第41話 巣鴨コスプレ頂上決戦
「さあ、急ぎなさい。私の荷物持ちなんだから、遅れるなんて許さないわよ」
「は、はい……っ」
週末。俺、亜久嶋大輝は、両手に抱えきれないほどの大荷物を持たされ、熱気渦巻くイベント会場の通路を小走りで進んでいた。
今日やってきたのは『巣鴨コスプレ頂上決戦』という、コアなファンが集う中規模ながらも熱量の高いコスプレイベントだ。
首にはスカーフを巻き、その下には真緒菜から物理的に装着されたGPS内蔵のレザーチョーカーが隠されている。俺はもう、彼女の完全な奴隷であり、こうして休日に荷物持ちとして酷使されることも、抗えない日常になっていた。
「とりあえず、控え室の前に荷物を置いて。私は着替えてくるから、ここで待機していなさい。他の女に目移りなんかしたら、どうなるかわかってるわね?」
「しません……っ。ここで、待ってます」
真緒菜は俺を足蹴にするような冷ややかな視線を投げかけ、更衣室へと消えていった。
数十分後。
更衣室から出てきた彼女の姿を見て、俺は文字通り息を呑み、足がすくんだ。
「……どう?似合っているかしら」
そこに立っていたのは、深夜アニメ『鋼鉄のレクイエム』に登場する、訓練兵たちを容赦なくしごき抜く「鬼の教官・ミラ准将」だった。
黒と深緑を基調とした重厚な軍服を、限界まで大胆にアレンジした過激なスタイル。胸元が大きく開いたタイトなジャケットからは、豊かな谷間がこぼれ落ちそうに主張している。下半身は超ミニのタイトスカートに網タイツを合わせ、絶対領域と太もものラインが艶めかしく強調されていた。
そして何より、右手に握られた革製の乗馬鞭が、彼女の冷酷でサディスティックなオーラを完璧に引き立てていた。
「あ、あぁ……っ。凄く、綺麗だ……」
「言葉が足りないわね。ご主人様、でしょ?」
「っ……はい、ご主人様……。とても、お似合いです」
「ふふっ、よろしい。じゃあ、撮影エリアに行くわよ。ついてきなさい」
コツ、コツ、と軍靴のヒールを鳴らして歩く真緒菜の背中を、俺はただ首を垂れて追従するしかなかった。
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撮影エリアに到着するや否や、サークル『ナオマ』の周りには瞬く間に人だかりができた。
しかし、その空気は以前のような純粋な熱狂だけではなかった。先日のイベントでの「おなら騒動」がSNSで拡散され、界隈で大炎上していたからだ。遠巻きに面白半分でスマホを向ける野次馬や、心無い野次を飛ばす者も混じっている。
「おい、今日は漏らさないのかよ!」
下品な声が飛ぶ中、真緒菜は表情一つ変えず、冷徹な教官の笑みを浮かべて乗馬鞭を手のひらでピシャリと叩いてみせた。
「ふん……くだらない。私が放屁したから何だというの?だからどうしたと?」
凛とした、しかし絶対的な威圧感を放つ声が、周囲のざわめきを一瞬で黙らせた。
「生理現象を嘲笑うような低俗な豚は、私の部隊には不要よ。私のこの姿にひれ伏し、命を捧げる覚悟がある者のみ、ここに残りなさい!」
その毅然とした態度と、開き直りともとれる圧倒的な女王の振る舞いに、野次馬たちは気圧されて言葉を失った。そして、その場に残った狂信的なカメコたちは、彼女のブレないカリスマ性に完全に狂喜乱舞し、無数のフラッシュが嵐のように瞬き始めた。
「うおおおおおっ!ナオマ様、一生ついていきます!!」
「最高っす!鞭で叩かれたい……っ!」
そのSっ気全開の女王の振る舞いに、会場のボルテージは最高潮に達した。
少し離れた場所で荷物の番をしていた俺は、その光景を呆然と見つめていた。
あの絶望的な公開処刑を経てなお、一切怯むことなくファンを心服させてしまう。彼女の底知れぬ胆力と、狂気すら感じる堂々とした態度に、俺はただ圧倒され、深い感嘆を抱かずにはいられなかった。
こいつら、何もわかっちゃいない。この女の本当の恐ろしさも、俺がどんな目に遭っているかも……。
そんな風に、奴隷に落ちた現実から目を背け、僅かなプライドを保とうとしていた俺の耳に、真緒菜の冷酷な声が届いた。
「おい、そこのお前。私の荷物持ち」
「え……?」
「ぼーっとしてないで、こっちに来なさい」
真緒菜は鞭の先で俺を指し示し、大勢のカメラの前に出るよう命令した。
「な、何を……」
「いいから来いって言ってるの。それとも、ここで逆らう気?」
俺は震える足で、彼女の隣へと歩み出た。何十本ものレンズが一斉に俺の方へ向く。
「四つん這いになりなさい」
「……え?」
「聞こえなかった?お前は今から私の『馬』よ。這いつくばって、私の椅子になりなさい」
大観衆の面前での、あまりにも屈辱的な命令。
俺は顔面から火が出るような羞恥に襲われ、硬直した。だが、真緒菜の氷のような視線と、首に巻かれたチョーカーの存在が、俺の反抗心を完全にへし折っていた。
俺はガタガタと震えながら、冷たいコンクリートの床に両手両膝をつき、四つん這いの姿勢をとった。
「ふふっ、いい子ね」
真緒菜は俺の背中にドカッと体重をかけ、足を組んで座り込んだ。
「ぐっ……!」
「さあ、豚ども。これが私の新しい駄馬よ。しっかり撮りなさい」
フラッシュが一斉に焚かれる。
エリート社員であるはずの俺が、大勢のオタクどもの前で這いつくばり、女の椅子にされている。アイデンティティが粉々に砕け散るような極限の羞恥。
「ほら、もっとしっかり支えなさいよ!」
ピシィッ!!
「ああっ!」
真緒菜の振り下ろした乗馬鞭が、俺の尻を容赦なく叩き据えた。
革の鋭い痛みがズボン越しに走り、俺は無様な悲鳴を上げた。
「痛い?でも、あなたみたいな駄馬は、私がしごいてやらないと使い物にならないじゃない!」
ピシィッ!ピシィッ!
「ひぃっ!あぅっ……!」
痛い。痛いのに。
大観衆の前で尻を叩かれ、無様な声を上げる俺。その姿を見て、周囲のファンたちがざわめき始めた。
「うわ、マジかよ……ナオマ様に馬乗りされて、鞭で叩かれてる……」
「いいなぁ……俺もナオマ様の馬になりたい……」
「あいつ、めちゃくちゃ羨ましいぞ!」
……え?
羨ましい?俺が?




