第43話 ライバルの真実
伸治が立ち去った後、俺は喉の渇きを覚え、荷物を置いたまま近くの自動販売機へと向かった。
その途中、派手な金髪とサイバー系の露出度の高い衣装が目に飛び込んできた。濱岸桃華だ。彼女も今日のイベントに参加しており、取り巻きのファンたちと談笑していたが、俺の姿を見つけるとスッと集団から離れて近づいてきた。
「あちゃー。亜久嶋さん、随分とボロボロですね☆それに……」
桃華はあざとい笑顔を浮かべたまま、俺の首元に巻かれたスカーフの隙間を指差した。
「それ、ナオマ様特製の『首輪』ですよね?やっぱり、亜久嶋さんもつけられちゃったんだ」
「……っ!お前、なんでこれを……」
俺が驚愕して後ずさると、桃華はケラケラと笑い、周囲を気にするように声を潜めた。
「だって、私もナオマ様のモノですから。私は実家の借金とか、裏アカの炎上とか、全部ナオマ様に助けてもらって……だから絶対逆らえないの☆」
「お、お前も……あいつの奴隷だったってわけか……っ」
俺は絶句した。
桃華は真緒菜をライバル視し、俺と組んで嫌がらせを仕掛けていたはずだった。俺が裏で糸を引き、桃華におならスピーカーのドッキリを仕掛けさせたあの夜間イベント。あれは俺の完全な計画だと思っていたのに。
「もしかして、あのドッキリも……」
「そうですよぉ。ナオマ様から裏で、『亜久嶋を泳がせて、一番いいタイミングでスイッチを押させなさい』って指示されてたんです。亜久嶋さん、自分が全部操ってるって勘違いしてて、見ててちょっと可哀想でしたけどね☆」
俺が仕組んだ桃華による真緒菜への嫌がらせは、すべて筒抜けだったのだ。それどころか、桃華は真緒菜の底知れぬ財力と冷酷な制裁によって、俺よりもずっと前に完全屈服させられていた。
「くそっ……俺は、ずっとあいつの掌の上で……」
「でもね、亜久嶋さん。逆らおうなんて無駄なこと、考えない方がいいですよ」
桃華は俺の胸元に指を這わせ、妖しく、そしてどこか壊れたような笑みを浮かべた。
「プライドなんて捨てちゃえばいいんです。自分で考えて悩むより、ナオマ様の言うことだけ聞いて、飼われてる方がずっと楽だし、気持ちいいじゃないですか☆」
「……っ」
承認欲求の塊だったはずの桃華が、完全に飼い慣らされ、依存しきっている。
その言葉は、先ほど鞭で打たれながら快感を覚えてしまった俺の脳髄に、甘い毒のように染み込んでいった。
もしかすると、彼女の言う通りなのかもしれない。抗うことをやめ、すべてを委ねてしまえば、この圧倒的な絶望は『至福』へと変わるのではないか。
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熱狂のイベントが終わり、日はすっかり落ちていた。
俺たちは機材や荷物を積み込み、地下駐車場に停められたワンボックスカーの後部座席にいた。
窓のスモークガラスが外の光を遮り、車内は完全な密室となっている。
俺は真緒菜の指示で上半身の服を脱がされ、シートの上に四つん這いになっていた。
背中から尻にかけて、昼間のイベントで真緒菜に容赦なく打ち据えられた乗馬鞭の跡が、赤いミミズ腫れとなって無数に走っている。ジンジンと熱を持ち、布が触れるだけでも痛みが走る状態だった。
「ふふっ……酷い傷ね。痛かった?それとも……?」
後部座席で俺を見下ろす真緒菜は、まだミラ准将の軍服アレンジ衣装のままだった。胸元が大きく開いたタイトなジャケットから、甘い香水の匂いが漂ってくる。
「い、痛かったです……ご主人、様……っ」
「嘘ね。貴様、大勢の豚どもの前で私に叩かれて、あの時すごく濡れた声を出してたじゃない。リングの心拍数も、異常な数値だったわよ?」
「あ……ぁ……っ」
図星を突かれ、俺は羞恥で顔を真っ赤にして俯いた。
「本当は『気持ちよかった』が正解でしょ?ただ、今日はよくできたわね。私の可愛い駄馬ちゃん」
真緒菜の手が、ミミズ腫れになった俺の背中を、羽で撫でるように優しくなぞった。
鞭を振るっていた時の冷酷さとは打って変わった、とろけるような甘い声。
ビクン、と俺の体が跳ねる。
「あっ……」
次の瞬間、背中の傷口に、温かく湿った感触が這った。
真緒菜が身を乗り出し、俺の背中の鞭の跡を、直接その艶やかな舌で舐め上げ始めたのだ。
「んっ……ちゅ……ぁっ……」
「ひぃっ!あ、真緒菜……さまっ……」
ヒリヒリとした痛みに、舌の滑らかな感触と唾液の冷たさが混ざり合い、脳天を突き抜けるような強烈な快感が背筋を駆け上がった。
彼女は赤いミミズ腫れを一つ一つ丁寧に辿り、舐め、時折軽く歯を立てて甘噛みをする。
「痛いことしてごめんなさいね。でも、これが私とあなたとの『絆』なの。さぁ、この絆をもっと深く、もっと強くしていくわよ」
「あぁっ……はぁっ、はぁっ……」
俺は快感に身をよじらせ、シートを力強く握りしめた。
痛めつけられ、尊厳を踏みにじられた後の、この極上の優しさ。
容赦のない『ムチ』を与えられたからこそ、今与えられている『アメ』の甘さが、麻薬のように俺の理性を完全に溶かしていく。
「ほら、こっちを向きなさい」
四つん這いになっていた俺の肩を掴み、真緒菜が強引に仰向けにひっくり返した。
彼女はそのまま俺の上に馬乗りになり、豊かな胸の谷間を俺の顔に押し付けるようにして密着してきた。
「よく耐えたご褒美よ。しっかり味わいなさい」
真緒菜の赤いリップが塗られた唇が、俺の唇を塞いだ。
先ほどの慰めるような愛撫とは違う、貪るような濃厚なキス。
彼女の舌が容赦なく俺の口内に侵入し、俺の舌を絡め取り、唾液を混ぜ合わせる。
「んっ……ちゅ……れろ……っ、んちゅ……」
「あ……ぁっ、んんっ……!」
息が詰まるほどの深い接吻。
俺も無意識のうちに腕を伸ばし、彼女の細い腰を抱きしめ返していた。
昼間、大観衆の前で俺を奴隷として蹂躙したこの女が、今、俺のためだけに極上の快楽を与えてくれている。
桃華が言っていた『飼われている方が気持ちいい』という言葉の意味が、頭ではなく、体全体で理解できた。
長いキスの後、真緒菜は銀の糸を引いて唇を離し、妖艶な笑みを浮かべた。
「ふふっ……出来の悪い部下ほど、かわいいわね。これからも私のために、たくさん恥をかいて、たくさん傷ついてちょうだい」
「……はい……っ。俺は、あなただけの……駄馬でいたいです……っ」
俺は完全にMの気質に目覚め、真緒菜の歪んだ愛情と圧倒的な支配に依存しきっていた。
プライドも、エリートとしての自我も、もはやどうでもいい。
俺はこの美しい教官に鞭打たれ、傷を舐められることだけを生きがいとする、完全な家畜へと成り下がったのだった。




