第29話 パシフィコ横浜
日曜日。
完全事前登録制のプレミアム撮影イベント『プラチナ・フォト・サミットinパシフィコ』が開催される、パシフィコ横浜。
一般参加者よりもハイエンドな機材を持つカメラマンや有名レイヤーが多数集まるこの特別な空間で、俺は開場前の薄暗い裏通路に立っていた。
先日の『ナオマおなら騒動』の噂がネットで少しずつ囁かれ始め、今日の真緒菜はひどく怯えて弱っていた。「気にするな、俺がついているから」と優しいマネージャーを演じてフォローしたが、もちろんその状況を仕組んだのは俺だ。
真緒菜を優しく勇気づけ、更衣室へ送り出してからしばらく経った時。
「あははっ!完璧にやってやりましたよ、亜久嶋さん!」
派手な金髪にギャルメイクを施した濱岸桃華が、俺の前にやってきて得意げに笑った。
「お疲れ様、桃華ちゃん。見つからずに上手くやれたみたいだね」
「当然です☆あんなお邪魔女、私にかかればイチコロですよ。アイツがどんな顔をするか今から楽しみです!」
桃華はケラケラと笑いながら、俺の腕に馴れ馴れしくタッチしてきた。
「これで今日の主役は間違いなく私ですね!亜久嶋さん、私の親衛隊として、これからもバッチリ働いてくださいねっ☆」
「ああ、任せておいてよ」
俺は愛想の良いマネージャーの笑顔を顔に貼り付けたまま、内心でこの底抜けに頭の悪い女を嘲笑っていた。
(親衛隊だと?馬鹿な女だ。承認欲求と嫉妬心で目が曇り、自分が俺のサディズムを満たすためのただの都合のいい駒にされていることにも気づいていない)
桃華を利用して、真緒菜の衣装を不完全なものにする。
すべては、俺の完璧な支配のシナリオを彩るためのスパイスに過ぎない。
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桃華と別れた後、俺は女子更衣室の出口付近で待機していた。
やがて、人目を忍ぶようにして、真緒菜が更衣室から飛び出してきた。彼女は頭からすっぽりと大きめのロングコートを羽織り、前を両手で必死に掻き合わせている。
その顔面は蒼白で、唇は小刻みに震えていた。
「亜久嶋さん……っ!」
「どうしたんだい、網代。もうすぐ開場時間だぞ」
「衣装が……衣装の一部がないんです……っ!」
真緒菜は涙目を浮かべ、パニックに陥った声で訴えかけてきた。
「今日着るはずだった『氷華の戦乙女』の、氷雪の女王フリージアの衣装……。体全体を覆う雪をイメージしたレースの布地だけが、どこにもなくて……」
「レースがないと、どうなるんだ?」
俺がわざとらしく聞き返すと、真緒菜は屈辱に顔を歪め、コートの隙間をわずかに開いて見せた。
「……っ!」
俺は思わず息を呑んだ。
氷の結晶をモチーフにした透明感のあるクリア素材のビスチェと、極端に丈の短いアシンメトリーなスカート。本来であれば、その上に雪のようなレースの布地が重なり、上品な露出度になるはずなのだ。
しかし、レースがない今の状態では、豊かな胸の谷間も、くびれたウエストも、網タイツに包まれた太ももも、すべてが剥き出しになっている。紐の下着に毛が生えた程度の、あまりにも過激すぎる姿だった。
「これじゃ……とても人前には出られません。お願いです、今日のイベントは辞退させてください……っ」
真緒菜は泣きそうな声で俺に懇願してきた。
会社では俺のミスを容赦なく論破するあのエリート女が、今、俺に全てを委ねてすがりついている。
「辞退?何を言っているんだ。君はプロのカリスマレイヤーだろう?」
「でも、こんな格好……っ」
「このイベントは完全事前登録制のプレミアム撮影会だ。君のファンたちは、高いチケット代を払って『ナオマ様』を撮りに来ているんだぞ。今から欠席すれば、彼らを裏切ることになる」
俺はあくまで「専属マネージャー」としての正論を振りかざし、彼女の退路を塞いでいく。
「それとも、自己管理もできない無責任なレイヤーだって、会社の人間に言いふらしてやろうか?あの写真集の画像と一緒に」
「ひっ……!」
真緒菜の肩が大きく跳ねた。
「あるものだけで出るしかない。プロなら、この状態でファンを満足させてみせろ。さあ、どうする?このまま逃げ出して全てを失うか、それとも俺の指示に従うか」
究極の選択を突きつけられ、真緒菜はギュッと目を瞑り、ポロポロと涙をこぼした。
「うぅ……っ、出ます……出ますから……っ」
自らの意思で(実際は俺に誘導されて)「過激な衣装のまま人前に出る」と決断させた瞬間。彼女の心に、これまで以上の深い絶望と服従が刻み込まれたのが手にとるようにわかった。
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「ほら、コートを脱げ。ブースへ向かうぞ」
更衣室エリアから一般通路へ出る手前で、俺は容赦なく命令を下した。
真緒菜は羞恥で耳の裏まで真っ赤に染め上げながら、震える手でロングコートを脱ぎ捨てた。
透明なビスチェと極端に短いスカート。露出面積が異常に高く、シルバーのピンヒールサイハイブーツがさらに彼女のグラマラスな脚を強調している。
「あ……ぁ……っ」
一般参加者や他のレイヤーたちが行き交う通路。
真緒菜が一歩足を踏み出すたびに、周囲から驚きと欲望の混じった視線が突き刺さる。
「おい、見ろよ……あのレイヤー、めちゃくちゃエロくないか?」
「布の面積バグってない?最高なんだけど」
すれ違う男たちの下品なざわめきが聞こえるたび、真緒菜は「ひっ」と小さな悲鳴を上げ、必死に両腕で胸元や腰回りを隠そうと身を縮こまらせた。
だが、隠そうとすればするほど、その不自然なポーズが逆に彼女の豊かな胸の膨らみや、腰の滑らかな曲線を際立たせてしまっていた。
「ほら、堂々と歩けよ。ナオマ様だろう?」
「うぅ……っ、見ないで……っ、恥ずかしい……っ」
涙目で足元を見つめながら、ガタガタと震える細い背中。
そんな彼女の一歩後ろを、俺は堂々と歩いていた。
この美しい美術品のような女が、今、大勢の男たちの視線に晒されて羞恥に震えている。だが、その原因を作り出し、彼女の逃げ道を完全に塞いで、こうして自分の思い通りに歩かせているのは俺なのだ。
他の男どもは、ただ指をくわえて見ていることしかできない。
だが俺は、この女の生殺与奪の権を握り、完全に支配している。
「くくっ……」
俺は真緒菜の震える白い背中を見つめながら、圧倒的でサディスティックな優越感にどっぷりと浸り、至福のパレードを楽しんでいた。




