たちを次々と昏倒させていく。


「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」


完全に無力化され、震え上がる幹部。

マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。


「言語道断である。領民の財産である美しい塩を奪い、己の野望の道具にするなど……万死に値する!」


***


事件解決後。

製塩所は村人たちの手に戻り、美しい宮古ブルーの海には平和が戻っていた。

マオたちは村人たちから感謝され、念願だった『宮古そば』と『魔雪塩のソフトクリーム』を満喫していた。


「いやー! あっさりしたスープのそばと、雪塩の甘じょっぱいソフトクリーム……最高やな!」

「マオ殿、お代わりごわす!」

「僕の故郷の島々を助けてくれて、にーふぁいゆー(ありがとう)さー」


大満足で舌鼓を打つマオ、ゴーン、ジョン。

その横で、シーアはまだパーントゥの祭りではしゃぐ娘たちの方から目を離さずにいた。


「ええどすなぁ……あの泥にまみれた太もも……じゅるり」


そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてバスタオル姿で戦わされたシノブが、宮古そばをすすりながらため息をついていた。


『わ、着替える暇も与えられねぇで戦わされて……でも、この塩ソフトはなまら美味いべ……』


【ナレーション】

こうして、宮古風エリアの平和と美しい塩は守られました。

ザウードの資金源を次々と潰していくマオたち。アイランドホッピングの旅はこれにて完結し、一行は船に乗って、ついに九州本土の『熊本風エリア』へと向かいます!

さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!

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