第21話 机の下
「目線くださーい!」
「ナオマ様、こっちにもお願いします!」
販売のピークが過ぎると、ブースの前はちょっとした撮影スペースと化していた。
真緒菜はパイプ椅子に座ったまま、カメラを構えるファンたちに向けて、ミス・マーベラらしい挑発的なポーズをとっている。
俺はその隣で、ふと、どす黒い嗜虐心を思いついた。
公衆の面前で、こいつをどこまで追い詰められるか。
周囲には何十人もの熱狂的なファンがいる。そんな中で、俺がこいつを秘密裏にいたぶったら、一体どんな面白い顔をするだろうか。
俺はポスターで前張りされた机の下にそっと右手を潜り込ませた。
そして、隣に座る真緒菜の太ももへと手を伸ばした。
「……っ!?」
真緒菜の身体が、ビクンと大きく跳ねた。
俺の手が、蛍光色に発光するLEDラインが仕込まれた網タイツの感触を捉える。
俺は容赦なく、その網タイツの網目を指先で強くつまみ、肌から数センチ引っ張り上げた。
「んっ……」
「おっと、ナオマ様、少し表情が硬いんじゃないか?ファンのみんなが最高の笑顔を待ってるぞ」
俺は表面上は愛想のいいマネージャーを演じながら、ファンに向かって笑顔を振りまいた。
そして、引っ張り上げていた網タイツから、パッと指を放した。
――パチンッ!
ゴムが弾ける鋭い音が、ブースの周囲に響いた。
「っぁ……!」
真緒菜は痛みに顔を歪め、短く声を漏らした。
太ももの柔らかな肌を直接弾かれた痛みに、彼女の瞳には一瞬で涙が滲む。
「あ、コホン!すいません、ちょっと乾燥してて。ゴホンッ!」
俺はすかさず大きな咳払いをして、その音をごまかした。
周囲のオタクどもは、撮影に夢中で机の下の出来事など全く気づいていない。
「ナオマ様、大丈夫ですか?」
「なんだか、いつもより表情が色っぽいというか、苦しげな感じが逆にたまらないっす!」
ファンたちが、無知な歓声を上げる。
真緒菜は太ももの痛みに耐えながら、必死に口角を上げて作り笑いを浮かべた。
「え、ええ……大丈夫よ。さあ、もっと撮りなさい……愚民ども」
震える声でキャラクターのセリフを紡ぐ真緒菜。しかし、机の下では俺のズボンの裾をギュッと掴み、涙声で微かに囁いてきた。
「亜久嶋さん……お願い、やめて……っ。痛いし、脚に跡が残っちゃう……っ」
だが、俺のいたぶりはそれだけでは終わらない。
俺は机の下で、今度は彼女の膝裏のデリケートな部分の網タイツをつまみ上げ、再び強く引っ張った。
「やっ……んっ……」
小声で抗議する真緒菜。
俺は少し身を乗り出し、彼女の耳元に顔を近づけた。
「おい、真緒菜。もっとファンサービスしろよ。ただ座ってるだけじゃつまらないだろ」
「あ、亜久嶋さん……っ、これ以上は……」
「自分の指をくわえながら、もっと挑発的なポーズをとって客を集めるんだ。できないとは言わせないぞ。ほら、やれ」
俺が耳打ちで命令を下すと同時に、引っ張っていた網タイツを再び弾いた。
――パチンッ!
「ああっ……!」
「ゴホンッ!いやあ、喉の調子が」
俺が咳払いでごまかす中、真緒菜は痛みに涙目を浮かべながら、ゆっくりと右手の指先を自分の口元へ運んだ。
そして、派手なリップが塗られた唇で、自らの人差し指を艶めかしくくわえ込んだ。
蛍光色に光るへそ出しの衣装で、胸の谷間を強調するように身を乗り出し、涙目で指をくわえる。
それは、高飛車な悪役キャラクターというよりも、飼い主に逆らえない従順なペットのような、あまりにも淫靡なポーズだった。
「うおおおおおっ!!」
「今日のナオマ様、ヤバい!エロすぎる!」
「こっち目線ください!!」
ファンたちの熱狂が爆発し、シャッター音が嵐のように降り注ぐ。
真緒菜は羞恥と痛みに顔を真っ赤に染めながら、大勢の男たちの視線に晒され、俺の命令通りに指をくわえ続けている。
会社では絶対に隙を見せない、あの完璧な鉄面皮のエリート女が、今、公衆の面前で俺に完全におもちゃにされているのだ。
「くくっ……最高だ、真緒菜。その惨めな顔、たまらないよ」
俺は机の下で彼女の太ももを撫で回しながら、暗い優越感に浸りきっていた。
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その時、ふと視線を感じて顔を上げると、カメラの砲列の最前列に、一際ガタイの良い男が陣取っているのが見えた。
前回のイベントでも、最前列でファンたちを仕切っていたあの男――伸治だ。
彼はプロ仕様の超望遠レンズを構え、俺と真緒菜が座るブースに真っ直ぐレンズを向けている。
他のオタクどもが、ただ推しの色気に鼻の下を伸ばしているのとは違い、伸治の立ち振る舞いにはどこか異質なものがあった。
表面上は、ナオマの隣にふんぞり返る俺に対して嫉妬しているような険しい表情を作っている。だが、その巨大なレンズの奥で光る眼光は、単なる嫉妬とは違う、もっと冷徹で機械的なものに思えた。
(……なんだ、あいつ。ただの取り巻きかと思っていたが、やけに堂々としているな)
伸治のレンズは、真緒菜の顔だけでなく、隣で薄笑いを浮かべる俺の顔や、俺が不自然に動かしている肩口のアングルまでも、正確に捉えようとしているように見えた。
まるで、俺のサディスティックな行動のすべてを高画質で記録し、アーカイブしているかのような気味の悪さ。
「まあ、いい」
俺はすぐにその違和感を脳内から切り捨てた。
所詮は、オタクの集まりの中で少しばかり仕切りたがりなだけの連中だ。俺がナオマのプライベートな弱みを握り、完全に支配しているという事実の前には、どんな熱狂的なファンも無力なのだから。




