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第19話 ファインダー越しの服従

「……綺麗だよ、網代《あじろ》。息を呑むくらいにな」

 俺は三脚に据えた高級一眼レフカメラから顔を上げ、心からの賛辞を口にした。


「あ……ありがとう、ございます……っ」

 真緒菜《まおな》は羞恥に頬を染め、身の丈ほどある巨大なハンマーの小道具の陰に隠れるようにして身をよじらせた。

 彼女が身に纏うのは、短すぎるマイクロミニ丈のフリルスカートと、お腹が丸出しになったセーラー風ノースリーブトップス。

 俺が用意したアンブレラ付きのストロボの光を受けて、ニーハイソックスとスカートの間から覗く白い太ももが眩しく自己主張している。


「本当に、信じられないくらい似合っているよ。あの地味な銀縁眼鏡の裏に、こんな極上の素顔が隠されていたなんてな」

 俺はゆっくりと彼女に近づき、その派手なメイクが施された右目の目尻、二つの泣きぼくろを指先でそっと撫でた。

 ビクッ、と真緒菜の肩が跳ねる。


「でもさ」

 俺は指先を彼女の顎へと滑らせ、クイッと強引に上を向かせながら、わざと冷ややかな声色に切り替えた。

「昨日会社で、俺の計算ミスを皆の前でネチネチと指摘してきた時は、ずいぶんと偉そうだったなぁ?」


「あっ……」

「『初歩的なミスは二度とないようにしてください』だったか?うちのエースである網代主任は、俺に対して随分と立派な口を利くじゃないか」


 真緒菜の顔からスッと血の気が引き、その瞳に明らかな恐怖の色が浮かんだ。

「そ、それは……亜久嶋《あくしま》さんが、会社では怪しまれないように今まで通りにしろって……っ」


「ああ、指示したさ。そして君は完璧に命令をこなした」

 俺は彼女の怯えた顔を至近距離で見下ろしながら、腹の底から湧き上がる歓喜の笑みを隠さなかった。

「俺はね、会社で君からあんな厳しい仕打ちを受けるからこそ、こうして二人きりの密室で君を完全に屈服させる瞬間がたまらなく心地よく感じるんだよ。あのオフィスでの冷徹な顔を思い出すだけで、今の君の惨めな姿が何倍も極上に思える」


 俺の言葉に、真緒菜は絶望と屈辱でギュッと唇を噛み締めた。


「さあ、撮影を始めるぞ。あっちのスクリーンの前に立て」

 俺は彼女を突き放し、カメラの背後に戻ってファインダーを覗き込んだ。

「まずは、君が自費出版で売り捌いていたあの写真集、あれと全く同じポーズを取れ」


「えっ……あの、ポーズ、ですか……?」

 真緒菜が泣きそうな声で聞き返してくる。


「そうだ。男どもに媚びを売って、自分の身体を切り売りしていたあの卑猥なポーズだよ。ほら、早くしろ。それとも、会社であの写真をバラ撒かれたいのか?」


「や、やめてください……っ!やります、やりますから……っ!」

 真緒菜は悲鳴のように答え、巨大なハンマーをスクリーンの中央に構え、ゆっくりとポーズを取り始めた。

 極端に短いスカートの裾を指先でつまみ上げ、お腹の丸出しになったセーラー服の胸元を強調するように、上半身を少し前傾させる。


 カシャッ、カシャッ、と、静かなリビングに高級一眼レフの無機質なシャッター音が響き渡る。


 ファインダー越しに彼女の姿を追っていると、俺の脳裏に「ある記憶」が鮮明に蘇ってきた。

 それは、秋葉原のジャンクショップで買った中古HDDを深夜の自室で復元し、そこに眠っていた彼女の秘密の写真を初めて見つけ出した時の、あのどす黒い興奮だ。

 あの時、モニター越しに見下ろしていただけの絶対的な優越感が、今はこうして現実のものとなり、俺の目の前で怯えて震えている。


「違う、もっと腰を突き出せ。スカートの中が見えそうなくらいにな」

 記憶と目の前の現実がリンクし、俺の口から出るポージングの指示は、次第にサディスティックな熱を帯びていった。


「は、はい……っ」

 真緒菜は言われるがまま、羞恥で耳の裏まで真っ赤に染め上げながら腰の角度を深くした。


「表情が硬いぞ。そんな怯えた顔で写真集に載っていたのか?違うだろ」

 俺はカメラから顔を離し、ツカツカと真緒菜の目の前まで歩み寄った。

「もっと、俺の中を見つめる表情を作れ。完全に俺の所有物として、俺に服従しているっていう悦びに満ちた顔だ」


「そんな……っ、細かく言われても……どうすればいいか……」

「わからないなら、俺が直接教えてやる」

 俺は彼女の細い腰に直接手を回し、強引にその身体を引き寄せた。


「あっ……!」

 俺の指先が、セーラー服とスカートの間から露出している彼女の素肌に直接触れる。

 ビクン、と彼女の身体が跳ね、その肌は微かに熱を帯びていた。

「ふふっ……心は恐怖に怯えていても、体はずいぶんと正直な反応だな」

「そ、そんなこと……っ」

「否定しても無駄だ。ほら、顎をもっと引け。目はそらすな。俺の靴を舐める犬のように、ご主人様を見上げるんだよ」

「うぅ……っ、は、はい……ご主人、さま……っ」


 俺は彼女の身体に直接触れながら、指先一つ、視線の一つに至るまで、細かく演技指導をしていく。

 少しでも俺の気に食わない動きをすれば、会社での立場をちらつかせてネチネチと言葉で徹底的にいたぶる。

 自宅という誰の目も届かない完全なプライベート空間。

 シャッターを切るたびに、俺が彼女の身体に触れてポーズを直すたびに、二人の間にあった物理的な距離と、心理的な距離が、じわじわとゼロに近づいていくのがわかった。


「ほら、もっと顔を上げろ。いい子だ」

「うぅ……っ、はい……ご主人、さま……っ」

 涙目で俺を見つめ返し、従順に身を委ねてくる真緒菜。

 フラッシュの光がリビングを満たす中、俺は己の欲望の赴くままに、この美しい従属者をいたぶり尽くす。


 だが、ファインダー越しに彼女を見下ろす俺の全能感の裏側で、ふと、ある考えが頭をよぎった。


「うぅ……っ、はい……ご主人、さま……っ」

「……」


 怯えながらも俺を見つめる表情を作る彼女の、その従順な瞳の奥。

 それを見つめていると、俺の脳裏にある記憶がフラッシュバックした。あのジャンク屋で買ったHDDを復元した時に見つけた、大量の隠し撮りフォルダだ。オフィスでパソコンに向かう姿や、通勤電車で無防備に眠る姿など、俺の日常を捉えた写真が山のように保存されていたことを思い出す。


 あいつが俺に気があるのは、間違いなく事実だ。

 だからこそ、これほどまでにすんなりと俺の理不尽な命令に従っているのではないか?

 もしかして、俺が弱みを盾に脅して服従させているつもりで、実は俺自身が彼女の望み通りの展開に進んでいる可能性もあるのではないか――?


 そんな疑惑が、冷水のように脳髄へ垂らされた。

 だが、俺はすぐに頭を振り、その考えを心の奥底へと固く封印した。


 いやいや、そんなはずはない。馬鹿げている。


 目の前で極端に短いマイクロミニ丈のスカートとセーラー服を着て、羞恥と屈辱に震えながら俺にひれ伏している彼女。この圧倒的な服従と支配の現実を前にして、俺が踊らされているなどというまぬけなことはあるはずない。


「ほら、もっと顔を上げろ。俺の目から視線を逸らすな」

「は、はい……っ」


 俺は彼女の細い顎を指先で強引に持ち上げ、怯えて濡れた瞳を至近距離で見下ろした。そして、この空間の絶対的な支配者としての笑みを浮かべる。


「いい子だ……真緒菜《まおな》」


 これまで『網代』と呼んでいた苗字を捨て、彼女が完全に俺の所有物であることを刻み込むように、初めて下の名前で呼んでやった。


「あ……ぁ……っ」


 真緒菜の肩が小さく跳ね、涙目のまま抗うことなく俺に身を委ねてくる。

 フラッシュの光が静かなリビングを満たす中、俺はわずかに湧いた疑念を完全に忘れ去り、己の欲望の赴くままにこの美しい従属者をいたぶり尽くしていた。

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