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第10話:宮崎風エリアと南国キャンプ地

【ナレーション】

皆様、こんにちは。語り部兼、傍観者の私です。

大分での過激派工場ぶっ潰し事件を終えたマオ一行は、九州エリアをさらに南下し、青い海とヤシの木が立ち並ぶ『宮崎風エリア』へとやってまいりました。

気候はすっかり南国。そしてここ宮崎といえば……そう、我が『虎チーム』の、もう一つの春季キャンプ地であります!


***


「っしゃあ! 宮崎言うたら、地鶏の炭火焼きと完熟マンゴー! それになんちゅうても、虎チームの南国キャンプや! 愛媛の時みたいに、絶対に邪魔はさせへんで!」


ヤシの木が揺れる海沿いの街道を、マオがメガホン片手に意気揚々と歩いている。


「マオ殿。南国の日差しは予想以上に体力を奪うごわす。こまめに水分補給をしないと、熱中症で倒れるごわすよ」


相変わらずのオカンぶりを発揮するゴーン(薩摩弁)の横で、シーア(京都弁)は完全に別のものに目を奪われていた。


「おお……あちらに見えるは、観光客を歓迎する『腰蓑(こしみの)ダンス』の娘さんたち……! 健康的に日焼けした肌と、腰を振るたびに揺れる見事なくびれ! 飛び散る汗! あわよくば、私がウクレレを弾くふりをして裏の茂みに……じゅるり」


シーアが扇子で口元を隠しながら、相変わらずのニチャァ……とした笑みを浮かべている。


「お前、南国に来たら絶対それ言うと思ったわ」


マオが呆れてツッコミを入れたその時、懐の通信魔導具がけたたましく鳴り響いた。


ビロロロロ! ビロロロロ!


「……またか。せっかくの南国の波の音が台無しやで」


マオが嫌そうな顔で通信ボタンを押すと。


『ボリッ、ガリッ、ボリボリボリッ……!』


「……ベルゼ。お前、また胃薬噛み砕いとるんか」


『……マオ様。大分の過激派工場を丸ごと吹き飛ばした事後処理で、地主への賠償金がいくらかかったと思ってるんですか……? もう私の胃壁は限界です。ザウードの資金源を絶つのは結構ですが、これ以上、被害規模を広げないでくださ……ボリッ、ガリッ……あぁ、新薬でも痛みが……!』


「あ、ごめん! ちょっとヤシの木の葉っぱで電波が……ザザッ」


マオは一切の躊躇なく通話を切り、魔導具を懐にねじ込んだ。


【ナレーション】

はい、安定の強制終了ですね。ベルゼ宰相が新薬の胃薬を噛み砕く音が、南国の空に虚しく響き渡りました。彼の胃壁に平和が訪れる日は来るのでしょうか。


***


気を取り直して、虎チームのキャンプが行われているスタジアムへとやってきたマオたち。

しかし、グラウンドの様子がおかしい。選手たちが一様に暗い顔をしており、活気ある練習風景とは程遠いのだ。

バックネット裏には、柄の悪いヤクザ風の魔族たちが陣取り、監督や選手たちをねちねちと脅していた。


「おいコラ。てげ生意気な口叩くなや。今日の紅白戦(練習試合)、俺たちの言う通りに『わざと』エラーして負けんかったら、お前らの選手生命終わらせるっちゃが!」


宮崎風の訛り交じりで凄んでいるのは、このエリアの裏社会を牛耳る悪党のボスだ。


「な、無茶な! ファンが見とる前で八百長なんてできるか!」

「うるさいっちゃが! 俺たちはこの試合で大穴の野球賭博を開いとるんや! 逆らうなら、キャンプ地の宿舎に火をつけるぞ!」


『……なるほどな。神聖なキャンプ地で、堂々と野球賭博やと?』


マオの目が、スッと細くなる。愛媛の時と同様、野球絡みの悪事に対してはマオの怒りゲージの上昇が異常に早い。


マオが路地裏に身を隠し、通信ボタンを押すと。


『あ〜……極楽ばい。マオしゃん、聞こえとる?』

『わあぁぁっ!? なしてこんた波打ち際の洞窟さ全裸でいなきゃなんねぇんだべ! 塩水が目に染みるだべさ!』


ザパァァン! という激しい波の音と共に、おリンの艶っぽい声と、シノブ(青森・津軽出身)のパニック気味な悲鳴が響いた。


「……お前ら、今回はどこにおるんや」


『よかたい。スタジアムの裏手の海岸に、波に削られてできた『天然の洞窟風呂』があったけんね。満潮でちょっと波が荒いけど、マイナスイオンたっぷりで最高ばい。野良猫ちゃんは波かぶって溺れかけとるけど』


荒波が打ち寄せるワイルドな洞窟風呂で、おリンは豊かなプロポーションを波間に見え隠れさせながら、塩水でむせるシノブの背中をさすってあげていた。


『スタジアムのボスしゃんは、私が色仕掛けでお酒飲ませて、VIPロッジで爆睡しとるよ。裏帳簿によると、この野球賭博で稼いだ金も、やっぱり過激派のザウードに軍資金として送る予定みたいやね』


「ザウード……九州に入ってから、あいつの影が濃くなってきたな。……ジョンはどうや?」


『マオにぃにぃ。僕もバッチリ、裏の金庫の鍵を開けといたさー。ただ、グラウンドの方で八百長の試合が始まりそうさー』


「あかん、それは止めな! せや……シノブ!」


『……ゲホッ! わ、わだすだべか!?』


「お前、くノ一やから身体能力バツグンやろ。ちょっとグラウンドに出て、八百長ぶっ壊して時間稼ぎしてくれや!」


***


数分後。グラウンドのバッターボックス。

そこには、なぜかダボダボの虎チームのユニフォームを着せられ、バットを持たされたシノブの姿があった。


『わあぁぁっ!? なしてわが、こんな目立つとこで野球なんてやらされてるだべ!』


「おい、誰やあのチビの新人! まあいい、さっさと三振して八百長を成立させるっちゃが! ピッチャー、投げろ!」


悪党の息がかかったピッチャーが、剛速球を投げ込む。

その瞬間。シノブの亜人族特有の動体視力と、くノ一としての生存本能が覚醒した。


『わだば、早くこんな茶番終わらせて帰りたいだべーっ!!』


カキィィィィン!!


シノブがヤケクソで振ったバットがボールを完璧に捉え、白球はバックスクリーンを軽々と越えて場外へと消えていった。

津軽流・超特大ホームランである。


「な、なんやとぉ!? てげ飛ばしやがって! 八百長が台無しやっちゃが! あんな奴、グラウンドでぶち殺せ!」


VIPロッジから目を覚まして駆けつけてきたボスが、顔を真っ赤にして部下たちに命令を下す。

数十人の柄の悪い魔族たちが、武器を手にグラウンドへ雪崩れ込んだ。

シノブが『ひぃぃっ!』と逃げ惑う中、バックスクリーンの上から、マオたち三人が悠然と飛び降りてきた。


「マオ殿。今日の練習の成果、見せるごわす!」

「ええ、私の印籠のタメも完璧どすえ」


ゴーンとシーアが目配せをする。

マオが扇子をパチンと鳴らして一歩下がると、ゴーンが前へ出て、悪党のボスをビシッと指差した。


「こ、この御方を……どなたと心得る!!」


『……おっ!!』

マオの目が大きく見開かれた。

ついに、ゴーンが最後の「ごわす」を我慢し、完璧な口上を言い切ったのだ。


その完璧なパスを受け、シーアが流れるような優雅さで『魔王の印(印籠)』を突き出す。


「この紋所が目に入らぬかどすえ。こちらにおわす御方を……」


圧倒的な魔力の波動がグラウンドを包み込む。

マオは頭のゴム角を引き剥がし、威風堂々たる姿勢で、完璧な標準語を放った。


「……余の顔を見忘れたか?」


しんと、静まり返るスタジアム。

一塁ベースにしがみついていたシノブも、『わ、今日もきっちりこの茶番劇だべ……』と頭を抱えている。


ボスは印籠とマオの顔を見て、ガタガタと震え出した。


「ま、魔王、様……!? ば、馬鹿な、なんでこんな南国のキャンプ地に……!」


だが、次の瞬間。

ボスの顔が醜く歪み、テンプレ通りの開き直りの言葉を叫んだ。


「……待てや! お前ら、ワシを騙そうたってそうはいかんぞ! 魔王様ならコテコテの関西弁じゃろうが! なんでそんな気取った標準語なんじゃ!」


『よっしゃ! 今日も素晴らしい開き直り! この安心感よ!』


「それに! 魔王なんぞ、人間と手ぇ組んだ腑抜けじゃ! ワシらは過激派のザウード様と共に、賭博の金で人間領を火の海にするんじゃ! 本物だろうが偽物だろうが関係ない! ここで消し去って、グラウンドの肥やしにしてやるっちゃが! 出会えぇぇええ!!」


ボスの号令で、構成員たちが一斉に襲いかかってくる。


「やれやれ、往生際が悪いお人どすなぁ……お静まりやす」

「チェストォォォ!!」


シーアの重圧魔法が内野を制圧し、ゴーンの豪快な金棒が巻き起こす突風が、構成員たちをまとめてフェンス際まで吹き飛ばす。


「隙だらけさー」

「お仕置きばい。野良猫ちゃん、ナイスバッティングやったね!」


影から飛び出したジョンと、少し潮の香りがするおリンの連携により、残りの手下たちもあっという間に制圧された。


「ひぃぃ……お、お助けをぉ……」


完全に無力化され、震え上がるボス。

マオは冷酷な目で見下ろし、断罪の言葉を紡ぐ。


「言語道断である。領民の楽しみであり、神聖なスポーツである野球を、己の薄汚い賭博と戦争の道具にするなど……万死に値する!」


***


事件解決後。

マオたちは選手やファンたちから大いに感謝され、特等席で地鶏の炭火焼きと完熟マンゴーを満喫していた。


「いやー、やっぱり南国で食う地鶏は最高やな! キャンプの活気も戻ったし、ええ仕事したわ!」

「マオ殿、マンゴーお代わりごわす!」


大満足で舌鼓を打つマオとゴーン。

その横で、シーアはまだ腰蓑ダンスを踊る娘たちから目を離さずにいた。


「ええどすなぁ……あの躍動するくびれ……じゅるり」


そして一行の隅っこでは、すっかり巻き込まれてホームランまで打たされたシノブが、プルプルと震えながらマンゴーをかじっていた。


『わ、野球なんて二度とやらねぇだべ……ほんと、割に合わない任務だべさ……』


【ナレーション】

こうして、宮崎風エリアの野球キャンプ地の平和は守られました。

背後で暗躍を続ける「過激派ザウード」。彼の資金源をまた一つ潰したマオたちですが、九州エリアでの戦いはまだまだ続くようです。

さて、次はどんな悪党(とご当地グルメ)が待ち受けているのやら!

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