第20話 アキバ・電脳ナイトフェスタ
翌週の休日。
秋葉原の街は、昼間から異様な熱気に包まれていた。
俺と網代真緒菜が向かったのは、秋葉原UDXアキバ・スクエアとその屋外デッキを利用して開催される都市型イベント『アキバ・電脳ナイトフェスタ』だ。
SFやサイバーパンク、ダークファンタジー系に特化したこのイベントは、夜間からLEDライティングを駆使した撮影がメインとなる。まだ日が高い午後だというのに、会場周辺にはキャリーケースを引いたレイヤーや、バズーカのようなレンズを抱えたカメラ小僧どもが群れをなしていた。
「さあ、着いたぞ、真緒菜。今日は俺が『専属マネージャー』として、君のサークル参加を完全にサポートしてやるからな。感謝しろよ」
「……はい。ありがとうございます、亜久嶋さん」
俺が余裕の笑みを浮かべて背中を叩くと、真緒菜は地味な私服のまま反射的に身をすくませ、消え入るような声で答えた。
会社では俺を容赦なく論破して見下してくる鉄面皮のエリート女が、俺の隣で怯えきった小動物のように俯いて歩いている。この絶対的な主従関係の逆転こそが、俺の日常に極上のスパイスを与えてくれている。
「とりあえず、更衣室で着替えてこい。今日の衣装は、俺が指示した通りに持ってきたんだろうな?」
「はい……『電脳星くず☆キララ』の、ミス・マーベラの衣装一式です」
「よし。あの衣装を着て、大勢の男どもの前で愛想を振りまくんだ。せいぜい頑張れよ」
俺の言葉に、真緒菜は屈辱に顔を歪めながらも、無言で頷いて更衣室へと消えていった。
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数十分後、サークルのブースが立ち並ぶ屋内の展示ホール。
俺が配置図を見ながら『ナオマ』のスペースで準備を進めていると、着替えを終えた真緒菜がやってきた。
「あ、あの……着替え、終わりました……っ」
「……ほう」
俺は準備の手を止め、彼女の姿を上から下まで嘗め回すように見つめた。
コンピュータウイルスを擬人化した悪役キャラクター、ミス・マーベラ。
蛍光パープルと緑を基調とした、サイバーパンク風の過激な衣装だ。
上半身は、豊かな胸の谷間とウエストのくびれが露わになった、極端に丈の短いへそ出しのキャミソール。そして下半身は、太ももからつま先までを覆う網タイツなのだが、ただの網タイツではない。網の結び目に極小のLEDラインが仕込まれており、暗い会場内で怪しく発光する特殊な仕様だ。
「素晴らしいじゃないか。会社じゃいつも地味なスーツで体型を隠してるくせに、本当はこんな露出の激しい格好で男どもの視線を集めたくて仕方なかったんだな?」
「ちがっ……そういうんじゃ……っ」
「否定するなよ。俺の指示に逆らって会社にバラされるのが怖いからって、こんな恥知らずな衣装を素直に着てくるんだからな。君は本当に従順で可愛いオモチャだよ」
「うぅ……っ。でも、こんな明るい場所で、亜久嶋さんにじっくり見られるなんて……恥ずかしすぎて、頭がおかしくなりそうです……っ」
真緒菜は羞恥で顔を真っ赤に染め、へそ出しの腹部を両手で隠すように身をよじらせた。
俺は鼻で笑い、彼女をパイプ椅子に座らせた。
「さあ、販売開始の時間だ。俺は隣で売り子を手伝ってやるから、君はファンサービスに徹しろ。いいな?」
「は、はい……」
ブースの机の上には、先日俺が自宅のマンションで撮影した写真を使用したROMメディアや、急造の写真集が山のように積まれている。
あの日、魔法少女のセーラー服を着せて、涙目で俺に服従する姿を撮影した極上のデータたち。それを、真緒菜自身が徹夜で編集し、業者に特急で印刷させたものだ。
「ナオマ様!新刊セット、一つお願いします!」
「ROM、全部ください!」
「今日のミス・マーベラ、マジで最高です!見下すような視線がたまらないっす!」
開場のアナウンスと共に、サークル『ナオマ』のブースには、あっという間に黒山の人だかりができた。
押し寄せるオタクどもが、俺の撮影した写真集を次々と購入していく。
「はい、ありがとうございます。新刊セットですね」
真緒菜は必死に表情を取り繕い、カリスマレイヤーとしての『冷徹でドSな悪役』の笑みを浮かべながら、購入者たちに商品を渡していく。
その横で現金の受け渡しを担当しながら、俺の腹の底からはどす黒い笑いが込み上げてきていた。
こいつら、何もわかっちゃいない。
この写真集の中で、見下すような妖艶な表情でポーズを決めている完璧な女。
こいつらが何千円も払ってありがたがっているこの被写体は、撮影中、俺の足元に這いつくばり、俺の言いなりになって泣きながらポーズをとっていた哀れな奴隷なんだ。
そして今、この瞬間も。こいつらが神のように崇めている『ナオマ様』の生殺与奪の権を握り、隣に座って完全に支配しているのは、他でもない俺なのだ。
俺が自宅の密室でいたぶりながら撮影した写真が、飛ぶように売れていく。
自分が作り上げた「作品」が評価されているという歪んだ自己顕示欲と、「こいつらの推しは俺のオモチャだ」という絶対的な優越感。
俺は周囲のオタクどもを見下しながら、これ以上ないほどの全能感に酔いしれていた。




