第11話:鹿児島風エリアと頑固親父(前編)
【ナレーション】
皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。
宮崎での野球キャンプ騒動を解決したマオ一行は、九州エリアの最南端……雄大な活火山を臨む『鹿児島風エリア』へとやってまいりました。
そしてここは、我らが四天王の随一の武闘派、ゴーン(本名:ゴウドン)の故郷でもあります。
***
「いやー、九州の最南端! 景色が雄大やなぁ! 今日の昼飯は絶対に、黒豚のしゃぶしゃぶと、揚げたてのさつま揚げ、それに甘ーいサツマイモや!」
頭にゴム製の角をつけたマオが、火山の噴煙を見上げながら上機嫌で歩いている。
「マオ殿、あまり大声を出さないでほしいごわす。……ここら辺は俺の親父殿の治める領地。もし見つかったら、『お忍びでふらふらするな!』と大目玉を食らうごわすよ」
いつもは堂々としている巨漢のゴーンだが、故郷に入ってからというもの、やけに周囲をキョロキョロと気にして冷や汗を流している。どうやら、相当厳しい父親らしい。
その横で、シーア(京都弁)は相変わらず別のものに目を奪われていた。
「おお……あちらのサツマイモ畑で働く娘さんたち! 伝統的な絣の野良着が、汗で肌に張り付いて……! 健康的な太ももと泥にまみれた手! あわよくば、私が芋掘りを手伝うふりをして、畑の陰で一緒に……じゅるり」
シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。
「お前、とうとう農作業フェチにまで目ぇ覚ましたんか」
マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。
ビロロロロ! ビロロロロ!
「……またか。ほんま、ええ加減にしてほしいで」
マオが嫌そうな顔で通信ボタンを押すと。
『ボリッ、ガリッ、ボリボリボリッ……!』
「……ベルゼ。お前、ついに挨拶もなしで胃薬噛むようになったんか」
『……マオ様。あなた、今どこにいるんですか? 通信魔導具のGPS(広域魔力探知)が、九州の最南端を示しているんですが。首都から遠くなればなるほど、通信の魔力消費量が跳ね上がって、維持費がバカにならないんですよ!? まさか、そのまま沖縄方面まで行く気じゃ……あぁっ、新薬の胃薬がもう空に……!』
「あ、ごめん! ちょっと活火山の火山灰が舞ってて、電波が……ザザッ」
マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。
【ナレーション】
はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相の悲痛な叫びは、雄大な桜島(風の火山)の噴煙の中へ消えていきました。ちなみにマオの言う通り、この後は海を渡って沖縄方面へ行く予定です。宰相の胃壁、本当に応援しています。
***
気を取り直して城下町へ入ったマオたちだったが、街の様子が明らかにおかしい。
黒豚のしゃぶしゃぶを楽しむような和やかな雰囲気はなく、完全武装したオーガ系の魔族たちが、隊列を組んで慌ただしく行軍しているのだ。
「なんやこれ、まるで戦の準備でもしとるみたいやな」
マオが近くの茶屋の店主に尋ねると、店主は小声で教えてくれた。
「それが……前四天王の『ゴウラ』様が、急に軍を興すと言い出しましてな。過激派の連中から武器を買い集めて、人間領へ攻め入る準備をしとるんですわ」
「なんやて!?」
マオが思わず大声を上げる。
「親父殿が……!? あの御方は誰よりも規律を重んじる堅物。条約を破って勝手に軍を動かすなど、あり得んごわす!」
ゴーンが混乱する中、マオの懐の通信魔導具がブルブルと震えた。
「おっ、おリンか?」
マオが路地裏に身を隠し、通話ボタンを押すと。
『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』
『わあぁぁっ!? なしてわが生き埋めにされてるだべか!? 首から下ば、全部砂の中だべ! 重いべさ!』
ザッ、ザッ……という砂を掘る音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブ(青森・津軽出身)のパニック気味な悲鳴が響いた。
「……お前ら、今回はどんな風呂入っとんねん」
『よかたい。親父しゃんの屋敷の裏手、海沿いに名物の『砂むし温泉』があったけんね。温かい砂を首までかけてもらうと、デトックス効果でお肌がツルツルになるばい。野良猫ちゃんは生き埋めって泣いとるけど』
波の音が聞こえる海辺の砂浜。おリンとシノブは、首から下をすっぽりと黒い砂に埋められ、顔だけを出してシュールに並んでいた。
『親父しゃんの屋敷の広間から、通信の音が聞こえたっちゃんね。どうやら、例の過激派の黒幕『ザウード』ってやつと、直接ホログラムで通信会議しとるみたいばい』
「ザウード……! ついに親玉が直接出てきたか」
マオの目が、スッと細くなる。
『ザウードが「魔王は腑抜けになった。今のうちに人間を叩くべきだ」って親父しゃんをそそのかして、大量の違法兵器を送り込んどるみたいやね』
『マオにぃにぃ。僕もバッチリ、屋敷の裏口の鍵を開けといたさー。いつでも突入できるさー』
ジョンののんびりした声を聞き、マオはゴーンの肩をポンと叩いた。
「……ゴーン。お前の親父さん、悪い奴に騙されて頭に血が上っとるみたいやな。ちょっと、家族の話し合い(物理)が必要なんとちゃうか?」
「……面目ないごわす、マオ殿。親父殿の目を覚まさせるため、俺が先陣を切るごわす!!」
***
ゴウラの屋敷、大広間。
そこには、歴戦の猛者である前四天王・ゴウラ(ゴーンの父)が胡座をかき、宙に浮かぶホログラムの映像と対峙していた。
映像に映っているのは、顔に大きな傷を持つ、荒々しい風貌の男。 過激派の黒幕・ザウードである。
『ひひっ。さすがは武神ゴウラ殿じゃ。見事な軍の仕上がりじゃのう。これで忌々しい人間どもを火の海にできるけえ』
ザウードが広島弁交じりでゲラゲラと笑う。
「ふん。ワシは貴様の野望に加担したわけではない。ただ、腑抜けになった今の魔王様と、あまつさえその遊びに付き合っている愚息の目を覚まさせるため……」
ゴウラがそう言いかけた、その時。
ドゴォォォン!!
大広間の頑丈な襖が、木っ端微塵に吹き飛んだ。
「その愚息が、直接説教しに来たごわすよ!!」
粉塵の中から、ゴーンが巨大な金棒を肩に担いで姿を現した。
その後ろには、マオとシーアが悠然と続いている。
「ゴ、ゴウドン……!? きさま、なぜここに!」
驚くゴウラの横で、ホログラムのザウードがニヤリと笑った。
『おお、現四天王のゴウドンか。……わざわざ田舎まで遊びに来るとは、腑抜けの部下ってわけじゃの』
ザウードの挑発的な視線が向けられる。
「マオ殿。今回は俺がビシッと決めるごわす!」
「ええ、親父殿の前で、立派なタメを見せておやりやす」
ゴーンが一歩前へ出て、実の父親であるゴウラと、ホログラムのザウードをビシッと指差した。
「親父殿! そして画面の向こうの悪党! こ、この御方を……どなたと心得るごわす!!」
『あ、やっぱり親父の前で緊張すると「ごわす」が付くんやな』
マオが内心でズッコケるのと同時に、シーアが優雅な手つきで『魔王の印(印籠)』を突き出す。
「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」
圧倒的な魔力の波動が大広間を包み込む。
マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。
「……余の顔を見忘れたか?」
しんと、静まり返る大広間。
砂むし温泉から抜け出し、天井裏に潜んでいたシノブも、『わ、親子の再会でもこの茶番劇やるだべか……』と頭を抱えている。
ゴウラは印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。
「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なぜこんな辺境の屋敷に……!?」
だが、次の瞬間。
ホログラムのザウードが大爆笑した。
『ギャハハハ! 傑作じゃのう! 何が魔王様じゃ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ! 三流の偽物め!』
『よっしゃ! 黒幕直々のテンプレ開き直りきたで!』
「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ゴウラ殿、そいつらをここで消し去って、謀反の狼煙を上げるんじゃ! 殺れぇ!!」
ザウードの扇動を受け、ゴウラの顔が武鬼のように歪む。
「……魔王様をたぶらかし、平和ボケの道へ引きずり込む愚息め……! 許さん! ワシ自ら、貴様らを叩き潰してくれるわ!!」
ゴウラが巨大な大剣を抜き放ち、猛烈な覇気を放ちながらマオたちに向かって飛びかかってきた。
「親父殿……チェストォォォ!!」
ゴーンも金棒を振りかぶり、親父の剣を真正面から受け止める。
凄まじい衝撃波が大広間を吹き飛ばした。
【ナレーション】
こうして、鹿児島風エリアでの、前四天王と現四天王による壮絶な「親子喧嘩」が幕を開けました!
ザウードの企みを打ち砕き、ゴーンは親父の目を覚まさせることができるのでしょうか!?
怒涛の解決編となる第12話へ続きます!




