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第4話 復元された極上写真

 オフィスに戻ると、通路の向こうから網代が歩いてくるのが見えた。

 今日も黒髪を後で一つに縛り上げ、地味眼鏡と地味メイクと地味ほくろ。


「お疲れ、網代」

「お疲れ様です、亜久嶋《あくしま》主任」

 抑揚のない声で挨拶を返し、彼女は足早に通り過ぎていった。相変わらずの愛想のなさだ。

 だが、今の俺には心に余裕がある。今夜、俺は誰かの人生の裏側を覗き見て、圧倒的な優越感と支配感に浸れるのだから。


 時計の針が定時を回った瞬間、俺は誰よりも早くデスクの片付けを始めた。

「あれ?亜久嶋主任、今日は早いですね」

「ああ、ちょっと野暮用があってね。残りの資料は明日朝イチでチェックしておくから、デスクに置いておいてくれ。それじゃ、お疲れ様!」

 同僚たちの驚いたような視線を背に受けながら、俺は足早にオフィスを後にした。


 +++


 自宅のドアを開けるなり、俺はネクタイを緩めながらリビングへと直行した。

 デスクの上のモニターは、スリープ状態から復帰すると、眩しい光とともにポップアップウィンドウを表示していた。


『ディープスキャン・データ復元が完了しました』


「よし……!」

 俺は小さくガッツポーズをし、すぐさまマウスを握りしめた。

 指定した保存先のフォルダを開く。

 そこには、復元されたデータが拡張子ごとに自動で振り分けられ、ずらりと並んでいた。


「まずは画像フォルダからだな」

 俺は椅子に深く腰掛け、息を呑んで「Images」と名付けられたフォルダをダブルクリックした。

 大量のサムネイルが、画面の上から下へと滝のように読み込まれていく。


「なんだ……?これは」


 一瞬、俺は自分の目を疑った。

 画面を埋め尽くしていたのは、予想していたような素人の生々しい自撮り写真や、隠し撮りされたような薄暗い画像ではなかった。

 現れたのは、プロのカメラマンがスタジオやイベント会場で撮影したかのような、超高画質のド派手なコスプレ写真の山だったのだ。


「コスプレイヤーか、ファンのハードディスク……?」

 俺はサムネイルの一つをクリックし、全画面表示に切り替えた。


 モニターに大写しになったのは、漆黒のタイトなハイレグ風レザーボディスーツに、深紅の裏地がついたロングマントを羽織った女性の姿だった。

 胸元と腰回りに金属装飾が施された、露出度と重厚感を兼ね備えた戦闘服。

 間違いない。大人気アニメ『漆黒のアルケミスト』に登場する、冷酷無比と恐れられる魔導帝国特務執行官のドS幹部キャラクター、エレノア・フォン・クライシスだ。


 そして、その衣装を身に纏っている女性の被写体力は尋常ではなかった。

 抜群のプロポーションと、こちらを冷酷に見下すような威圧感を放つ表情。

 派手なメイクとカラーコンタクトをしているが、顔の造形そのものが圧倒的に美しい。素人が趣味でやっているレベルを遥かに超えている。


「すごいな……。どこの有名レイヤーだ?」


 俺は次々と写真を送っていく。

 次は『神聖機巧《ディヴァイン・ギア》ヴァルキリー』の白とネオンピンクを基調とした超ハイレグのバトルスーツ。

 その次は『黄昏のルナティック・ドール』の深いスリットが入った真紅のベルベットドレスに、胸元が大きく開いたブラックレースのコルセット。

 次から次へと、きわどく過激な衣装を着こなす、超絶美麗なコスプレ写真が出てくる。


「なるほど。このハードディスクの元の持ち主は、相当な人気を誇るレイヤーってわけか」

 俺はモニターに映るその妖艶な姿に、思わず見入ってしまった。

 こんな美女が、カメラの前で惜しげもなく自分の肢体を晒している。その事実だけで、俺の中の覗き見趣味を満たすには十分な価値があった。


 写真をさらにスクロールしていく。

 ある一枚の写真で、俺の指がピタリと止まった。

 それは、エレノアの衣装を着た彼女の、顔のドアップ写真だった。

 冷たく見下すようなその視線。

 派手なアイメイクが施された右目。その目尻の横に、俺は見覚えのある「ある特徴」を見つけた。


「ん……?」

 俺はマウスのホイールを回し、その右目の部分を限界まで拡大した。

 モニターのドットが粗くなる中、そこにはっきりと写っていたのは――。


「二つの、泣きぼくろ……?」


 右目尻にある、特徴的な二つのなきぼくろ。

 俺の脳裏に、今日の昼間、オフィスですれ違った地味な銀縁眼鏡の同期の顔がフラッシュバックした。

『お疲れ様です、亜久嶋主任』

 感情の起伏を一切感じさせない、鉄面皮の堅物女。網代真緒菜。


「まさか……いやいやいや、そんなはずはない。あり得ない」

 俺は乾いた笑いを漏らしながら、急いで会社の社内ポータルサイトにアクセスし、社内報のページを開いた。

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