第13話:奄美風エリアと黒糖の甘い罠
【ナレーション】 皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。 鹿児島風エリアでの壮絶な親子喧嘩を終えた一行。 「せっかく港町におるんやから、南の島巡りせな勿体ないやろ!」というマオの意見により、一行は船に乗って一気に南下し『沖縄方面アイランドホッピングルート』へと突入いたしました! まず最初に上陸したのは、透き通る青い海と広大なマングローブの森が広がる自然の宝庫、『奄美風エリア』であります!
***
「いやー! 海風が気持ちええなぁ! 奄美言うたら、美しい自然と、なんちゅうても名物の『鶏飯』や! 昼飯は絶対に、熱々の出汁をかけた鶏飯を腹一杯食うで!」
船を降りたマオが、燦々と降り注ぐ南国の太陽の下で大きく伸びをする。
「マオ殿。いくら南国とはいえ、浮かれすぎは禁物ごわす。足元のハブ(魔物)には気をつけるごわすよ」
相変わらず警戒を怠らないゴーンの横で、シーアは完全に別のものに目を奪われていた。
「おお……あちらに見えるは、伝統工芸の『大島紬』を織る娘さんたち! 泥染めの作業で泥にまみれた腕、そして高級な紬の着物からチラリと覗く白い足袋……! あわよくば、私がその泥を洗い流すふりをして……じゅるり」
シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。
「お前、泥まみれの娘さん見たらとりあえず『じゅるり』って言うシステムになっとるやろ」
マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……またか。せっかくの波の音が台無しやで」
マオが嫌そうな顔で通信ボタンを押すと。
『ボリッ、ガリッ、ボリボリボリッ……!』
「……ベルゼ。お前、挨拶なしで胃薬噛むのがデフォになったんか」
『……マオ様。鹿児島での屋敷吹き飛ばし事件の補償金と、新たに湧き出した天然温泉の権利関係の書類……一体誰が処理していると思ってるんですか? しかも、今度は南の島へ? どこまで南下する気ですか! 私の胃壁はもう……あぁっ、新薬の胃薬がもう空に……!』
「あ、ごめん! ちょっとマングローブの葉っぱが風で擦れる音で、電波が……ザザッ」
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】
はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、エメラルドグリーンの海へと消えていきました。
……さて。そんなマオたちの様子を、ヤシの木の陰からジッと見つめる一つの影がありました。
『……獣王様。対象は急に船さ乗って、南の島ばウロウロし始めただじゃ。わ、なしてこんた暑い島まで、毛皮の衣装のまま連れてこられたんだべか……』
監視役のくノ一、シノブ(青森・津軽出身)である。
すっかりおリンの「お風呂仲間」として定着してしまった彼女は、南国の暑さにぐったりとしながら、深いため息をついていた。
***
気を取り直して、名物の鶏飯を求めて村へ入ったマオたちだったが、村の様子がおかしい。
食堂はどこも閉まっており、村人たちが暗い顔をしてうつむいている。
「なんや、活気がないなぁ。どないしたん?」
マオが近くの村人に尋ねると、村人は小声で教えてくれた。
「それが……最近この島に赴任してきた悪徳代官が、ならず者の海賊たちと結託して、村の鶏や食材をむる(全部)買い占めてしもうただりょん。海賊たちの食い扶持にするためっち……」
「なんやて!? 領民のメシを奪うやと?」
「それだけじゃありょうらん。連中、神聖なマングローブの森を勝手に伐採して、巨大な『軍船』を何隻も造っとるんだりょっと。逆らう者は大島紬の織り子としてタダ働きさせられて……」
その言葉を聞いた瞬間、マオの目の色が変わった。
「……なるほどな。領民の楽しみである鶏飯を奪い、自然を破壊して戦争の道具を作っとると。……それは万死に値するやろ!」
マオがブチギレそうになったその時。
懐の通信魔導具が、再びブルブルと震えた。
「おっ、おリンか?」
マオが路地裏に身を隠し、通話ボタンを押すと。
『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』
『わあぁぁっ!? なしてこんた甘ったるいお湯さ入れられてんだべ! 全身ベタベタすんべさ!』
ちゃぷん……という水音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブのパニック気味な悲鳴が響いた。
「……お前ら、今回はどんな風呂入っとんねん」
『よかたい。マングローブの森の奥にある海賊の拠点に、名物の『黒糖』を作るための巨大なすり鉢状の鍋があったけんね。お湯張って黒糖ば少し溶かしてみたら、甘い香りの『黒糖風呂』になってお肌が保湿されるばい。野良猫ちゃんはベタベタするって泣いとるけど』
森の奥の秘密基地。その片隅に作られた即席の黒糖風呂で、おリンは豊かなプロポーションを甘い香りの湯に沈め、シノブの頭に手ぬぐいを乗せてあげていた。
『代官しゃんは、私が色仕掛けで黒糖焼酎ば飲ませて、奥のテントで爆睡しとるよ。裏帳簿によると、ここで造っとる軍船は、やっぱり過激派のザウードに納品する予定みたいやね。本土への逆上陸作戦に使うって書いとるばい』
「ザウード……こんな南の島まで手ぇ回しとんのか」
マオの目が、スッと細くなる。
『マオにぃにぃ。僕もバッチリ、軍船の図面の入った金庫の鍵を開けといたさー。いつでも突入できるさー』
ジョンののんびりした声を聞き、マオはゴーンの肩をポンと叩いた。
「……ゴーン、シーア。あの悪代官と海賊どもに、ちょっとキツめのお仕置きが必要なんとちゃうか?」
「……承知したごわす! マオ殿、今日の俺は一味違うごわすよ!」
***
マングローブの森の奥深く。海賊たちの伐採キャンプ地。
最大のテントの中で、目を覚ました悪徳代官が顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「な、なんやなーきゃ(お前ら)は! どこから入り込みやがったっち!」
テントの周囲には、代官と、完全武装した海賊たちがずらりと並んでいる。
その正面には、マオたち三人が悠然と立ち塞がっていた。
「マオ殿。今日の練習の成果、見せるごわす!」
「ええ、私の印籠のタメも完璧どすえ」
ゴーンとシーアが目配せをする。
マオが扇子をパチンと鳴らして一歩下がると、ゴーンが前へ出て、悪徳代官をビシッと指差した。
「こ、この御方を……どなたと心得る!!」
『……おっ!!』 マオの目が大きく見開かれた。 親父への緊張から解放されたゴーンは、語尾の「ごわす」を我慢し、完璧な口上を言い切ったのだ。
その完璧なパスを受け、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。
「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」
圧倒的な魔力の波動がテント周辺を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返るキャンプ地。
木の上から覗いていた監視役のシノブも、『わ、今日もきっちりこの茶番劇だべ……でもちょっと上達してるべ』と頭を抱えつつ感心している。
代官は印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな南の島に……!」
だが、次の瞬間。
代官の顔が醜く歪み、開き直りの言葉を叫んだ。
「……待てや! なーきゃ、わん(俺)を騙そうたってそうはいかんっち! 魔王様ならコテコテの関西弁だりょろが! なんでそんな気取った標準語なんや!」
『よっしゃ! 今日も素晴らしい開き直り! これがないとな!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けや! わんきゃ(俺たち)は過激派のザウード様と共に、この軍船で人間領に逆上陸するんや! 本物だろうが偽物だろうが関係ねぇ! マングローブの肥やしにしてやるっち! 出会えぇぇええ!!」
代官の号令で、海賊たちが一斉に襲いかかってくる。
「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」
「チェストォォォ!!」
シーアの重圧魔法が海賊たちを地面に縫い付け、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、彼らをまとめて切り株の山ごと吹き飛ばす。
「隙だらけさー」
「お仕置きばい。野良猫ちゃんも、手伝ってんね!」
『わあぁぁっ!? なしてわが戦わなきゃなんねぇんだべ! 全身ベタベタして動きづらいだべさ!』
おリンに背中を押される形で木の上から飛び降りたシノブ。
文句を言いながらも、俊敏な身のこなしと『津軽流・猫だまし』の格闘術で、残りの手下たちを次々と昏倒させていく。
「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」
完全に無力化され、震え上がる代官。
マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。
「言語道断である。領民の食を奪い、神聖な自然を己の野望のために破壊するなど……万死に値する!」
***
事件解決後。
海賊たちは捕縛され、村には活気と鶏肉が戻っていた。
マオたちは村人たちから感謝され、念願だった『鶏飯』を満喫していた。
「いやー! 炊き立てのご飯に、鶏の旨味が詰まった黄金の出汁! パパイヤの漬物もええアクセントで最高やな!」
「マオ殿、ご飯お代わりごわす!」
大満足で舌鼓を打つマオとゴーン。
その横で、シーアはまだ大島紬を織る娘たちから目を離さずにいた。
「ええどすなぁ……あの繊細な指先の動き……じゅるり」
そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれて戦わされたシノブが、甘い黒糖の匂いを漂わせながら鶏飯をかじっていた。
『わ、黒糖風呂さ入れられて、タダ働きさせられて……ほんと、割に合わない任務だべさ……』
【ナレーション】
こうして、奄美風エリアの自然と鶏飯の平和は守られました。
背後で暗躍を続ける「過激派ザウード」。彼の軍船建造計画を潰したマオたちですが、アイランドホッピングの旅はまだまだ続くようです。
さて、次はついに最大の島『沖縄風エリア(本島)』! どんな悪党が待ち受けているのやら!




