第12話:鹿児島風エリアと頑固親父(後編)
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
黒幕ザウードの扇動により、ついに激突してしまった前四天王のゴウラと、その息子である現四天王のゴーン。
大広間を吹き飛ばすほどの凄まじい覇気と覇気がぶつかり合い、鹿児島風エリアの屋敷は、まさに活火山のような熱気に包まれておりました。
***
「甘いごわす、親父殿ォ!!」
「ほざけ愚息が! その鈍らな一撃で、このワシを止められると思うたか!!」
ガァァァン!! と、巨大な金棒と大剣がぶつかり合い、火花が散る。
ゴウラの一撃は重く、鋭い。さすがは先の戦争を生き抜いた歴戦の武将である。ゴーンは防戦一方に押し込まれていた。
「人間とヘラヘラ笑い合うような平和ボケのせいで、貴様の牙はすっかり抜け落ちてしもうたわ! そんな貧弱な力では、魔族の誇りは守れん!」
ゴウラがさらに踏み込み、大剣を振り下ろす。
その様子を、宙に浮かぶホログラムのザウードがゲラゲラと笑いながら見下ろしていた。
『ひゃーっはっは! ええぞゴウラ殿! その偽物の魔王ごと、腑抜けの息子を叩き斬ってしまえ! 同士討ちの傑作じゃのう!』
広島弁で煽り立てるザウード。
その騒音に、マオは不快そうに眉をひそめた。
「……あいつ、さっきからギャーギャーやかましいな。ジョン」
「はいさー、マオにぃにぃ」
影の中からスッと現れたジョンが、ホログラムを投影している怪しい魔導具の背後に回り込む。
「ちょっと黙るさー」
ガンッ! とジョンが短剣の柄で魔導具を叩き割ると、ザウードのホログラムは『あ? なにをす……』という言葉を残してプツンと消滅した。
「よし、これで静かになったわ。ゴーン! 周りの音は消したったで! あとは親子の対話(物理)に集中せんかい!」
マオの檄が飛ぶ。
ゴーンは親父の剣を真正面から受け止めながら、ニヤリと笑った。
「感謝するごわす、マオ殿! ……親父殿! 俺の牙は抜け落ちてなどおらんごわす! マオ殿との世直しの旅で、俺は『真の強さ』を知ったごわす!!」
ゴーンの全身から、これまでとは比べ物にならないほどの膨大な闘気が立ち昇る。
それは、ただ敵を殺すための殺意ではない。弱き者を守り、平和な世を維持するための、揺るぎない覚悟のオーラだった。
「な、なんじゃと……!?」
ゴウラが目を見張る。
「いくごわす!! 薩摩風・奥義……!!」
ゴーンが金棒を大きく振りかぶる。
ゴウラもそれに呼応し、全魔力を大剣に込めて迎え撃った。
「チェストォォォォォ!!」
「チェストォォォォォ!!」
二人の咆哮が重なり合い、最強の一撃が交差する。
ドゴォォォォォン!!!
凄まじい爆発音が轟き、屋敷の屋根が完全に吹き飛んだ。
もうもうと立ち込める粉塵が晴れた後……そこに立っていたのは、金棒を振り抜いた姿勢のゴーンだった。
カラン……。
ゴウラの持っていた大剣が、真っ二つに折れて床に転がる。
「……見事な一撃じゃ。まさか、ワシの剣を真正面から打ち砕くとはな……」
ゴウラはドサリと膝をつき、潔く負けを認めた。
「親父殿……俺たちは、確かに人間を許してはいないごわす。だが、マオ殿が作ってくれたこの平和な世界で、皆が美味い飯を食い、笑い合える日々……俺は、それを守るために戦うと決めたごわすよ」
ゴーンの言葉に、ゴウラはハッと息を呑んだ。
マオがゆっくりと歩み寄り、膝をつくゴウラを見下ろす。
その顔には、先ほどの冷酷な魔王の威厳はなく、いつもの気さくな青年の笑顔があった。
「親父さん。あんたの世代が命懸けで戦ってくれたからこそ、今の平和があるんや。それに、あんたが息子を厳しく育ててくれたおかげで、ゴーンはええ漢に育ったで。感謝しとる」
マオはしゃがみ込み、ゴウラの肩にポンと手を置いた。
「戦争はもう終わったんや。これからは、黒豚のしゃぶしゃぶでも食いながら、息子の自慢話でもして余生を楽しんでや。……ザウードとかいう過激派の悪巧みは、俺が全部ぶっ潰したるさかいな」
その言葉と、底知れぬ器の大きさに触れ。
ゴウラはポロポロと涙をこぼし、深く、深く頭を下げた。
「……ぜアノス様(マオの本名)……! この老いぼれの愚行、どうかお許しくだされ……! そして、どうか愚息を……これからもよろしくお頼み申す……!」
「親父殿ぉぉ……!」
ゴーンも涙を流し、親父と熱い抱擁を交わした。
『わ、本当に何を見せられとるんだべか、これ』
天井裏では、シノブが相変わらず頭を抱えていた。
***
その数分後。
マオの懐の通信魔導具が、ブルブルと震えた。
「おっ、おリンか?」
マオが通話ボタンを押すと、ザバァァン……と、豪快な湯の音が響いた。
『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、無事に終わったみたいやね』
『わ、砂むし温泉の黒い砂が、髪の毛の奥まで入って洗うの大変だべさ……痛いべ!』
「お前ら、今はどこにおるんや」
『よかたい。親父しゃんの屋敷が半分吹き飛んだおかげで、地下から天然の温泉が湧き出して、立派な『露天風呂』ができとったけんね。桜島(風の火山)を眺めながらの入浴、最高ばい! 砂も綺麗に落ちるしね』
激戦の跡地である屋敷の庭に出来た即席の露天風呂で、おリンは豊かなプロポーションを伸ばし、シノブの背中を流してあげていた。
「ほんま、お前らの風呂への執念には恐れ入るわ」
通話を切ったマオの後ろで、シーアが扇子をパタパタと仰ぎながら、ニチャァ……と笑っていた。
「ふふ……ええおすなぁ。屋敷の片付けと、怪我人の手当てに駆け回るメイドさんたち! 汗ばんだメイド服と、包帯を巻く時の真剣な横顔……あわよくば、私も怪我をしたふりをして膝枕を……じゅるり」
「お前もブレへんなぁ!」
マオがシーアの後頭部を軽くスリッパ(どこから出したのか)で叩く。
***
事件解決後。
マオたちはゴウラの屋敷で、念願だった『黒豚のしゃぶしゃぶ』と『揚げたてのさつま揚げ』を腹一杯にご馳走になっていた。
「いやー! 九州最南端の黒豚、脂が甘くて最高やな! 親父さんも、もっと食いや!」 「ははっ、ぜアノス様もお召し上がりくだされ! ゴウドンも遠慮はいらんぞ!」
すっかり憑き物が落ち、好々爺のようになったゴウラが、マオの皿にどんどん肉を追加していく。
「マオ殿、お代わりごわす!」
「私も、メイドさんのお酌でお酒を……じゅるり」
大満足で舌鼓を打つマオたち。
そして部屋の隅では、すっかりおリンに洗われたシノブが、湯上がりの姿でさつま揚げをかじっていた。
『わ、なんだかんだで美味いもんばっかり食わせてもらってるべ……。このアホな旅も、悪くない気がしてきただべさ……』
【ナレーション】 こうして、鹿児島風エリアでの親子喧嘩は、見事に大団円を迎えました。 しかし、ついに直接宣戦布告をしてきた過激派のリーダー・ザウード。彼の企みは、まだまだ魔族領の各地に根を張っているようです。 マオたちの気まぐれな世直し道中は、どんな悪党(とご当地グルメ)が待ち受けているのやら!




