第14話:沖縄風エリア(本島)と要塞基地
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
奄美大島を後にしたマオ一行のアイランドホッピングの旅は、ついに最大の島『沖縄風エリア(本島)』へとやってまいりました。
ここは亜熱帯の気候と、独自の文化が入り混じる美しい南国の島。そして、マオのパーティーの密偵、ジョン(影走のジョージ)の故郷でもあります。
***
「いやー、めんそーれ! ついに沖縄本島や! どこまでも続く青い海と白い砂浜! 昼飯は絶対に、三枚肉が乗った沖縄そばと、ゴーヤーチャンプルーやで!」
透き通るようなビーチを前に、マオが両手を広げて深呼吸をする。
「マオ殿。この強い日差しを舐めてはいかんごわす。ちゃんと水分補給をしないと、干からびるごわすよ」
相変わらずオカン属性のゴーンの横で、シーアは完全に別のものに目を奪われていた。
「おお……あちらに見えるは、伝統的な染め物『琉球紅型』の着物をまとった娘さんたち! 南国特有の鮮やかな色彩に映える、健康的な小麦色の肌! あわよくば、私が三線の弾き方を教わるふりをして、背後から優しく手を……じゅるり」
シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。
「お前、着物と太ももがあったらどこでもええんやな」
マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……またか。せっかくの波の音が台無しやで」
マオが嫌そうな顔で通信ボタンを押すと。
『ボリッ、ガリッ、ボリボリボリッ……!』
「……ベルゼ。お前、ついに胃薬のビンごと噛み砕いとるんか」
『……マオ様! 奄美風エリアでの軍船破壊の事後処理で、環境保護団体からのクレーム処理に追われているというのに……通信の魔力探知が、沖縄本島を示しているんですが!? どこまで南下する気ですか! これ以上、過激派の施設を派手にぶっ壊さな……あぁっ、私の胃壁がシーサーのように……!』
「あ、ごめん! ちょっと三線の音が大きくて、電波が……ザザッ」
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】 はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、再びエメラルドグリーンの海へと消えていきました。
……さて。そんなマオたちの様子を、ハイビスカスの陰からジッと見つめる一つの影がありました。
『……獣王様。対象は今日も、呑気に沖縄そばの話コしてるだげだじゃ。わ、なしてこんた南国で、ハイビスカスの陰さ隠れなきゃなんねぇんだべか……』
監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。
南国の容赦ない日差しと、毎回おリンの風呂に巻き込まれる疲労により、彼女の津軽弁のツッコミには悲哀がこもっていた。
***
気を取り直して、ジョンの故郷である集落へ入ったマオたちだったが、村の様子がおかしい。
陽気な三線の音はなく、村人たちが暗い顔をしてうつむいているのだ。
「なんや、活気がないなぁ。ジョン、お前の故郷どないしたんや?」
ジョンが近くの村人に尋ねると、村人は小声で教えてくれた。
「ハイサイ……実は最近、過激派のザウード様を名乗る連中が、村の裏手の美しい海を埋め立てて、勝手にデカい『要塞基地』を作ったさぁ」
「要塞基地やと?」
「そうさぁ。魔法の飛行船を昼夜問わず飛ばすから騒音で眠れないし、わったー(俺たち)の畑のゴーヤーやポーク(魔物肉)も、全部基地の食料として強制徴収されて……でーじ(凄く)困ってるさぁ」
その言葉を聞いた瞬間、マオの目の色が変わった。
そして、いつもはのんびりしているジョンの声が、スッと冷たくなった。
「マオにぃにぃ。僕の故郷の綺麗な海を汚して、村のみんなを泣かせる悪いやつら……絶対に許さないさー」
「あぁ。領民の生活と美しい自然を脅かし、あまつさえ戦争の準備をするなど……万死に値するやろ!」
マオがブチギレそうになったその時。
懐の通信魔導具が、再びブルブルと震えた。
「おっ、おリンか?」
マオが路地裏に身を隠し、通話ボタンを押すと。
『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』
『わあぁぁっ!? なしてわだば、こんな見晴らしのいいとこで水着さ着せられてんだべ! 下の兵士たちから丸見えだべさ!』
ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブのパニック気味な悲鳴が響いた。
「……お前ら、今回はどんな風呂入っとんねん」
『よかたい。要塞基地のてっぺんの司令官室に、海と一体化して見える『インフィニティプール』があったけんね。お湯張って入ってみたら、絶景で最高ばい。野良猫ちゃんは、水着が恥ずかしいって泣いとるけど』
要塞の屋上。美しい海を見下ろす豪華なプール風呂で、おリンはきわどい水着姿で豊かなプロポーションを輝かせ、シノブの頭に手ぬぐいを乗せてあげていた。
『司令官しゃんは、私が色仕掛けで泡盛ば飲ませて、奥のソファーで爆睡しとるよ。裏帳簿によると、この基地を足場にして、人間領へ一斉に空爆を仕掛けるつもりみたいやね』
「ザウードのやつ、ついに本格的に動き出しとるな」
マオの目が、スッと細くなる。
『マオにぃにぃ。僕、もう我慢できないさー。いつでも突入できるさー!』
ジョンの静かな怒りを含んだ声を聞き、マオはゴーンとシーアの肩を叩いた。
「……ゴーン、シーア。ジョンの故郷を汚した悪党どもに、ちょっとキツめのお仕置きが必要なんとちゃうか?」
「……承知したごわす! マオ殿、今日の俺の口上は完璧にごわすよ!」
***
要塞基地の最上階、司令官室。
目を覚ました司令官(完全武装の重戦士)が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「な、なんや貴様ら! どこから入り込みやがった!」
広間には、司令官と、完全武装した過激派の兵士たちがずらりと並んでいる。
その正面には、マオたち三人と、静かに怒りのオーラを燃やすジョンが立ち塞がっていた。
「マオ殿。今日の練習の成果、見せるごわす!」
ゴーンが一歩前へ出て、司令官をビシッと指差した。
「こ、この御方を……どなたと心得る!!」
『よっしゃ!! 奄美に続いて「ごわす」抜き完璧や! もうすっかりモノにしたな!』
マオが内心で絶賛するのと同時に、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。
「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」
圧倒的な魔力の波動が司令官室を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返る司令官室。
プールから上がってタオルに包まっていた監視役のシノブも、『わ、今日もきっちりこの茶番劇だべ……』と頭を抱えつつ、その様式美に少し安心感を覚えていた。
司令官は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな最南端の基地に……!」
だが、次の瞬間。
司令官の顔が醜く歪み、待ってましたと言わんばかりの開き直りの言葉を叫んだ。
「……待てや! 貴様ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」
『よっしゃ! 完璧な開き直り! この瞬間のために旅しとるようなもんや!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 我らは過激派のザウード様と共に、この要塞から人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! 出会えぇぇええ!!」
司令官の号令で、兵士たちが一斉に襲いかかってくる。
「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」
「チェストォォォ!!」
シーアの重圧魔法が兵士たちを床に叩きつけ、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて吹き飛ばす。
だが、今回一番速かったのはジョンだった。
「僕の故郷を汚すな、さー!!」
影から影へと高速で転移したジョンが、司令官の背後に回り込み、持っていた泡盛の瓶で後頭部を強打する。
「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」
『わあぁぁっ!? なしてわだば水着のまま戦わなきゃなんねぇんだべ!』
おリンに背中を押される形でプールサイドから飛び降りたシノブ。
文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りの手下たちを次々と昏倒させていく。
「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」
完全に無力化され、震え上がる司令官。
マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。
「言語道断である。領民の平穏な生活を脅かし、美しい海を己の野望の道具にするなど……万死に値する!」
***
事件解決後。
要塞基地の機能は完全に停止し、村には再び活気と陽気な三線の音が戻っていた。
マオたちは村人たちから感謝され、念願だった『三枚肉の沖縄そば』と『ゴーヤーチャンプルー』を満喫していた。
「いやー! 豚の出汁が効いたスープに、スパムとゴーヤーの苦味が最高やな!」
「マオ殿、お代わりごわす!」
「僕の故郷を助けてくれて、にふぇーでーびる(ありがとう)さー」
大満足で舌鼓を打つマオ、ゴーン、ジョン。
その横で、シーアはまだ琉球紅型をまとって踊る娘たちから目を離さずにいた。
「ええどすなぁ……あのしなやかな腰つき……じゅるり」
そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれて水着で戦わされたシノブが、揚げたてのサーターアンダギーをかじりながらため息をついていた。
『わ、水着姿さ兵士に見られて、タダ働きさせられて……ほんと、割に合わない任務だべさ……』
【ナレーション】
こうして、沖縄本島の美しい海と平和は守られました。
しかし、ザウードの企みは沖縄の他の島々にも及んでいるようです。
マオたちのアイランドホッピングの旅は、石垣風エリア、宮古風エリアへと続いていきます! さて、次はどんな悪党が待ち受けているのやら!




