第24話 合同撮影
「桃華さん、お声がけありがとうございます。ナオマも、桃華さんとのコラボをずっと楽しみにしていましたから、ぜひお願いしますよ」
俺が一歩前に出て予定通りに快諾すると、真緒菜はビクッと肩を震わせ、すがるような目で俺を見上げてきた。
『やめて……っ』と、彼女の瞳が訴えかけている。
だが、俺は誰にも見えない角度で冷酷な視線を返し、無言で彼女の背中を強く押した。
「ほら、ナオマ様。ファンのみんながお待ちかねだぞ」
「あっ……うぅ……っ」
真緒菜は逆らうことを諦め、引きつった笑みを浮かべて桃華の隣に並んだ。
『電脳星くず☆キララ』というアニメの中で、桃華演じるキララは表向きは絶大な人気を誇るあざといアイドルだが、裏では敵を容赦なくハッキングして物理的に粉砕する過激なヒロインだ。
対するミス・マーベラは、次々とウイルスを放ち、世界征服を企むセクシーで冷酷な女の悪役。
設定上は、圧倒的な力を持つ悪役のマーベラがヒロインのキララを見下し、苦しめる構図になるはずだった。
しかし、今ここで繰り広げられている現実は、その設定とは真逆の、あまりにも残酷で滑稽なものだった。
「じゃあナオマ様、私が上からステッキで狙うから、マーベラがやられて悔しがってる感じのポーズ、お願いしまぁす☆」
桃華が意地悪な笑みを隠そうともせず、無茶な要求をしてくる。
「え……?マーベラは、そんな無様な……」
真緒菜が戸惑っていると、俺はすかさず彼女の耳元に顔を寄せた。
「俺の用意したシナリオ通りに動け。もっと足を広げて、這いつくばるようにしろ。キララに踏みつけられる惨めな悪役を演じきるんだ。じゃないと、会社で……わかるよな?」
「ひっ……!」
俺の指示通りに、真緒菜は屈辱で顔を真っ赤に染めながら、ゆっくりと床に膝をついた。
蛍光色に発光する網タイツに包まれた脚を、公衆の面前で無様に広げさせられる。
へそ出しのキャミソールからは豊かな谷間がこぼれ落ちそうになり、彼女は涙目で桃華を見上げるという、圧倒的に過激で屈辱的なポーズを強要された。
「キャハハッ、最高でぇす☆じゃあ次は、マーベラらしくキララを威圧するポーズをお願いしまぁす!」
散々惨めなポーズをとらせた後、桃華が次の指示を出す。
「威圧……?」
「しっかり腰を落として、お尻を突き出して威圧しろ。セクシーな悪役なんだろ?」
俺が冷酷に告げると、真緒菜は恥辱に耐えながら、カメラに向かって背を向けた。
そして深く腰を落とし、発光する網タイツに包まれたお尻を突き出しながら、肩越しに冷徹な視線を送る威圧的なポーズをとった。
――その瞬間だった。
桃華は勝ち誇ったようなあざとい笑顔をカメラに向け、キーボードをイメージした長いステッキを動かした。
ステッキの先端、小型スピーカーが密かに組み込まれた部分が、無防備に突き出されている真緒菜のお尻のすぐ近くへと向けられる。
(よし……そこだ)
少し離れた場所からその完璧な構図を見下ろしながら、俺はポケットの中に忍ばせたスマートフォンの画面を指先でなぞった。
Bluetoothはすでに桃華のステッキのスピーカーに接続されている。
大勢のカメラ小僧どもが、威圧的なポーズをとるセクシーなミス・マーベラに向かって、無数のフラッシュを浴びせかけている。
この熱狂の中心で、あの完璧なエリート女が、これからこの世で最もみっともない公開処刑を受けるのだ。
俺の脳髄に、痺れるような全能感と悦楽が駆け巡った。
+++
完璧なタイミングだ。
俺はポケットの中で、スマートフォンの再生ボタンを強く押し込んだ。
ブブォッ……ブリュリュリュリュッ!!
会場の電子音や歓声を一瞬で切り裂くような、生々しく、そして巨大な「放屁の音」が響き渡った。
音源は間違いなく、真緒菜のお尻のすぐ近く――桃華が突き出しているステッキの先端からだ。
「え……?」
真緒菜は威圧的なポーズをとったまま、何が起きたのか理解できずに固まった。
周囲で嵐のように鳴り響いていたシャッター音が、ピタリと止む。数秒の静寂の後、カメコたちの間にどよめきが広がった。
「お、おい……今、鳴ったよな?」
「うわ、マジかよ……ナオマ様が……?」
オタクたちがざわめく中、桃華の親衛隊たちがわざとらしく鼻をつまんで騒ぎ立て始めた。
「うわーっ、くさっ!マーベラがおならしたー!」
「すげえ音!カリスマぶってても、中身はただの臭い女かよ!」
「ナオマ様、撮影中にかますなんて図太すぎでしょ!」
ファンたちの容赦ない野次が飛び交う。桃華も「きゃあ、マーベラったらそんな攻撃も持っていたのね。信じられなーい☆」と大げさに驚いてみせ、周囲の嘲笑をさらに煽っていく。




