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第15話:石垣風エリアと幻の魔牛

【ナレーション】

皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。

沖縄本島での要塞基地騒動を解決したマオ一行。アイランドホッピングの旅はさらに南西へと進み、美しいサンゴ礁とマングローブ、そして満天の星空で知られる『石垣風エリア』へとやってまいりました。


***


「いやー! 海の色が本島ともまた違うて、エメラルドグリーンが眩しいなぁ! 昼飯は絶対に、特上の『石垣牛(魔牛)』の焼肉と、八重山そばやで!」


燦々と降り注ぐ日差しの中、マオが麦わら帽子を被りながら上機嫌で歩いている。


「マオ殿。いくら極上のお肉だからといって、食べすぎは胃もたれの原因になるごわす。野菜もバランス良く食べるごわすよ」


相変わらず健康管理に口うるさいゴーンの横で、シーアは海岸に停泊している小船の方へ熱い視線を送っていた。


「おお……あちらに見えるは、船底がガラス張りになった『グラスボート』の案内人をしている娘さんたち! 強い日差しを防ぐための麦わら帽子と、健康的に日焼けした首筋! 船の揺れに合わせて時折チラリと見える……あわよくば、私が船酔いしたふりをして膝枕を……じゅるり」


シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。


「お前、船でも何でも、揺れとったらそれでええんか」


マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。


ビロロロロ! ビロロロロ!


「……またか。せっかくの南国の潮風が台無しやで」


マオが嫌そうな顔で通信ボタンを押すと。


『ボリッ、ガリッ、ボリボリボリッ……!』


「……ベルゼ。お前、もう胃薬をラムネ菓子みたいに食うとるやないか」


『……マオ様! 沖縄本島の要塞跡地の解体費用と、それに伴う環境アセスメントの書類で徹夜続きだというのに……通信の魔力探知が、さらに南西の石垣島方面を示しているんですが!? そこから先はもう国境の海ですよ!? どこまで逃げる気ですか……あぁっ、私の胃壁がサンゴ礁のようにボロボロに……!』


「あ、ごめん! ちょっとグラスボートのエンジン音で、電波が……ザザッ」


マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。


【ナレーション】 はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、美しい川平湾(風の入り江)へと消えていきました。


……さて。そんなマオたちの様子を、ガジュマルの木の陰からジッと見つめる一つの影がありました。


『……獣王様。対象は今日も、焼肉のことしか考えてねぇだじゃ。わ、なしてこんた暑い島ばっかり連れ回されなきゃなんねぇんだべか……』


監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。

連日の南国特有の湿気と日差しにより、厚手の忍び装束を着た彼女の体力は限界に近づきつつあった。


***


気を取り直して、極上の石垣牛を求めて牧場がある集落へ入ったマオたちだったが、村の様子がおかしい。

牧場は高い柵で封鎖され、村人たちが暗い顔をしてうつむいているのだ。


「なんや、活気がないなぁ。どないしたん?」


マオが近くの村人に尋ねると、村人は小声で教えてくれた。


「おーりとーり(いらっしゃい)……実は最近、過激派のザウード様を名乗る連中が、村の牧場を勝手に占拠してしまったさぁ」


「牧場を占拠やと?」


「だっからよー。連中、わったー(俺たち)が大切に育ててきた石垣牛を、強引に凶暴な魔獣と交配させて、『突撃用の軍用牛』に改造してるんだぁ。逆らう者は牧場のフン掃除のタダ働きさせられて……でーじ(凄く)困ってるさぁ」


その言葉を聞いた瞬間、マオの目の色が変わった。

隣で話を聞いていたジョンの目も、スッと冷たくなる。


「マオにぃにぃ。沖縄の島々の宝物である牛さんを、戦争の道具に改造するなんて……絶対に許さないさー」


「あぁ。領民の財産を奪い、あまつさえ命を弄んで戦争の準備をするなど……万死に値するやろ!」


マオがブチギレそうになったその時。

懐の通信魔導具が、再びブルブルと震えた。


「おっ、おリンか?」


マオが路地裏に身を隠し、通話ボタンを押すと。


『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』

『わあぁぁっ!? なしてわだば、こんな海の中さ沈められてんだべ! 外をウミガメが泳いでるだべさ!』


ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブのパニック気味な悲鳴が響いた。


「……お前ら、今回はどんな風呂入っとんねん」


『よかたい。過激派の幹部が占拠しとる牧場の地下に、海の中が見渡せるシースルーの『海中展望風呂』があったけんね。お湯張って入ってみたら、サンゴ礁と熱帯魚が見えて最高ばい。野良猫ちゃんは、水圧が怖いって泣いとるけど』


ガラス張りの豪華な海中風呂で、おリンは豊かなプロポーションを輝かせ、パニックになるシノブの頭に冷たい手ぬぐいを乗せてあげていた。


『幹部しゃんは、私が色仕掛けで泡盛ば飲ませて、奥のソファーで爆睡しとるよ。裏帳簿によると、ここで改造した軍用牛を船に乗せて、人間領の港へ奇襲を掛けるつもりみたいやね』


「ザウードのやつ、着々と戦力を集めとるな」


マオの目が、スッと細くなる。


『マオにぃにぃ。僕、もう地下の牛舎の鍵を開けて、牛さんたちを安全な場所へ逃がしたさー。いつでも幹部の部屋に突入できるさー』


ジョンの静かな怒りを含んだ声を聞き、マオはゴーンとシーアの肩を叩いた。


「……ゴーン、シーア。命を弄ぶ悪党どもに、ちょっとキツめのお仕置きが必要なんとちゃうか?」


「……承知したごわす! マオ殿、今日の俺たちのコンビネーションは完璧にごわすよ!」


***


牧場の地下、海中が見渡せる幹部室。

目を覚ました幹部(過激派の魔獣使い)が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。


「な、なんや貴様ら! どこから入り込みやがった!」


広間には、幹部と、完全武装した過激派の兵士たちがずらりと並んでいる。

その正面には、マオたち三人と、静かに怒りのオーラを燃やすジョンが立ち塞がっていた。


「マオ殿。いくごわす!」


ゴーンが一歩前へ出て、幹部をビシッと指差した。


「こ、この御方を……どなたと心得る!!」


『よっしゃ!! 淀みない完璧なパスや!』


マオが内心で絶賛するのと同時に、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。


「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」


圧倒的な魔力の波動が幹部室を包み込む。

マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。


「……余の顔を見忘れたか?」


しんと、静まり返る幹部室。

海中風呂から上がってバスタオルに包まっていた監視役のシノブも、『わ、今日もきっちりこの茶番劇だべ……でもやっぱりちょっとカッコいいべ』と、その完成度の高さに見惚れていた。


幹部は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。


「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな南の島に……!」


だが、次の瞬間。

幹部の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。


「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」


『よっしゃ! 完璧なテンプレ開き直り! これを聞かなきゃ1話が終わらんわ!』


「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様と共に、軍用牛の部隊で人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! 出会えぇぇええ!!」


幹部の号令で、兵士たちが一斉に襲いかかってくる。


「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」

「チェストォォォ!!」


シーアの重圧魔法が兵士たちを床に叩きつけ、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて吹き飛ばす。


「石垣の牛さんをいじめるな、さー!!」


影から影へと高速で転移したジョンが、幹部の背後に回り込み、持っていたロープで瞬く間に幹部を縛り上げる。


「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」


『わあぁぁっ!? なしてわだばバスタオルのまま戦わなきゃなんねぇんだべ!』


おリンに背中を押される形で風呂場から飛び出したシノブ。

文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りの手下たちを次々と昏倒させていく。


「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」


完全に無力化され、震え上がる幹部。

マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。


「言語道断である。領民の財産を奪い、尊い命を己の野望の道具にするなど……万死に値する!」


***


事件解決後。

牧場は村人たちの手に戻り、安全な場所へ避難していた牛たちも無事に帰ってきた。

マオたちは村人たちから感謝され、念願だった『特上の石垣牛の焼肉』と『八重山そば』を満喫していた。


「いやー! 脂が甘くて口の中でとろけるわ! 八重山そばのピパーツ(島胡椒)の香りも最高やな!」

「マオ殿、お肉お代わりごわす!」

「僕の故郷の島々を助けてくれて、にーふぁいゆー(ありがとう)さー」


大満足で舌鼓を打つマオ、ゴーン、ジョン。

その横で、シーアはまだグラスボートの案内をする娘たちの方から目を離さずにいた。


「ええどすなぁ……あの船の揺れ……じゅるり」


そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてバスタオル姿で戦わされたシノブが、焼肉を頬張りながらため息をついていた。


『わ、着替える暇も与えられねぇでタダ働きさせられて……ほんと、割に合わない任務だべさ……でも肉はなまら美味いべ』


【ナレーション】

こうして、石垣風エリアの平和と極上の石垣牛は守られました。

ザウードの企みを次々と潰していくマオたち。アイランドホッピングの旅は、いよいよ最後の島『宮古風エリア』へと続いていきます! さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!

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