第34話 恐怖中の絶頂
俺のパソコン内にあった違法なデータ群が、すべて彼女のクラウドに送信されていたという絶望的な事実。
社会的な生殺与奪の権を完全に奪われ、恐怖で全身が硬直しているというのに、真緒菜は執拗な愛撫をやめようとはしなかった。
「や、やめろ……っ」
俺の震える右手を引き寄せると、彼女は艶やかな唇を開き、俺の指先をゆっくりと口内に含んだ。さらに執拗で妖艶な愛撫による攻めが続く。
「あっ……んっ……」
舌先がねっとりと指に絡みつき、吸い上げられる。恐怖で凍りつく脳とは裏腹に、背筋に強烈な快感が走り抜けた。
「んぷっ。怯えないで、亜久嶋くん。私は別に、あなたを警察に突き出したり、会社から追い出して破滅させたいわけじゃないの」
口内から俺の先端を解放した真緒菜は、俺の股間で甘く囁いた。
「破滅させたいわけじゃない……?じゃあ、何が目的でこんな……っ」
「私の本当の目的?」
真緒菜は妖艶に微笑み、俺の欲棒に語りかけた。
「わざと弱みを握らせて、あなたが一番高いところまで登るのを待ってたの。そこから突き落として、絶望する顔が見たかったから。そう!その顔よ」
「なっ……」
その信じられない告白に、俺は息を呑んだ。
「亜久嶋くん、私のプライバシーを覗いて、安全な場所から見下して興奮してたんでしょ?ふふっ、私もね……あなたに覗かれてる、私の恥ずかしい姿を見られてるって思うだけで、狂うほど気持ちよかったの……」
彼女の指先が、俺の内股から鼠径部へと滑っていく。
「お互い、最高の変態だね」
自身の異常性を嬉々として語るその顔は、間違いなく狂気に満ちていた。
自分が完全に彼女の手のひらの上で踊らされていたという事実。そして、他人の弱みを握って喜んでいた自分を遥かに凌駕する狂った欲望を持つ『理解を超えし怪物』に出会ってしまったこと。
それらを突きつけられ、俺は絶望し、恐怖で震えが止まらなくなった。
「やめろ……っ、離せ……!」
俺は恐怖に支配され、ガタガタと震えながら必死に身をよじって抵抗しようとした。
しかし、真緒菜の巧みなテクニックと愛撫によって、俺の体は抗えずに熱を帯び、腕に力が入らない。
「逃がさないわよ。亜久嶋くんは、私だけのものにするの」
その声には、強い独占欲と愛情が孕んでいた。
「どうして……俺なんだ。いつから、こんな狂った真似を……」
「きっかけはね……同期の瑞希さんの退職がきっかけよ」
その名前に、俺の心臓が大きく跳ねた。入社二年目の頃だ。俺の気に食わなかった同期の瑞希を、俺は巧妙な手口で社内で孤立させ、ミスを誘発し、徹底的に精神を追い詰めて自主退職へと追いやった。あの時、相手の尊厳がすり潰されていく様を安全圏から眺めるのは、極上の快感だった。
「みんなあなたの親切な嘘に騙されてたけど、泣き崩れる彼女の背後で、あなた一人だけが悦びに歪んだ真っ黒な笑みを浮かべていたの。私はそれを見逃さなかった。あの時、瑞希さんを悪意100%で心理的にいたぶり、支配して楽しむ亜久嶋くんの姿を見た瞬間……」
真緒菜の瞳が、恍惚とした、熱を帯びた光を放った。
「『ああ、この人に極限まで追い詰められてみたい。そして最後に逆転して、私だけのペットとして飼い殺したい』って……私の中に眠っていた歪んだマゾヒズムとサディズムへ同時に火がついちゃったの」
なんという狂気だ。俺が他人の弱みを握って優越感に浸っていたあの頃から、この女は俺のその『悪意』すらもエサにして、自分の性癖を満たすための完璧なシナリオを描いていたというのか。
全ての真実を知り、俺は心底恐怖した。
だというのに。
「ひっ……あっ、ああっ……」
俺の下半身は、真緒菜の執拗な愛撫によって、無様に大きく膨張しきっていた。
逃げ出したいほどの恐怖と絶望に支配されているはずなのに、彼女の体から放出される熱に触れられているという事実だけで、体が勝手に快楽を求めてしまっている。
その滑稽で惨めな俺の姿を見た真緒菜は、妖艶な笑みを浮かべて言い放った。
「心は恐怖に怯えていても、体は正直な反応ね。ご主人様」
かつて俺が彼女に浴びせかけた屈辱的な言葉を、最悪の形でそっくりそのまま返された。
「ちがっ……これは……っ」
言い訳をする間もなく再度、真緒菜の顔が俺の股間へと沈み込んだ。
「んっ……!?あっ、あぁっ!」
恐怖で硬直する俺の下半身を、彼女は口で徹底的に攻め立て始めた。
「んっ……んぬっっ……ぷっ」
温かく、ぬめるような粘膜の感触と、舌先の巧みな動き。それは、俺がこれまでの人生で味わったことのない、強烈で暴力的な快感だった。
「やめ……やめろぉっ……!」
俺はシーツを強く握りしめ、必死に腰を引こうとするが、彼女の腕にしっかりとホールドされて逃げられない。
自分のすべてが暴かれ、社会的な地位もプライドも完全に粉砕されたという圧倒的な恐怖。
それと同時に押し寄せる、逃れられない極上の快感。
絶望の中、相反する濁流に飲み込まれ、俺の理性は完全に焼き切れた。
「んぷっ、んぷっ、んぷっ」
「ああっ……!い、いく……っ、だめっ……!」
もはや抵抗する気力すら失い、俺は快楽の波に抗うことなく無様に腰を跳ね上げた。
快感と恐怖が入り混じる絶望の中、俺は彼女の口の中でぶちまけさせられた。
「んっ……ちゅ……」
真緒菜は一滴残らず俺のすべてを飲み込むと、妖しく唇を舐めずりながら顔を上げた。
その瞳には、獲物を完全に仕留めた絶対的な支配者の光が宿っている。
「ふふっ……ごちそうさま。さあ、ご主人様ごっこはこれでおしまい。これからは、一生私の言うことを聞いてね。私の可愛いオモチャ殿」
俺は荒い息を吐きながら、虚ろな目で天井を見つめていた。
自分が他人の弱みを握る絶対的な支配者だと思い込んでいた俺は、実は最初から彼女の巨大な鳥籠の中で踊らされていた、ただの滑稽なピエロだったのだ。
俺は完全に、網代真緒菜という怪物の所有物(奴隷)へと堕ちたのだった。




